第41話 黒衣の天使
◇
レイピアで敵機の頭部を貫く、頭を失った機体は後ろに力なく倒れていく……もうどれくらい倒しただろうか、すでに正確な数はわからなくなっている……
「100機いた敵軍が一時で全滅だと……いくら大陸最強のエリシア軍でも凄すぎる……特にあの漆黒の機体……トリプルハイランダーとは化物か……」
言霊箱から、同行している友軍であるテイム軍の士官の感嘆の声が漏れる……これの何が凄いのかわからないけど、効率良く敵を倒せるようになったのは間違いないかもしれない。
「結衣、なかなか手慣れてきたわね、もう私じゃかなわないわね」
初陣から共に戦っているダブルハイランダーのエミナがそう褒めてくれる。
「まだまだエミナには敵わないわよ、今回も撃破数ではあなたの方が多いでしょ」
「質が違うわよ、あなたは敵のエースのハイランダーを二人も倒してるのよ」
「たまたま私の方と出会っただけよ、エミナと遭遇してたらあなたが倒したでしょう」
「また、そんなこと言っても晩ご飯は奢ってあげないからね」
エミナとはかなり気が合い、この世界に来てからの一番の友達になっていた……戦いもプライベートも一緒にいる時間が長く、気心も知れてきた。
「結衣様、エミナ様、将軍が呼んでいますので後で司令ライドキャリアへ来てください」
エリシア帝国の属国のテイムと、フーリジ王国の戦争の激戦地であるジムリア戦線へと私は派遣されていた……すでに戦局はテイムへと向いており、勝利は時間の問題だと周りが言っているので帰還の話だろうか……
「このまま、二人には魔導機部隊を引き連れてチラキア帝国へと向かって貰いたい」
「チラキア帝国……確か最近エリシアの属国になった国ですよね」
どうやらエミナはその国を知っているようでそう言葉を返した。
「そうだ、チラキア帝国は今、カークス共和国と戦争中なのだが、劣勢のようで援軍の要請があった」
「つい最近までは優勢だと聞いてましたけど」
「強力な傭兵団が参戦して戦局が変わったようだ」
「強力な傭兵団……まさか剣聖の……」
「いや、さすがに剣聖率いる剣豪団はそんな小さな戦争には参戦せんよ、カークス共和国に味方しているのは獣王傭兵団と言う名の傭兵団だ」
「聞いたことない名ですね」
「確かに無名だが、たった二回の戦闘で、チラキア帝国の総兵力の三分の一を撃破したそうだ……」
「そんな戦果を傭兵如きが……」
「チラキア帝国のハイランダーの黒のヘイブンも倒されたと聞く……結衣とエミナなら大丈夫だと思うが、油断せぬようにな」
私とエミナは50機の魔導機を率いて、チラキア帝国へと向かった……50機の魔導機はエリシア帝国の中級汎用機のルーダンクラスの魔導機で、全てが起動ルーディア値3000と量産機にしては高性能の精鋭部隊であった。
「これはこれは、エリシア軍の方々、このような場所へ遥々援軍ありがとうございます」
チラキア軍の司令官が丁寧に頭を下げてくる……エリシアの属国ということなので、かなり丁重な扱いを受ける。
「それで我々はどこの敵を倒せばいいのですか」
エミナがそう聞くと、司令官は恐縮して答えた。
「まずは国境を越えて侵入して来たカークス軍の前線部隊を叩いていただけますか」
「わかりました、早速向かいましょう」
「それではチラキア軍からは100機の魔導機を同行させましょう」
すぐにそう申し入れがあったがエミナは冷静な表情でこう答えた。
「いえ、逆に戦いにくいので同行は必要ありません」
「えっ! しかし、カークス軍は200機以上の大軍ですが……」
「問題ありません」
キッパリとそう言い切るエミナに、司令官もそれ以上何も言えなくなった……確かに正直言うと、連携などを考えると他の軍は邪魔にしかならないような気がする。
カークス軍は、チルニと言う地方まで侵攻していると情報が入ったので、すぐにそこへ向かった……
「五機一隊で行動するように、あとは自由に殲滅して構わない」
エミナは戦闘前に、部下のライダーたちにそれだけ指示をした。
「私はどうするの?」
「結衣は自由に動いて、一人でウロウロしても危険はないでしょ」
「それは信頼されてるって思っていいの? 考えるのを放棄されてるだけにも感じるけど」
「まさか、自由に動いてもらった方が大きな戦果が期待できるって思ってるのよ」
「変なプレッシャーだけはかけるよね」
「それだけあなたの力を認めてるんでしょ」
どうも誤魔化されているようだけど、信頼してくれているのは間違いなさそうだ。
私たちは五機一隊で周囲に散らばるように展開すると、200機以上の大軍に襲いかかった──
私は単独で動いて、目についた敵を撃破していく……遅い……敵の動きはスローモーションで動いているようにゆっくりと見える……まず、敵の攻撃は当たらないし、私のレイピアの突きは一撃で敵機を行動不能にする。
エミナも単独で動き、もの凄いスピードで撃破数を稼いでいく。部下のライダーたちも精鋭だけあって敵の魔導機を圧倒している……バンッ! ドカッと敵が撃破される音が周囲に溢れた。
200機の魔導機は、ものの数十分でスクラップへと変わり、こちらの損害は0である……あまりにも手応えがない……エリシアと対等に戦える敵などいるのだろうか……そんな疑問すら考えるようになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます