第14話 売却

ルワダン軍はナナミを狙っている……このままルダワンにいては危険なので、国外へと脱出することにした……


「商業国家アルペカに行けばルダワン軍は手を出せないかも……」

ファルマがそう提案してくれる……


「よし、それじゃそこへ向かおう」

俺がそう言うと、ナナミがそっと指摘する。


「これ、目立つけど大丈夫?」

「そうね……普通は魔導機はライドキャリアとかで移動するから……」

「ライドキャリア?」

「運搬用の小型地上船なんだけど……」

「まあ、そんなのないから仕方ないよな……このまま歩いて行こう」


しかし……郊外ならいいんだけど、街中は流石に目立つ……俺たちはなるべく人里を避けて移動した。


「ファルマ……すまない……俺たちのせいでお父さんを……」

魔導機での徒歩移動の合間に、俺はそう謝罪した……

「ううん……勇太やナナミは悪くない……悪いのはルダワンだよ……私……絶対に許さない……」

そこに強い怒りを感じた……俺もベルファストさんには恩義を感じているし、あの人が好きだった……だから殺されて憤りは感じていた……それはナナミも同じで、ファルマの言葉に同意している。

「おじさんの仇を討とうよ……ルダワンをやっつけよう!」


「そうだな……でも今の俺たちには無理だ……力をつけないと……」

「強力な魔導機を手に入れましょう……勇太のルーディア値が2ってのは間違いだと思う……トリプルハイランダーでも動かせなかったこの機体を動かしているのがその証拠よ、もしかしたらもっと凄い数値なんじゃないかな……」


それはどうなのかはわからないけど、俺でも戦えるのは屋敷での戦闘でわかった……


「ナナミも戦うよ、おじさんの仇を討つためだったら魔導機に乗る……」

「ナナミ……ありがとう……トリプルハイランダーのあなたに見合う機体を手に入れましょう、そうすればルダワンを倒せる……」


俺たちはベルファストさんの敵討ちという目標ができた……まずは力を手に入れる為に、現実的な問題である資金の入手を考える……


「そうだ、ファルマ、あの箱の中身はなんだったんだ」

ファルマが屋敷を脱出する時に、ベルファストさんに持ち出せと言われていた箱の事を思い出してそう話を切り出した。


「まだ、見てなかった……ちょっと開けてみるね」

そう言って彼女は箱のロックを外して開いた……


「お父さん……こんなのを用意してくれてたんだ……」

箱の中を見ると、ぎっしりに詰まった宝石だった……なにがあってもお金に困らないようにファルマに用意してたんだな……


ファルマはベルファストさんが用意してくれていた宝石を迷わず売却すると言い出した……それを資金に魔導機を購入しとうと提案してくる。


「とりあえず落ち着け、ファルマ……それはお父さんが残した大事なものだろ」

「うん……だけど……」

気持ちはわかるけどな……



俺たちは郊外から国境を越えて、商業国家アルペカに入国した……商業国家アルペカは経済活動を中心に回っている国なので、入国するのは簡単である……大きな軍事行動には反応するが、傭兵や商人などが魔導機を持ち込むのは当たり前なので、俺たちが魔導機でウロウロしていても何も言われない……


「さて……ファルマ……気持ちは変わらないのか……」

「うん……宝石を売る……」

「わかった……でも、一個はお父さんの形見として残していたらどうだ?」

「大丈夫……お父さんは私の中にいるから……」


物ではなく心にいるってのが彼女らしい……俺はその気持ちを理解して頷いた……


さて、しかし、宝石をどう売却すればいいか……下手に売って安く買い叩かれるのは勘弁して欲しい……


俺は宝石を一個だけ持って、その買取の値段を聞いてまわり、信頼できる商人を探すことにした……


「ほほう……いい宝石だね、それなら200万出そう」

「ははん……物はいいようだけど、ちょっと型が古いね……100万でなら買い取るよ」

「こりゃ安物の偽物だね、まあ、見た目はいいから一万なら買い取るよ」


10人の商人に聞いて、全て違う値段を提示された……確認していてよかった……ということで、一番高い値段を提示した商人に、全ての宝石の売却をお願いしようとした……


「おい、お前たち、もしかしてあの商人に宝石を売ろうとしてないか……」


赤髪のとんがり頭……見るからに怪しそうな男にそう声をかけられた……


「はあ……そうですけど……ダメなんですか?」

「ふっ、一個の宝石の買取を聞いて回ってたからそうじゃないかと思ったけど……やめとけ、あの商人はダメだ」

「でも……一番高い値段を提示しましたよ……」

「それはお前らがまだ沢山宝石を持ってるって勘付いたからだよ……全部持ってきて、それを安く買い叩く気なんだよ」

「まさか……どうしてそんなことがわかるんですか」

「ふっ……本当に甘ちゃんだな……それは俺も悪徳商人の一人だからだよ」

「悪徳って自分で言うんだ……」

「その方が信用しねえか、自分で悪徳って言う悪徳商人はいないだろって」

「確かに……」

「はははっ、本当に単純だな……まあいい、どうだ、俺を雇わないか」

「え……どう言うこと?」

「俺が宝石の売買の交渉をしてやる……その代わりに売上の一割を貰う」


「一割……どうもあなたを信用できないし……お断りします」

「やっぱ信用できないか……じゃあ、こうしないか、お前、あの商人に宝石を売るつもりなんだよな……じゃあ、あの商人が提示した値段より高く売れなければ報酬はいらない、それでどうだ?」


なるほど……それなら俺らが損することはないか……交渉も苦手だし……ちょっと頼んでみるかな……

「わかった……ただし、提示した値段より二割以上高い値段で売れたら一割の報酬をあげるよ、それでいいかな」


「OK、その条件で十分だ、任せとけ、俺はジャンだ、よろしくな」


彼は満面の笑みでそう言った。


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