第12話 ファルマの悲しみ
その日、ベルファストさんがどこからか慌てて帰ってきた。
「すぐにここを出る準備を……」
そう俺に言ってきた……
「どうしたんですか……」
そう俺が聞くと、ベルファストさんは凄くすまなそうな表情をしてこう話を切り出した……
「この国の人間に、ナナミちゃんのルーディア値が漏れてしまった……あの計測した技師から漏れたんだね……それで国への徴兵を命令されたのだけど……ナナミちゃんの意思は聞いていたからね……断ったんだよ……」
「そ……そんなことして大丈夫なんですか……」
「わからない……すでに軍部が動き出したと情報があったので急いで帰ってきたんだよ」
「どうなるんですか俺たち……」
「すまない……勇太くん……君たちはここから逃げるんだ……このままではナナミちゃんは無理やり軍に入れられる……」
ナナミが軍に……そんなことは絶対に嫌だ……俺はベルファストさんに頷いてそれを了承した……だけど……すでに遅かった……
屋敷のドアが激しく叩かれる……
ドンドンドンっ!
「ベルファスト子爵! ここを開けろ! ルダワン軍だ! トリプルハイランダーの子供を差し出すんだ!」
「勇太くん……ナナミちゃんを連れて裏から逃げるんだ!」
俺はそれに頷くと、ナナミがいる二階のファルマの部屋へと向かった……
「ナナミ、すぐにここから出るぞ!」
俺がそう言うと、ナナミもファルマも驚いた顔をする……
「どうしたの、ナナミここにいたいよ……」
「そうもいかなくなった……ここに俺たちがいたらベルファストさんに迷惑がかかるんだ……」
そう言うと、ナナミは泣きそうになったが、ファルマの手を握ってお別れをした……
「勇太……ナナミ……」
「ファルマ……すまない……」
そう言ってその部屋から出ようとしたその瞬間……何かが壊れる大きな音がした……
ファルマの部屋から外を見ると、屋敷の庭には三体の魔導機がいた……
「ルダワン軍の魔導機ゾフスだ……」
ファルマがそう教えてくれる……
「今の音は……」
俺は嫌な予感がしてすぐに一階へと走った……
嫌な予感は当たっていた……玄関が魔導機の大きな槍で壊されていた……そして血だらけでベルファストさんが倒れていた……
「お父さん!」
一緒に一階に降りていたファルマがそれを見て叫ぶ……そしてすぐに駆け寄った……
「……ファルマ……すまない……父さんはもう……」
「お父さん! お父さん! いや〜!!」
「勇太くん……ファルマも……一緒に連れてってくれ……もうこの子に寂しい思いはさせたくないんだ……」
「ベルファストさん!」
「早く……もう奴らが入ってくる……ぐっ……」
短い呻き声とともに、ベルファストさんは力なく倒れた……
「お父さん!!」
崩れた玄関の方から声が聞こえる……もう中に入ってきそうだった……このままでは……
「ファルマ、ナナミ、このままでは捕まってしまう……ベルファストさんの言うように逃げよう!」
そう言って強引に二人を連れて屋敷の裏へと回った……
「うっ……うっ……」
裏口から出る時、泣きながらもファルマは小さな箱を棚から取り出していた……
「それは?」
「うっ……緊急時に持って行けって言ってた箱……」
「そうか……」
もしかしたらベルファストさんの形見になるかもしれないな……
しかし、裏庭にも魔導機が配置されていた……逃げ道がない……そうだ……あの倉庫に一時隠れよう……
あの動かない魔導機のある倉庫へ逃げ込むと、どこか隠れる場所を探した……
「あの中は?」
ナナミの言うあの中とは、あの動かない魔導機のコックピットの中のことらしい……確かに3人ならギリギリ入れそうだった……
俺たちは魔導機の中に入ると、ハッチを手動で閉めた……
「シ〜……静かに……」
コックピットの椅子には俺が座り、その両脇をナナミとファルマが俺に抱きつくように寄り添っていた……
ガシャ〜ン!!
倉庫の入り口が壊される音が聞こえる……
「やばい……見つかったかな……」
「静かに……」
「本当に見たのか、ここに誰か入っていくのを……」
「間違いねえよ、コソコソと入って行ってたぜ」
声が聞こえる……スピーカーのように拡声された声なので、魔導機のパイロットの声かもしれない……
「おい、魔導機があるぞ……」
「ふっ……なんだありゃ、オンボロの骨董品じゃねえか」
「でもよ、俺たちが追ってるのはトリプルハイランダーなんだろ……もし、こいつに乗ってたら……」
「いくらトリプルハイランダーでも、こんな骨董品には勝てるだろ……」
声はどんどん近づいてくる……そしてとんでもないことを言い出した……
「念のためにぶっ壊しておくか?」
「そうだな……」
やばい……このままだと……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます