第6話 万人力
船はしばらく動かなかったけど、飯はちゃんと1日二回出た……これだけでも前の場所より待遇がいいからいいのだけど……
どうやら船が出るようだ……船内が慌ただしくなってきた……
いよいよモーターを回す指示が出た……ナナミも強制的に回し手として配置させられてしまった……くそ……俺は女の子一人守ってやれないのか……
しかし……いざモータを回そうと俺が取手を持つと……恐ろしい速さでモーターが回転し始めた……グルグルと回転して、その場にいた連中は驚きで騒ぎ始めた。
「なんだなんだ! 勝手にモーターが回り出したぞ!」
「ウヒョーこれは楽だな……何が起こったんだ」
どうも皆の反応を見ていると、いつもとモーターの回転が違うようだ……確かに聞いてたよりかなり楽にモーターが回り、力なんてほとんど必要なかった……
理由はわからないけど、信じられない速度でモーターが回り、楽々と船は進む……これに機嫌を良くしたのは船の偉いさんであった……
「いや〜今日の仕事は素晴らしかったですよ、このまま行けば予定の半分の日数で目的地に到着します……そうなったら報奨金を出さないといけなくなりますね〜」
飯前に船長がそう声をかける……それを聞いたみんなは歓声をあげた。
「とりあえず、今日の食事はいつもより豪華なものを用意しました、これで明日からも頑張ってください」
確かにいつもより食事が良くなっていた……温かいシチューにパン、それに肉の入った炒め物……チーズやワインも振る舞われていた……肉も干し肉ではなく、ちゃんとしたのが入っている……
モーターの回転が良かった理由は誰もわからなかったけど、そんなことは気にしなかった……腹一杯飯が食えて、報奨金が貰えるならそれでいいと思っているようだ。
「どうしたナナミ、パンは食べないのか」
「うん……保存食で取っておく……」
「そうか……じゃ、俺も取っておこうかな」
「勇太は頑張ってたから食べなよ、保存食食べる時はナナミの半分あげるから」
「大丈夫、今日は量がいっぱいあるから、もうお腹いっぱいだよ」
そう俺が言うと、ナナミはそれじゃ一緒に取っておこうと笑顔で言った。
次の日も、その次の日も順調にモーターは回った……そして……信じられないスピードで船は目的地に到着した……
「おい、船長が褒美に、報奨金と外出許可を出してくれたぞ」
目的地まで3分の1の日数で到着したことで、莫大な利益が出たようだ……超ご機嫌の船長は、報奨金で一人10ゴルドをくれたうえに、外出許可を出してくれた……それは奴隷には異例の対応で、それだけの利益が出たことを意味していた……
船から出ることが出来て、他のみんなは街へと遊びに出かけた……聞くとみんな一晩でそのお金を使い切るそうだ……
「みんな……そのままどっか行くって考えないのかな……」
俺がそう疑問を言うと、船の古株の男がこう言った。
「はははっ、どこに行くって言うんだ、俺たちみたいな低ルーディア値の人間はどこに行っても同じだ、それよりちゃんと飯が食えるこの船がいいと思ってるんだよ」
そんなものか……確かに飯も食えるし楽ではあるんだけど……やっぱり俺はちゃんとした自由が欲しい……
「ナナミ……ここに残りたいか?」
「ナナミ……勇太と一緒がいい」
「そうか……俺と一緒だとまた飯食えなくなるかもしれないぞ……」
「それでも勇太と一緒がいい」
俺はその言葉を聞くと、ナナミの手をとって船を離れた……もうこの船に戻るつもりはない……
二人で20ゴルドもお金を持っている……大きなパンひとつ買うのに5シルくらいが相場らしく、100シルで1ゴルドの価値があるので、節約すればしばらくは二人で暮らしていけるだろう……
奴隷生活が続いていたので、とにかく二人ともかなり汚い……俺はまずは服を買い、風呂に入ることを提案した。
「風呂? 何それ……」
「ナナミ、風呂に入ったことないのか?」
「うん……ナナミ知らない……」
「そうか……まあ、仕方ないよな……」
服を売っている店に入ろうとすると、この見た目である、一軒目はすぐに追い出された……仕方ないので露天で服を売っている店を見つけたので、そこで購入することにした。
「ナナミ、どれがいい?」
ナナミは服を選ぶのが初めてなのか、目を輝かして悩んでいる……そして小一時間悩んで、一枚のワンピースを選んだ……2ゴルド20シルと安くはなかったが、ナナミの笑顔を見ると購入して良かった。
俺は上下で1ゴルドのセール品のトレーナーとズボンを購入する……あと、靴も買わないと……ナナミの入っているのはボロボロの藁草履だ……あれでは足を痛めてしまう……
靴屋でもナナミは目を輝かして選んだ……そしてピンクの靴を選ぶ……1ゴルド30シルか……まあ、これくらいなら……安いのがあれば俺も購入しようと思ったけど、男用はちょっと高かったので我慢することにした……
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