第5話 奴隷から奴隷
「あっ……開いたぞ……」
「ちょ……ちょっとあんた……あんたが開けたのかい?」
「ああ、少し触れただけで開いたぞ?」
「あんた、ルーディア値はいくつなんだい?」
「2だ」
「……だったら担当が閉め忘れたんだね……」
閉め忘れか……しかし、扉が開いたのは事実だ……これは逃げ出す絶好のチャンスなのでは……
「逃れそうだな……見張もいないし……」
ここへ来る時は鎖で繋がれていたが、今はそれも外されている……
「そこにはいないけど、入り口に見張りがいるよ……」
「そうか……だったら裏の山からなら逃れないかな……」
「どうかね……夜の山は危険だからね……」
「それでもここにいるよりいいよな……俺は逃げるよ……」
「そうかい……」
不思議なことに、俺以外にはそこから逃げようとする者はいなかった……ここの生活に慣れきってるんだ……そう感じた……だけど……一人だけ俺に付いてきたそうにしていた……
「ナナミ……くるか?」
「……うん……勇太に付いていく……」
どうもナナミは俺のことを兄か何かと思ってくれてるようだ……この子の為にもなんとか逃げ出さないと……
確かに入り口には見張りが二人いた……だけど裏山の方には誰も見張りがいない……それだけ山が危険かもしれないけど……俺は迷わず山の方へと向かった……
採掘場から山に入ると、険しい藪を掻き分けて進んだ……勉強は苦手だけど、運動は比較的得意な方だ……体力的には問題ないように思えたが……ナナミにはやはり辛い道なのか苦しそうだ……
「よし、ナナミ、俺がおぶってやるよ」
「おぶる?」
「こうするんだよ」
そう言って強引にナナミを担いだ……
「勇太……」
ナナミは背中から俺をギュッと抱きしめてきた……家族に売られるような生活をしてたから、人におぶられる経験もないのだろう……
俺たちは一晩かけて山を越えた……危険と言われてるのはたぶん、そう思わせて逃亡させないようにする為の嘘だったようだ……辛かったがなんとか無事に山を越えれた……
そして山の向こうにあったのは大きな街だった……
「ここなら仕事が何かあるかもしれないな……待ってろよナナミ、働いて稼いで、何か食べさせてやるからな」
ナナミは大きく頷いた……
しかし……仕事のありそうなところで働きたいと言うと、決まってこう聞かれた……
「ルーディア値はいくつだ?」
俺が2と答えると相手にしてくれなくなる……どうやらこの世界ではルーディア値が高くないと仕事にもありつけないようだ……
しかし、働かないと食べ物も買えない……頑張って探して、ようやくルーディア値関係なく働かせてもらえる場所を見つけた……
「ヘヘヘッ……いいぜ、働かしてやるよ……そっちの女の子もか?」
「働くのは俺だけでいい」
「そうか……まあ、仕事は簡単だ、船のモーターを回す仕事だ」
「モーター?」
「船の動力だよ、簡単な仕事だから誰でもできる……飯は一日二回、給金は週に3ゴルドだ、それでいいか?」
「構わない……」
3ゴルドが高いのか安いのかわからなかったけど、俺に選ぶ権利などなかった……
俺とナナミが連れていかれたのは大きな船だった……
「この中が仕事場だ……寝泊まりもできるから安心しろ」
寝泊まりって……
「ほら、入れ……」
そう言われて中に入ると、ガタッと扉を閉められた……ナナミが不安そうに俺の手を握る……
奥に進むと、人が大勢いた……みんなみすぼらしい格好をしている……
「新入りか……名前はなんて言うんだ」
そう声をかけてきたのは白髪の老人だった……
「勇太です……こっちはナナミ……」
「そうかい、で、ルーディア値はいくつだ」
「2です……」
俺がそう言うと、周りからは落胆の吐息が聞こえてくる……
「まあ、いないよりマシだろ……ここの仕事の説明をするぞ、あれを見ろ」
老人の言う方向を見ると、大きな風車を横にしたような丸い歯車が見えた……
「あれを動かすのが俺たちの仕事だ……あの持ち手をみんなで持って、グルグル回すんだ……ルーディア値が高ければ高いほど楽に回せるんだが、ここにいる連中はみな100以下の最下層の連中ばかりだからな……重いのなんのってな……覚悟していな……」
「はい……わかりました……それより……寝泊まりできるって聞いたのですけど……部屋はどこですか?」
「部屋……ここがそうだよ……ここで寝て、ここで食って、ここで働く、それが俺たちの生活だ」
「外には出れないんですか?」
「当たり前だろ、自分をなんだと思ってるんだ、舟奴隷だぞ」
騙された……どうやらここは奴隷の働く場所のようである……
「まあ、今は船が動いてないから楽なもんだ、慣れればそんなに悪いとこじゃないから安心しな」
奴隷から奴隷……なんとも運の悪いことか……ナナミ……ごめん……
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