DV彼氏とヤンデレ彼女 1
俺には同棲している彼女がいる。彼女と交際を始めて、もう5年は過ぎているだろう。
高校の時に彼女から告白を受けて、俺達は付き合いはじめた。
高校を卒業した俺は、都会に上京して、仲の良い友人達と共にバンドを組んで音楽活動を始める事を決意した。
俺が上京する都市に彼女の就職先があったということもあって、俺と彼女は共に安いボロアパートの一室でルームシェアを行うことにした。
将来の展望と大きな希望を胸に大都会に飛び込んだが、目の前の現実は甘くなかった。
今ではバンドは既に解散しており、メンバーとは碌に連絡をしていない。俺はアルバイトもせずに彼女のヒモとして暮らしている。
…そんな事をぼんやりと回想しながら俺が意味もなく振るい続ける拳を無言で受ける俺の最愛の彼女の姿を一瞥した。
軋む畳には彼女の物らしき血がポツポツと染みていた。彼女は殴打されて腫れた頬を右手で抑えながら、何処か縋るような潤んだ瞳で俺をじっと見つめている。
「あ…。ちが、こ、これは……」
「大丈夫……ちゃんと分かってるよ…。私のことは心配しないで……」
俺が先程まで殴っていた彼女がわざと気丈に振る舞って、満面の笑みを見せる。
……また、やってしまった。
俺は感情的になりやすい子供じみた性格をしている。自分の思い通りにならない事柄に対して、暴力的な手段を用いて変更を要請する悪癖があるのだ。
彼女は悪くない。悪いのは全て俺だ。
理想を追った結果、無職になってしまった俺の生活を支えてくれているのは彼女だ。
そんな優しい彼女に対して、ろくでなしの俺はパチンコで大負けしたストレスを解消するために暴力を振るっている。
俺は紛れもない屑だ。その事を十二分に自覚している筈なのに、俺は彼女に対して暴力を振るう事を止められない。
「ごめん、ごめんよ……。本当にごめん…」
「ううん、気にしないで…。私は大くんがずっと側に居てくれればそれでいいから……」
華奢な彼女の体を抱きしめながら、俺は必死に謝罪の言葉を述べる。
彼女は穏やかな表情を浮かべながら抱擁を俺と交わした。
……なんていい娘なんだ。俺みたいな屑には勿体ない。
そう心の中で思いながら、俺は彼女に二度と暴力を振るわない事をまた自分の胸に強く誓った。
ヤンデレヒロインを詰め込んだ短編集。 門崎タッタ @kadosakitta
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