第35話 発覚
「ひとまずここで待っていてくれ。」
そう言い残されて俺は、牢屋に取り残された。石でできた冷たい床のせいかお尻が痛い。
(それにしても。)
随分静かな牢屋だと俺は思った。牢屋と聞けば看守がいたり、罪人が騒いだりするイメージがあったのだがどうもここはそうではないらしい。むしろここには、俺以外に牢に入れられた人物はいないようだし、何なら看守すらもいない。
(脱獄しようかな。)
俺の手首には、魔力封じの腕輪がつけられている。これは文字通りつけた相手が魔法を使えなくなるという効果がある。だが、変化も解けてないことから分かる通り俺には魔法がちょっと使いにくくなる程度の効果しかなかった。
魔法を使えばこんな牢など簡単に抜け出すことができる。ただ間違いなくもう二度とこの姿は使えなくなる。それだけは嫌だ。少なくとも自分が完全に女の子になれたと認められまでは。
そんなこんなでやることもなくなったので俺は、寝ることにした。起きたらめちゃくちゃ体が痛くなってそうだ。
「おい、おい。」
「ん?」
(あれ俺は。)
声がかけられ、それによって目が覚めた。めちゃくちゃ体が痛いが何をしてたか思い出さないと…。
(そういえば、捕まったのか。それで寝てたと。)
周囲を見渡せばいつの間にか俺の牢の前に人がめちゃくちゃいる。そしてその中にやたらと豪華な服を着た人がって。
(国王陛下じゃーん。)
何故か国王陛下までもがいた。周囲は、騎士によって囲まれている。おそらく近衛騎士という奴だろう。
「おぬしが私の娘を助けてくれたのか?」
「は、はい。」
(やっべ、オーラが。)
久しぶりに感じる国王のオーラに思わずちびりそうになるが我慢する。
「そうか。娘が感謝しておったよ。だが、国王としておぬしの素性が分からぬ以上私からは何もできん。」
「そうですね。」
当たり前だ。良く分かりもしない人物を信用なんてできないし。そもそも俺が王女を助けた証拠もない。相手は、国のトップなのだ。迂闊な判断はできない。
「でもまぁ、おぬしのその髪色と目の色からするに勇者様に関係のあるものだと思われる。済まぬがこのモノクルでおぬしのことを調べてもよいだろうか?」
「えぇ、構いません。」
(勇者?勇者ってなんだよ。)
国王からの言葉に俺は頭が???で埋まる。黒髪黒目が勇者に関係しているとか言われても全く良く分からん。それにしてもあのモノクルで素性を調べてたんだ。あれ、でも俺なんか忘れているような。
「では、さっそく…。げほっ、げほっ。」
「「「陛下!」」」
急にむせだした国王陛下を守るように動き出す近衛騎士たち。ほれぼれするような動きである。
「かまわん、それよりも。」
国王陛下がこちらに目を付けた。これはまずいのでは。
「エルフィーナ・フォン・クリスタ。詳しく話してもらおうか。」
「あっ。」
今の自分の姿は、平凡な日本人。というより遠藤瑠衣の姿。でも本来の自分は、水色の髪と目に狐耳の生えた巫女少女だ。それがこんな風になってたらそりゃ驚くわ。
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