第33話 酒場
「ふっふっふ。ついにこの時が来た。」
今日は、リアがいない。なぜなら職人さんたちと建築談議に行ったからだ。ああいうのは、職人さん同士でしかわからない世界だし、何より朝ぐらいまで多分話してくるといっていたので今夜は帰ってこない。私はこの時を待っていた。
「変化っていたたたたた。」
今夜ばかりは、私は俺になるのだ。というのも前々から私は、この世界のお酒を飲んでみたいと思っていた。いや前世でも飲んではいなかったがこの世界では15歳以上は成人扱いだし、何より遠藤瑠衣は16歳だったのだ。なら酒を飲まない手はない。
でもリアによる魔の手によって私はそのチャンスをことごとくつぶされていた。何度も夜家を飛び出そうとしても何故かつかまりいつの間にか簀巻きにされている。朝は、あんなに起きれないのにこういった時だけ鋭いのは勘弁なのだが。
でも今日は、リアがいないのでようやくチャンスが訪れたという感じなのだが。
「痛すぎるだろこれ。」
私いや俺は、初めて変化の術を使った。これは魔法とは違って完全に特性?能力?のようなものでゲーム風にいうなら種族スキルって感じかな?
魔法でも姿を変えることはできるのだがあくまでもそれは違う姿に見せているだけなのだ。だが変化は文字通り姿かたちも変えてしまう。これすなわち
私、エルフィーナと俺、遠藤瑠衣には大きな違いとして性別が違う。女の子と男の子では体つきが全く違うというのがこの12年間でもはっきりと理解している。そのせいもあってめちゃくちゃ痛い。リアがもし使うなら気を付けてねと言っていたのがよく分かった。そんなに便利なものでもないわこれ。
(さーて、早く行くとするか。)
変化している最中は魔力を徐々に消費するので早めに行動する。服装もこの日のために買っておいた男物の服を着る。ちなみに下着は破れてしまった。割とお気に入りだったのに。
治安のいい場所になんて酒場はない。と言うよりも暴れられても大丈夫な位置に酒場はある。だからどうしても治安があまり良いとは言えない。
俺は、酒場の扉を押し開け中に入る。
(男…男…男…ってマジで男しかいねえ。)
分かり切ってはいたが野郎どもしかいねえ。まあこんなところに女連れてくる奴いたらさらってくださいと言っているようなもんか。
「マスター、エールとこれにあうものを何か。」
俺は、空いてるカウンターに座り注文をすることにする。ちなみに女の子生活で身に付いた上品な仕草が出ないように気を付ける。酒に飲んだ輩は面倒なので目を付けられないように周りに合わせる必要がある。俺はそれっぽく振舞った。
やっぱ、異世界と言えばエールだよなぁ。毎回、話に出るたびどんな味なんだろうって思ってたんだよな。酒とつまみを待ちつつも内心ワクワクしている。こんなところに来る機会なんてないし、期待せずにはいられない。
「ご注文の品だ。」
5分ぐらいするとマスターがエール片手につまみを差し出してきた。
「ありがとう。」
マスターの手元に銀貨1枚を置いて礼を述べる。もしここでお金を出さなければつまみ出される。歩き方気配の配り方から気づいたがあのマスターはかなりの実力者だと思う。ちなみにこういったルールは、情報屋などから聞いている。いつでも行けるように備えていたからだ。
(それでは早速。)
エールを一口、口にする。その味はというとー。
(ぬるい。)
絶妙にぬるかった。よく考えればエールなんてキンキンに冷えているだろうと勝手に思っていた。氷なんかも魔道具を使わなければ一般人は手に入れられないし。冷蔵庫なんて神アイテムがあるわけがない。
(仕方ない。)
グラスに氷のキューブを入れて、ついでに冷気を当ててキンキンに冷やす。急速冷却されたエールを再びゴクッと口にする。マスターに見られていた気がするが気にしないでおく。
「ほぅ。」
「うめぇ。」
感動した。キンキンに冷えたエールがこんなにうまいなんて。
「俺のも冷やしてくれないか?」
「あぁ。」
やっぱり勘違いじゃなかったと思いつつもマスターのエールも冷やす。この味を知らないなんて人生の損だと思う。
「ん?これはうめえな。こんな味初めてだ。」
やけにマスターが感動的な表情で語ってくる。そうだろうそうだろうと思いつつも俺はつまみを口に運ぶ。つまみは、焼いた肉にレモンをかけたのか程よい酸味とジューシーな肉が最高にエールにあう。ここを選んで正解だったかもしれん。
「ありがとう。お前さんのおかげでいいものをいただけた。お礼にちょっとここだけの情報を教えてやる。」
そう言えば酒場のマスターって情報通なのかと思いつつも貴重な情報を得られるに越したことはないので耳を傾ける。
「なんでも今ぐらいの夜の時間にな。何と第2王女様が城を飛び出してるって噂でな。護衛もつけずに夜な夜なこっそりと街を探索しているらしい。」
それ本当だったら相当まずいんだけど。エルの姿で早く国王に行ったほうがいい気がしてきたのだが。
「何が言いたいかというと間違っても手を出すなってことだよ。あんたは、そんな女癖は悪そうに見えないがもし王女に手を出したと知られればどうなるか言わなくてもわかるよな?」
俺は無言で頷いた。きっと死ぬよりもつらい思いを味わうことになるような気がする。それだけは避けたい。
「話はそれだけだ。今日はありがとうな、兄ちゃん。」
さて俺もお目当てのものは味わえたし、そろそろ帰ろうか魔力的には余裕なのだが早めに帰るに越したことはないだろう。店の扉を開け、外に出るとー。
「キャッッ。」
どこからともなく女性の悲鳴が聞こえた。
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