第29話 謁見

「昨日はよく寝れたか?」


「えぇ、それはもうぐっすりと。」


「それは、よかった。それにしてもいつみても不思議な服装だな。これは、故郷のか?」


「えぇ、これは私たちの故郷の服で和服って呼ばれているんです。」


「そうか。その服なら問題はないだろう。それじゃあ行くぞ。」


ライアさんの馬車に乗り込み、私たちは王城を目指す。5分ぐらいすると大きなお城が見えてくる。


「大きい。」


真っ先に出てきた言葉がまさにそれだ。ライアさんのお城も確かに大きかったけれどもそれよりもでかい。それに王城は、豪華絢爛とまでは行かないがところどころに装飾品が飾られていてとてもきらびやかなものだった。ライアさんのところは、質素というかそんなのに金をかけるぐらいなら防衛のために使うって感じだったからね?


王城の前で止まった馬車からライアさんに続いて外へ出る。


「失礼。城に何用があって近づかれたのか答えてもらおう。」


「私は、ライア・フォン・カシムだ。今日は、陛下からの招集があったために王城へ来た。」


「これは、辺境伯様。失礼いたしました。そちらはお連れの方ですか?」


「職務だから仕方あるまい。あぁ、こちらも陛下の客だよ。」


「かしこまりました。ですが城へ武器の持ち込みは、基本的に騎士以外は禁止となっています。預からせてもらっても?」


「ええ、わかりました。」


門番さんの言うとおりに私は、腰に掛けた雪時雨を渡した。


「これは!?必ず、お返しいたします。どうぞこちらへ。」


私の刀のすごさに思わず声が上ずっていたものの何とかいさめ、門番の方が城に向かって案内を始めた。


「ここからは、私たちが案内いたします。侍女長のエレナと申します。」


ぴしっとした動作で現れたのは、侍女長のエレナさん。流石王城で働いている侍女というのもあってかその動作は、ほれぼれする。


「ナタリーは、カシム様とリア様を案内しなさい。エル様、謁見の場へと案内いたします。」


え?私一人だけなの?思わずライアさんの方を見てみればいい笑顔でサムズアップしているではないか。ちょっと勘弁してほしい。胃に穴が開きそう。


私は、とぼとぼとエレナさんの後をついていった。



大きな扉の前まで案内された。


「中で陛下が待っておられます。どうぞ。」


(礼儀作法も学んだし、いくしかない。)


扉を開け中へ入るとなんと二人しかいなかった。


ゆっくりと歩いていき、ある程度進んだところで足を止め、膝をつき、臣下の礼をとる。


「面をあげよ。」


「・・・。」


ここで顔をあげるのはだめらしい。二度目の「面をあげよ。」の声に従い顔をあげた。


顔をあげればそこには、壮年である者のその身からは若々しさを感じさせるたくましい男がいた。その男からあふれる覇気によって思わず平伏しそうになってしまう。これが王なのかと私は、深く感心する。


「よく来てくれたエル。いや、エルフィーナか。」


私は、本名を名乗ったことがない。なのにこの男は、知っているそれに少しうす気味悪さを感じた。


「すまん。この部屋には、あらかじめ相手の簡単な情報が分かるような魔法がかかっている。」


「いえ、大丈夫です。少し驚いただけなので。」


「そうかならよかった。」


その言葉を境に部屋の空気が凍り付いた。国王の威圧だ。今までリアという超人相手に戦った時と同じ茎を感じる。つまり相手がそれだけ強いということだ。一瞬で体の芯まで冷え込んだ。


「この度のスタンピードでの活躍ご苦労。報告書には、お前単独でゴブリンロードを討伐したと書かれている。間違いないか?」


国王の瞳は、すべてを見抜かんとする鋭さを感じる。ここで下手に嘘を言ってもすぐに見抜かれてしまうだろう。もっとも私に嘘を言う度胸などないが。


「間違いありません。私がこの手で討伐いたしました。」


「そうか。エドガー、あれを。」


「はっ。エルフィーナ殿前へ。」


エドガーさんの声に従い前へ出る。


「ひとまず今回のお礼だ。受け取ってくれるな?」


「恐悦至極に存じます。」


手渡された袋の中には、20枚の大金貨が入っていた。これだけで金貨200枚の価値である一般庶民の私には多すぎますね。


「それとも一つあるんだがエルフィーナよ。貴族にならないか?」


「へ?」


「この国は、亜人との共存を目標としている。だが知っての通りなかなかうまくいっていない。まあ、こればっかりは仕方がない。そこでだ、エルフィーナに街を一個治めてもらえれば少しは改善するんじゃないかと思ってな。どうだ?」


私は、王都にいた孤児たちを思い出す。陛下には悪いが私には、亜人との共存とかはどうでもいい。私は、孤児をなくしたい。子供みんなチャンスが平等であるべきだと思うからだ。親がなくなる高尾tでその被害が子供までに及ぶのは望ましくない。私は、そんな領主になりたい。ならば答えは一つだ。


「謹んでお受けしたいと思います。」


「そうか。なら家名を考えないといけない。何か案は、あるか?」


私と言えば、氷。水晶。クリスタル。うん、それだ。


「クリスタでお願いします。」


「分かった。エルフィーナ・フォン・クリスタ。本日、今この瞬間をもって男爵と叙する。」


「謹んでお受けいたします。」


そうして陛下とエドガーさんは出て行った。私も猊下が部屋から出た後にその場を後にする。


「エル様こちらです。」


部屋から出るとエレナさんがいた。どうやらまだ向かう場所があるようだ。


とある部屋の前に付くとエレナさんが扉をノックして・・。


「エル様をお連れいたしました。」


「はいれ。」


中から聞こえる言葉に従い中へ入ると。


「エルフィーナ…いやエルさっきぶりだな。」


「えっとこれは一体。」


中に入ると先ほど分かれたはずの国王陛下にエドガーさん。それに加えてライアさんにリアまでいた。


「謁見の場では、話せなかったことをもう少し詳しく説明するために場を設けました。失礼ながら私は、宰相を務めさせていただいておりますエドガーです。どうぞよろしくお願いします。」


謁見の場では、ずっと鉄仮面を被ったかのような表情だったエドガーさんがほほ笑んでいる。どうやらこちらが素のようだ。


「今回、エルに与えようとしている領地はここベイムだ。」


国王陛下が指さしたベイムという場所は、ちょうどライアさんの領地の隣のこじんまりとした領地だ。

ちなみに意外なことにリアが突っ込んでこない。もしかしたらあらかじめライアさんとかに聞いていたのかもしれない。


「とりあえず任命書とかの準備に時間がかかるからしばらくは王都にいてほしい。」


「分かりました。私も王都を見て回りたかったんでちょうどよかったです。」


「まぁ、何か困ったことがあればライアを頼れ。これでも辺境伯は上から数えたほうが早い。何かあった時の力添えになってくれるさ。頼んだぞライア。」


「お任せください。」


「とりあえず今日はここまでだな。クリスタ男爵。期待してるぜ。」


「はは、希望に添えるように頑張ります。」


こうして何とか初めての謁見は乗り越えることができた。

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