第3章

第27話 家づくり

「どーしよっかなー。」


「・・・。」


私の目の前で嬉々とした表情でリアは設計図を描いている。そう、この子は早くももらった家を早速リフォームしようとしている。止めようとしたのだが「お風呂ほしくない?」と言われたら黙り込むしかない。


普通の家というか貴族の家でもお風呂というのは珍しい。理由としては、一々お湯を沸かすのにかかる労力が大きいからだ。あるとしても足湯サイズぐらいが普通だ。体いっぱいつかれるような浴槽というのは、それこそよっぽどのもの好きぐらいしかいない。


だが私は、元日本人。今まで味わってきた風呂生活の習慣はなかなか抜くことができない。だからこそ、風呂が使えない宿暮らしはつらかった。


「エル。設計図ができたよ。さあ、さっそく取り掛かろうじゃないか。」


「はーい。」


私とリアによる家づくりは一週間近くかかった。逆に言えば1週間で家ができてしまった。魔法ってすごい。


◇◇◇


何ということでしょう。1週間前までは、だだっ広い土地にごくごく普通の家があっただけなのにあら不思議。和の要素を取り入れられた木造2階建ての家。ほかの家には、見られない一切の曇りなき窓があり、しかもきちんと開き閉めできる。それに加えて、いつの間にかできている小さな池にどこから持ってきたといいたくなる竹。魔力で夜だけ光るようになっている魔道具仕様の石灯籠。


中に入れば、広々した玄関でもちろん靴を脱ぐようになっている。一番驚くべき場所は、お風呂だ。ご丁寧に暖簾までかけられていて男女で分かれるようになっている。お風呂も檜風呂に石風呂、露天風呂、はてにはサウナまである。石風呂に関しては湯口まで用意されている。風呂に関しては力の入れすぎだし、無駄におしゃれすぎる。でもそれでいいです。お風呂だけは妥協は許せません。


流石に中までは、完全に和風というわけにはいかなく、一階にはダイニングキッチンとリビングに例のお風呂と物置がある。2階は、自分たちの部屋とお客さんの用の部屋だ。まぁ、今のところ連れてくるような人なんていないけど。


家のできに関しては満足。満足なのだが。


「やりすぎーーーー。」


「痛いよ~エル~。」


「そうはいってもリアのせいで最近この家いろんな人がじろじろ見ているし、商人なんかあばよくば商談しようとにらんでいるのよ?ねえ?」


中世ヨーロッパのようなザ洋風といった家がずらっと並んでいるのにその中にポツンと和風の家があったらどう思うだろうか?それに庭を見ればその芸術性は誰でもわかるとおもし、それに見たこともない建築様式に職人たちは釘付けだろう。


ちなみに竹はどうしたの?と聞けば「ん?あぁ、昔作ってたんだよ。」と言われた。そういえば創造神だったわ。物作りなんてちょちょいのちょいに決まっている。



◇◇◇


「うーん?騒がしいなあ。」


家を改造して1週間ぐらいが経った。住み心地?もう最高ですよ。特にお風呂がもう気持ちいい。女の子になってからお風呂の仕方はがらりと変わったのだがもう最初はひどかった。なんせ、「だめ!もっと優しく洗いなさい。」とか「こら!そこはもっと丁寧に洗わないと」とかリアにあらゆる小言を挟まれ続けた。まぁ、人間誰しもなれるものなので私はもう慣れた。おかげでお肌もつやつやですよ。


リアにはあぁ言ったけどもういろいろと手遅れな気がするから諦めた。狐人族スゲー(棒)と思わせとくくらいでいいと思う。


それにしても今日はやけに騒がしい。家をちらちらと観察しに来る人はいるのだがこんなに騒々しいことはない。恐る恐る部屋にあるカーテン(リアお手製)を開けて見ると・・・。


「げっ。」


家の前には、馬車があった。しかも辺境伯家の家紋が入ったやつだ。


「リア、リア。起きて!」


慌ててリアの部屋に駆け込んでリアを起こす。


「ん、ん?あと500年。」


「長すぎるわ、ボケェ!!」


最終手段として魔法で冷たくした手でリアの首筋に触れた。


「冷たーい!なにするのよ!」


ぷんぷん起こっているがそんなの関係ない。


「ライアさんが来てるのよ。早く着替えて。」


寝間着のリアに着替えを促す。もちろん正装巫女服ですよ。



「すいません。待たせたようで。」


「あぁ、構わないんだが。この家の作りはずいぶんと珍しいな。」


「えぇ、まあ。リアが張り切っちゃて。」


困った時の丸投げ作戦である。


「そうか。建築の腕まであるとは、すさまじいな。武一辺倒の私でもこの家の素晴らしさが分かるぞ。」


「えへへ、ありがとうございます。」


リアが意外にも照れている。やっぱり褒められるとうれしいのだろうか。


「えっと、今日は何か用があったんじゃないんですか。」


「そうだ。スタンピードがあっただろう。その件を早馬を使って陛下にもお伝えしたのだが・・。」


あっ、私嫌な予感がする。


「そこでエルのことを書いたのがだな。陛下が一度会ってみたいと手紙には書かれていてな。出来れば連れてくるようにと書いてあるのだ。」


「えっと、それは断ることができるんですか?」


私の質問に少し難しい顔をしながらライアさんは答えてくれた。


「まぁ、一応はできる。だが相手は国で一番偉い人だ。もしも連れてこられなかったらなんて言われるか。」


ライアさんめちゃくちゃいやそうな顔してる。これ断れないじゃん。


「分かりました。なら行きます。リアも連れて行っていいですか?」


「あぁ、もちろん。連れも構わないと書いていたしな。」


「分かりました。出発は何時ですか?」


「明後日の朝だ。すまんな、面倒ごとに巻き込んで。」


「気にしないでくださいよ。ライアさんにはお世話になっているので。」


「感謝する。では明後日の朝に迎えに来る。」


ライアさんをそのまま家の外まで送り届けた。


「まじかああああああ、お風呂があああ。」


「まあ、まあエルちゃん。王都まで行ったことないでしょ?きっと楽しいよ。」


「まあ、そうだね。それに」


(みんな元気にしているかな。)


別れてからまだ数か月しかたっていないものの王都には幼馴染たちがいる。もしかしたら彼らに会えるかもしれない。そう考えると王都行きが少し楽しみになってきたエルだった。


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