第26話 エピローグ

「忙しいところ来てもらって悪かったな。」


「いいえ、ライアさんほどじゃないですよ。」


スタンピード終結から数日が経ち、私は領主の家に招かれた。ついでにギルドマスターもいる。


「とりあえず今回の報酬だ。ほれ。」


「あわわ。」


ギルドマスターが投げてきたものを慌ててキャッチした。それはなんとBランクの冒険者の証だった。


「お前さんの働きは本当ならSランククラスなんだがなさすがにそこまではたかが一支部長としてはできなくてな。申し訳ない。」


「いや、全然いいですよ。むしろBランクまで上げてもらって感謝しています。」


これは事実だ。冒険者は自分の一行絵のランクまでの依頼しか受けられない。Eランクの私は、今までDランクまでの依頼しか受けられなくて歯ごたえがなかったからだ。


「それでだ。一番大事なのは魔法に関することだ。実際問題、おかげでかなり助かった。騎士団は全体的に魔物の処理速度が速くなってたし、魔法師団と冒険者の魔術師たちも比べたら全然打ってる魔術の数が違ったしな。これを広めるか広めないかお前さんはどうしたい?」


「広めてもらっても大丈夫ですよ。」


「本当にいいのか?」


本当にまずいのは、複合魔術だ。こればっかりは教えられない。これは亜人たちにとっての一種の秘術であり、私も日ごろから水と風の複合である氷を愛用している。これがあるから数の差という絶対的な差があるにかかわらず人間たちが亜人に手を出せていない理由でもあるのでそんな力関係を崩すような真似はできない。


「えぇ、本当に広めたらまずいものは言ってませんしそれが冒険者全体の活性化につながるのならぜひ広めてください。」


「分かった。なら俺の話はおしまいだ。」


そう言い残すと素早く出て行ってしまった。やっぱり忙しいんだろうか。


「私からはこれを渡そう。」


ライアさんは私に一つの袋を渡してきた。中を見てみれば・・・。


「嘘でしょ…。」


「私からは金貨200枚だ。本当はもっと渡せたらいいんだろうがあまり余裕がなくてな。」


「いや多すぎます。むしろこんなにもらってもいいんですか?」


「かまわないさ。私たちは魔法じゃなかった今まで知らなかった魔術について知ることができたし、そのおかげで限りなく被害を減らすこともできた。むしろこれぐらいでいいのかと思っているぐらいだよ。」


「ならありがたくもらっておきます。」


「うむ。そうして欲しい。後、家もプレゼントしたいんだが・・・。」


「え?家もですか?」


「あぁ、幸いいくつか候補があるので好きなところを選んでほしい。」


(もらいすぎじゃないのかな?)


そう思いつつも断るのも申し訳ないので資料を確認する。


「うーん、やっぱり実物を見てみなければわからないんで実際に見てみてもいいですか?」


「あぁ、わかった。じゃあ行こうか。」


いきなり立った。ライアさんにいまから?と突っ込むわけにもいかず慌てて後ろについていった。




「ありがとうございました。」


「いやむしろ感謝しているのはこっちだよ。何かあったら頼ってくれ。」


ようやく今日の用事が終わった。いくつかの家を紹介してもらったのだが、お城だったり、屋敷だったりでやたらと豪華な家ばっかりだった。そんななか見つけたのが今回もらうことになった家だ。一般的な家庭の家で庭が無駄にでかいせいで少し寂しく見える家だった。


これ以外の家はどれも庶民の私には、耐えられなかったので正直しぶしぶ選んだというのか消去法でこれしかなかった。


(でも)


初めて自分の働きによって手に入れた家というものは、素晴らしかった。リアにも報告せねばそう思った私は、急いで宿の部屋に駆け込んだ。最近ニート化しているリアのことなのでまだ寝ているだろう。部屋の戸をそっと開けると


「お姉ちゃん、正座。」


「えっと、リア?」


「正座して。」


「あのちょっと」


「せ い ざ」


「はい。」


有無を言わさないリアの気迫に流された私は、その場に正座した。


「何でこうなったと思う?」


「えっと・・・。」


リアは、頬をぷくッと膨らませていかにも怒ってますよ感を出している。どうしよう心当たりしかなさすぎる。スタンピードの時に無理やり治癒部隊に放り込んだこと?いやでもそのおかげでけが人はぴんぴんしてるし何なら聖女と呼ばれてるんだよなあ。


もしかして朝こっそりリアが寝ている隙にほっぺたをつんつんしていることがばれたのか?そんなそぶりを見せてなかったのに!?


「すいません、わかりません。」


「はぁ。エルと離れたくないから私わがまま言ってついてきたんだからエルは悪くないんだよ?でも最近ずっとかまってくれないじゃん!私だって寂しいんだよ?」


(いやなにこのかわいい生物。)


あなたも想像してみてほしい。狐耳の美少女が駄々をこねながらベットの上でじたばたしている姿を。夫鼻血が・・・。これが尊いということなんだろう。


「ということで私も明日からお姉ちゃんの冒険についていきたいと思いまーす。」


「うん、うん。えええええええええ!?」


私の気づかぬうちにとんでもないことを口走っていやがる。え、何。私が受けた依頼についてくるの?なんかすごいヌルゲーになるような。


「言っておくけど、わかっている通りエルも十分強いんだよ?むしろ魔法だけなら最強クラスだし。」


そう言えばそうだった。今更リアが何しようがそこまで影響なんてなかった。むしろ頼もしい前衛(多分)が加わるから喜んでおこう。一人でやるのも限界があるっていうし。


「うん。これからもよろしくね、リア。」


「よろしくね。それよりも何か言いたいことあったんじゃない?こんな時間に帰ってきたんだし。」


「あっ、そうそう。家もらったんだよ。スタンピードの報酬代わりに後金貨200枚も。」


「・・・・。エルちゃーん、ちょっとどういうことかなー?」


「いたい!いたいよ。頭がへこむ。へこんじゃう!」


リアの必殺奥義ぐりぐりによって私は大ダメージを受けた。


「はあ。今回は、いいけどさ。これからはちゃんと相談してね。」


「うん。ごめんね。」


言われて気づいた。せっかくの二人で住む家なのだ。私は、大丈夫でもリアに何かしら不安な点がある可能性もあるのだ。そういったことも含めて相談してほしかったのだろう。申し訳n


「だって、実際に見てみないとどんな風に改造しようか考えられないじゃん。」


「え?」


最初から改造する気だったの?私選んだ意味もしかしてなかったの?


「そうと決まればお姉ちゃん。いくよ!新しい我が家へ。」


「あっちょっと待って、リア。」


神様、うちの妹の破天荒ぶりどうにかなりませんか?あ、そもそも元神でした。すいません。



きちんと宿屋の女将さんにも挨拶をしてきた。「たまには、飯を食べに来ておくれよ。」といわれた。うん、ご飯おいしかったし絶対行く。


「おー、結構いいね。改造しがいがあるよ。ふふふ。」


すいません、私はもう何も聞こえません。


「じゃあ、お姉ちゃん。」


「はいはい。」


手にしたカギで家の扉を開けて二人で声を添えて言う。


「「ただいま。」」

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