第25話 終結

順調そうに見えいた戦いもちょっとしたきっかけでその均衡は崩れる。


私たちは、町から出てすぐの街道にて魔物の迎撃を行っている。街道のそばには森があり、常に警戒しておかなければならない。


ゴブリンやオークといった魔物たちの群れは最初から今までずっと真正面からきている。私はずっと違和感を抱えていた。こんな楽なものなのかと。全くの無傷というわけではないが全体としての被害は少ない。そう調。私がそれは勘違いだと思い知らされたのは、すぐ後のことだった。


「魔物の数が減ってきた。このままいけばやれるぞ。油断するなよ。」


ライアさんが声をかけた直後だった。


「うわーー。」


「横からの攻撃だ!」


「警戒しろ!」


「盾持ちはすぐにカバーだ。」


「治療班のところへすぐに運べ!」


ゴブリンたちは、横から奇襲を仕掛けてきた。しかもこれは闇雲に突撃してくるのではなく、きちんと考えたうえでの作戦だとわかる痕跡がある。その根拠として騎士たちが受けた矢だ。矢には毒が塗ってある。私も実際に目にした。さしずめゴブリンアーチャーといったところだろう。森の視界があまり通らないことを手に取り、一撃離脱の要領で攻撃を仕掛けてきている。あまり命中率が高くないのが幸いだ。


「いたぞ!ゴブリンジェネラルだ!」


斥候の人が叫んだの同時に現れたのは、今回の親玉であろうゴブリンジェネラルだ。大きさとしては3メートルは超えるのでないか?と思われる巨大な体躯に全身に張り巡らされた頑丈な筋肉が特徴の魔物だ。そして見るからに脳筋に見えるが頭もかなりキレる。


「おい、アーノルドつぶしに行くぞ!」


「おうよ!ダリル!冒険者たちをきちんとまとめておけよ!」


「待ってください、領主様!」


ライアさんと一緒にアーノルドまでもがゴブリンジェネラルに向かっていった。そのすぐ後ろから追いかけるのは精鋭と思われる騎士数名だけ。流石に足手まといを引き連れてはいけないのだろう。


「グハッ。」


「レイドッ!こいつの攻撃は受けるな!絶対によけろ!」


ゴブリンジェネラルの振りかぶる攻撃を受けて吹き飛ばされる騎士を見て、ライアさんが叫んだ。私もその光景を見て絶句した。あの魔物に向かって真っ向から受け止めようとする騎士もすごいが騎士のほとんどはBランクの冒険者と同格とされている。それがああも簡単に吹き飛ばされてしまったのだ。あの力は恐ろしい。


「ハッ」


「おりゃ。」


「下がって、《爆炎フレイムブラスト》」


ライアさんやアーノルドたちが攻撃し、ゴブリンジェネラルが攻撃しようとするタイミングで魔術を放つことで相手に攻撃の余裕を与えないようにしている。これならいけると感心していたのが間違いだったのだろう。


「うぐっ。」


「逃げろー。」


「だめだー。」


あたりを見渡してみればダリルさんの方にまでゴブリンジェネラルがいるではないか。流石にこのままではまずいので私は、急いで援護に向かう。


「《氷弾アイスバレット》」


急いで練った魔力で発動した氷の弾丸たちがゴブリンジェネラルめがけて襲い掛かる。この程度では全然ダメージにはならない。そのため私は目くらましもかねて顔めがけて魔法を放った。その甲斐もあってゴブリンジェネラルは顔をガードする姿勢に入った。これで少し余裕ができただろう。


「助かった、ありがとう。」


「そんなことより援護が遅れて申し訳ありません。状況は?」


「あぁ、俺たちのパーティはタンクのやつが飛ばされてしまった。ほかのやつらは基本的に実力不足で困っているんだ。手を貸してくれないか?」


「えぇ、もちろんです。それでは「あの!」」


「暴風。」


ダリルさんと話していると横やりを入れられた。誰かと思えばそれはアレンだった。とりあえずこのままだらだら話すとあれなのでゴブリンジェネラルに風の魔法をぶつけて木にめがけて吹き飛ばしておく。これで少しは時間稼ぎができるだろう。


「俺も混ぜてください。」


「どうしてだ?はっきり言っておくが足手まといは不要だぞ?」


ダリルさんの声色は恐ろしいほど冷たい。だがこれもダリルさんなりの優しさなのだと思う。


「俺はこいつ・・・エルよりも弱いです。でもこんな小さな子が街のために頑張っているんですよ?このまま何もせず逃げるなんてできません。」


アレンの目つきはマジだった。ほんの少しの沈黙ののちにダリルは口を開いた。


「分かった。君の覚悟は理解した。だが亜人の歳の取り方は、人間とは違う。見た目で判断するのは彼女に失礼だから今後やめるように。それで後ろの女の子たちはどうするんだ?」


そう言ってダリルは、アレンの後ろの一本の木を指さした。そこからは二人の女の子が飛び出してきた。


「ニーナにミアまでどうしてここに?」


「私たちは、パーティよ?リーダーだけ勝手に行動なんて許せないよ。」


「そうだよ、私たちも置いていかないでよ。」


「すまない。ダリルさん、彼女たちもいいですか?」


ダリルは、意味ありげにこちらに視線を向けてきた。ニーナとミアは、それぞれ魔術師と盗賊なのであまり危険はない。彼女たちなら大丈夫だろう。とりあえず頷いておく。


「分かった。エル、作戦は?」


「私が魔力を練るからそれまで時間を稼いでほしい。私が一撃で仕留める。」


「そんなのできるんですか?」


ニーナが不安そうに聞いてきたが問題ない。なぜなら私は、


「魔法のエキスパートを舐めないで!」


「アレン、ミア、ガルド。俺たちが攻撃を引き付けるぞ。」


「はい。」


「は、はひっ。」


「おう。」


「ニーナとエレナは、魔術での妨害だ。そしてエルッ、おまえがとどめをさせ!」


「「「はい!!」」」


「こっちだ。」


ダリルパーティの斥候でもあるガルドは、先ほどエルに吹き飛ばされたもののほぼ無傷で立ち上がるゴブリンジェネラルの目にめがけて矢を放つ。だがそれは手にしている棍棒で打ち払われてしまう。だがこれこそが狙いだった。


「えいッ。」


「ウゴオオオオオ。」


ミアの投げる投げナイフが見事にゴブリンジェネラルの目に突き刺さる。これで片眼はつぶれた。怒ったゴブリンジェネラルがミアの方めがけてはしてくるがそうさせないものが二人いた。


「こっちだ。」


「はあっ。」


死角を用いて素早くダリルは斬りかかる。それによって振り向かざるを得ないゴブリンジェネラルは、ダリルの方を向く。その隙にアレンも斬りかかる。


「グオオオオ。」


「おっと。」


「ひえっ。」


怒り狂い棍棒を振り回すゴブリンジェネラルの攻撃を華麗にかわすダリルに対し、おぼつかないながらも持ち前の素早さを生かして何とかよけるアレン。


「二人ともよけて。」


エレナの掛け声に合わせてアレンとダリルはその場から引いた。


「《嵐風ウィンドストーム》」


「《水刃ウォータカッター》」


エレナとニーナによって魔術が放たれる。砂埃から現れたゴブリンジェネラルの体のあちこちには魔術によってできた傷が刻まれている。だが二人とももともと魔力をかなり消費していたのもあり、あまり傷は深くはない。そこで私は魔法の準備が整った。


「行きます。《氷弾アイスバレット》」


私から放たれる無数の氷の弾丸がゴブリンジェネラルを貫いていく。なぜここまで威力が違うかと言えばきちんと魔力を練ったからである。魔法はためれば貯めるほど威力は上がる分、魔力の消費が跳ね上がる。私は、確実にゴブリンジェネラルを葬れると確信できるまで魔力を練っていた。


「倒したのか。」


「やったぞ。」


「「「おおおおおお!!!!!!」」」


(おかしい。胸騒ぎがする。)


私は、念のために魔力を練り続けている。野生の勘というか違和感を感じるからだ。


「なっ、あれは!?」


「嘘だろ?」


「ゴブリンロードじゃねえのか?」


(あれだ。)


私は今までずっと抱えていたもやもやが解消された。ゴブリンジェネラルが二体とも狙ったかのような場所に出たのはゴブリンロードによる影響だったのだ。


「あとは任せてください。」


「なっ、無茶を!?」


悲壮感あふれる空気の辺境伯の元へ駆けつけ私は一言告げた。そこには体中傷だらけの騎士たちと倒れ伏すゴブリンジェネラルの姿がある。どうやら倒せたようだ。だが誰もが満身創痍の状態。そんな状況でゴブリンロードまで来たらおしまいだろう。私がいなければ。


ゴブリンロードの体色は緑というよりも暗緑色といったほうがいいだろう。Sランク指定もされるほどの災害級の魔物だ。並大抵の攻撃は通じない。だがそんなことは私には関係ない。


「《絶対零度ニブルヘイム》」


ひたすら練りまくった魔法の威力はとてつもない。ニブルヘイムはいかなるもの凍らせてしまう最強最悪の魔法だ。(当社比)次々と襲い掛かる氷の結晶によってゴブリンロードはだんだんと凍り付く。やがて完全に動かなくなってしまった。


私は、終わったよという意思を伝えるためにライアさんに目を合わせた。


「賢者エルの手によってゴブリンロードは討たれたぞ!」


「「「「おおおおおおおおおお!!!!!!」」」」


(賢者とか恥ずかしいんですけど)


私の内心とは裏腹にその場にいた冒険者や騎士たちや魔法師たちは大いに盛り上がっていた。


◇◇◇


「おや?」


とある場所にて一人の男がつぶやいた。


「どうやらゴブリンロードが討たれたようですね。」


男の手元には一つの砕けた魔石があった。


「あそこにはゴブリンロードを倒すよな腕の人物はいなかったのですが。」


どこか遠い場所を見つめるような仕草で男は語りだす。


「さて、作戦は失敗したようですが。いいデータが得られました。わが帝国の繁栄のためせいぜい役に立ってもらいましょう。」


怪しげな男の笑い声がただひたすら木霊していた。

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