第23話  スタンピード

「冒険者諸君。よくぞ集まってくれた。」


冒険者ギルド内部には多くの冒険者がいた。目の前では筋肉ダルマが演説している。


「ダリルパーティーの報告によると魔物の大規模な群れがこの街に向かっているらしい。あまりにも多すぎる魔物の数に慌てて報告へ帰ってきたようだ。感謝する。」


ここで初めて聞いたのだがダリルという人は現在この街で唯一のAランク冒険者だそうだ。さらには彼の身パーティーメンバーもほとんどがもうすぐAと言われる人たちで彼の率いるパーティーもAランクとして認められている。まあ、なぜ知らなかったといわれれば会う機会がなかったからなのだが。


あれ?辺境の街なのにAランクが一人で大丈夫なのか?と思ったそこのあなた。これには深いわけがあります。まぁ、単にライアさんが引き抜きしているんですよね。強い冒険者はその腕が買われて貴族に雇われることとなることも珍しくない。本来引き抜きという行為は、ギルドは国から独立した組織であるためにあまり感心されないのだがライアさんは誰よりも領民のことを考えた政策を行っており、その結果もあってギルドからは黙認されているという状況だ。


「この時期は闘技大会が開かれているのもあって実力者たちは王都へ行っていて帰ってこれない。つまり我々だけで乗り越えないといけない。」


ギルドマスターの重みのある言葉に皆が黙り込む。そう王都ではこの時期に闘技大会が開かれているそうで腕自慢たちはそっちに行ってしまう。そのせいで実力のある冒険者たちは、王都に集まり逆にほかの街は守りが手薄になってしまう。


「今回は、私も剣をとる。だから恐れることはない!この危機を乗り越えて、うまい酒でも飲み明かそうや!」


「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」


やっぱりこういうのを見るとギルドマスターのカリスマのすごさをまじまじと感じさせられる。やっぱただの筋肉ダルマじゃないんだね。


◇◇◇


今回の戦いのメインは騎士だ。あくまで冒険者たちは補助が主な目的だ。そんでもって騎士たちの中でも私が教えた魔法を完璧に使いこなせる人たちが少数精鋭となって大物を倒すという作戦だ。魔術師たちは開幕一斉に魔法を放つことによって先手を取るという役割だ。そしてなぜか魔法部隊の司令官が私だ。あまりにも理不尽。私指揮官とかやったことないんですけど。


とりあえず腹いせにリアを治癒部隊に突っ込んでおいた。鐘がなったのにいつまでも来る気配を感じなかったので念話でたたき起こしておいた。こんな時まで寝れるなんて羨ましい。


「やはり緊張されますか。」


「ルクスさん。えぇ、やっぱり不安ですよ。こんな小娘に指揮官なんて務まるのかどうか。」


「こんなおいぼれからのアドバイスですが指揮官に最も求められるのは、どんな時でもあきらめない不屈の心です。指揮官が真っ先に自信を失ってしまえば皆が不安に感じてしまいます。」


「・・・。」


「魔法の講義を聞いて私は魔法についてより詳しくなったと同時にエル様との差をより深く痛感しました。大丈夫です。訓練でやったことをそのまま命じればそれだけでいいんです。私が支えます。いつも通りのことをしてくださいませ。」


「ありがとう、ルクスさん。少し安心しました。」


「いえいえ、少しでも心に響いたのなら幸いです。」


ルクスさんの言葉にいつもの自信を取り戻した私は正面に向き直した。


「来たぞー、ゴブリンの群れが来たぞー。」


斥候の一人が大声を出して周囲に知らせてきた。


「なっ!?」


「これは!?」


見渡す限りゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。どこを見てもゴブリンがいた。


「狼狽えるなお前たち!我々の手でこの街を守ってみせるぞ!」


「「「「「「おおおおおお!!!!!!」」」」」」


ちらっとこちらをライアさんが目を向けてきた。これはやれというやつですね。


「魔術師部隊!総攻撃!」


「《ファイアボール》!」


「《ウォーターバレット》!」


「《ウィンドアロー》!」


「《ストーンバレット》!」


多くの魔術師たちがおのおのが得意な魔術を使っていきます。と言ってもまだまだ序盤。魔術師にとって魔力は命と同じなので節約しつつも火力の出る攻撃を繰り出す。


「《火炎竜巻ファイアーストーム》」


ルクスさんは何と火の上位魔術である火炎竜巻ファイアーストームを放った。人間の魔力は亜人たちよりもかなり低い。それにも関わらず高威力のせん滅魔術を放つということはそれだけルクスさんの腕がすごいということだ。これは私も負けられない。


「《クリスタルカノン》!」


私の生み出した氷の結晶から次々と放たれるレーザーがゴブリンを凍らせつつも貫いていく。魔力消費も激しいがここは一発魔法部隊の指揮官としてでかい魔法をお見舞いしないといけないだろう。私の魔法により近くにいたゴブリンたちは一気にせん滅された。


「全軍、突撃!!!」


「「「「「おおおおおお!!!!!!」」」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る