第20話 魔術指導 下

さて次は騎士たちの番だ。魔術師たちは、魔力操作の練習をするだけなのでリアに押し付・・・監督してもらっている。


「はい、ということで騎士さんたちにも役に立つ魔術講座をしていきます。」


最も騎士たちの士気はそこまでよろしくない。それは私が放置していたせいだけど。


「とりあえずギルドマスター私と腕相撲しましょう。魔法なしで」


「お、おう。」


私の発言に困惑した様子でギルドマスターが近づいてきた。ちなみに机なんてないので地べたに寝転がってである。


「はじめ!」


「ぐぬぬぬぬ。」


「・・・。」


私は全力で力を込めた。だが全く目の前の筋肉ダルマは動じるそぶりも見せない。そして徐々に私の腕が地面へと傾いていき・・・。


ぺたん。


あっけなく負けた。


「まあ、これはまだまだ序の口です。次からが本番です。身体強化魔術も使ってもらって構いません。私も使うので。」


「それはいいが・・・本当にこんなのが役にたつのか・・・?」


最後の方は声が小さくて聞こえないが驚くのこれからです。


「《身体強化ブーストパワー》」


私も魔法でだけ強化する。互いに手を合わせたのを見はかり・・・。


「はじめっ。」


ドーーーン。


始まりの合図と同時に私は思いっきり腕を振りぬき、ギルドマスターを張り倒した。ちょっとやりすぎたせいかごろごろと転がっていた。


周りを見れば絶句である。魔術師の方はリアがとりなおしていたが逆に騎士たちの方はギルドマスターが勝つと思っていただけに口をあんぐりと開けている人までいる。


するとギルドマスターがこちらへやってきた。


「えっと、大丈b」


「なんなんだ今のは!」


「うひゃあ!」


ギルドマスターが思いっきり肩をつかんできて揺さぶってきた。思わず悲鳴を上げてしまった。


「お前と俺には歴然とした力の差があったはずだ。どうやったんだ?なあ、な・・。」


「そこまでだ、アーノルド。彼女がおびえちゃっているじゃないか。」


「あっ。」


ライアさんの声で我に返ったギルドマスターは、素早く手を離した。正直助かった。ギルドマスターはでかい。それも筋肉質で顔も結構こわもてだ。私以外の12歳の女の子相手に同じことをしたら一生物のトラウマになるだろう。かという私も危うくちびりそうだった。


「それでいったい今のはどういう手品何だい?」


「ええ、もちろん。説明しますとも。私がやったのは身体強化の中でも部分強化と呼ばれるものです。」


「部分強化?」


「例えばの話ですが10の魔力を使って全身の身体能力を強化するのと10の魔力で腕力だけを強化するのではどっちが強そうですか?」


「「「あっ!!!」」」


私の言葉に全員がひらめいたようだ。


「今から皆さんにやってもらうのはこの部分強化の技術です。余分な部分に魔力を回さず、必要なところだけに魔力を流し、強化する。この技術を身に付けるだけでかなり無駄も減りますし、動きもさらに良くなると思います。」


早速と試している人がいたがそんな簡単にはうまくいかない。


「私も手を貸すのでとりあえず今日は感覚をつかみましょう。」


この日は、私が直接魔術に干渉して部分強化の状態の感じをつかんでもらうことにした。


◇◇◇


「おらおら、どうしたライア。老いたか?」


「そっちこそ、動きが衰えてきたんじゃないか?」


「「はっはっはっは。」」


私の目の前ではものすごい速度で剣を交わし合い続けるギルドマスター筋肉ダルマライアさん戦闘狂がいた。


私たちが教え始めて一週間。ほかの騎士たちはようやくできるようになってきたというくらいなのにこの二人に限っては完ぺきに使いこなしていた。


剣で斬るとき、踏み込むとき、受け止めるときなど状況に応じて適切な部位を強化している。これが天才肌というやつなんだろう。とてもじゃないが私にはできなさそうだ。ただでさえ速すぎるために全力で目の身体強化をしてようやくとらえることができるのだ。


ちなみにライアさんは辺境伯という地位もあって、護衛がついているのだがその護衛さんはと言えば、完全に意気消沈している。まぁ、目の前でこんな超次元バトルが繰り広げられていたらそうなりますわ。


とそこでライアさんがギルドマスターの剣をはじき、そのまま剣を首に添えてみせた。


「これで私の31勝30負けだな。」


「悔しい。次こそはその吠えずら叩ききってやるからな。」


「はっ、せいぜいやってみろ。」


何というか青春ですね。これであと年齢が20年ぐらい若かったらですけど。


ちなみにこの訓練方法に関してはあらかじめ魔法の契約で制約を結んでいる。内容としては、私の許可なく他人に広めない。それだけだ。その契約の上で教えている。ちなみに冒険者たちに対しては教えるつもりはない。騎士たちは上司の命令に基本的には忠実だ。その上司が契約を結んでいる以上、勝手に情報を漏らすという可能性は低い。ただ冒険者に限ってはそうとは限らない。


冒険者全体の実力は上がるのかもしれないがそれ以上にいろいろとリスクがある。なのでギルド関係で学んでいるのはギルドマスターただ一人だ。


一方で魔術師組はと言えば


火球ファイアーボール


男の詠唱とともに生み出された火球がまっすぐ飛んでいく、だが途中で弧を描くように動き的に命中した。


やはり魔術師組で一番進んでいるのは例の壮年のおじさんらしい。この一週間で学んだのだが彼の名前は、ルクスというそうだ。ルクスさんの魔術は、1週間前と比べるとかなり無駄が減っている。1週間前と同じ量の魔力を消費して生み出された火球の威力は先週の1.5倍というところだ。これには本人を含めた魔術師全員が驚いており、またそれが彼らのやる気に火をつけた。


彼らがやったのは、魔術で大事な魔法を掌握するというもの。彼らは、この一週間のうちにめちゃくちゃ成長していた。魔力コントロールのおかげで今まで気づいていなかった魔力のロスに気づいたのだ。やはり脳筋が多いイメージの騎士とは違い、彼らは賢かった。もちろん、すべての騎士が脳筋などと言ってはいませんよ。指揮官とかもいるわけですしね。


最近では、やたらと森が静かだ。嵐の前の静けさというやつなんだろうか少し不安だ。


(でもやるしかない。)


今の私にできるのは、魔物の群れに備えてしっかりとした準備を整えることだけなのだ。

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