第18話 連れ込まれました。
あれから数日が経った。毎日何個もの依頼を処理することで私の冒険者ランクはDまでに上がった。といってもEまでの依頼は本当に簡単なものしかないようなのでこれからが本番だ。ちなみにアレン君たちもDランクらしい。何でも私の急速な追い上げにビビっているとか。私そんな争うつもりじゃなかったんだけど。いつものようにギルドに入った。そこからカノンさんのとこに行く。知らない間に私専属になったらしいし、ついでにお勧めの依頼を教えてくれる。おすすめというより誰も受けないたまっているやつだけども。
「おはよう、カノンさん。今日受けるべき依頼ってある?」
「エルちゃん、おはよう。早々エルちゃんあてに手紙が届いてるのよ。」
「手紙?」
私誰かに手紙頼んだ覚えもないんだけど。
「はい、これ。ちゃんと確認しておいてね。」
「はーい。」
(うわー。)
手紙を受け取りすぐに裏を返すとそこにはカシム辺境伯の家紋で封がされていた。貴族の家紋とは領主当人以外が使ってはいけないものでたとえそれが家族であろうと一緒だ。つまりこれは領主本人が私宛に書いた手紙ということだ。
受付から離れたところにある椅子に腰かけ、中身を確認してみた。中には歓迎したいので都合のいい時でいいので我が家を訪れてほしいと書かれていた。しかもどうやら姉妹一緒でとも書かれている。
(えらくこっちに配慮しているなあ。)
私のイメージでは領主の仕事は結構忙しいと思う。特に辺境伯ともなれば貴族の地位としても上から数えたほうが早い。そんな人が好きな時間に訪れてくれというのは何か頼みたいことがあるのではないかと思う。もっとも貴族からのお願いを断れば面倒なことになってしまう。とりあえずリアと相談することにした私は、この日は依頼を受けずに宿へと戻った。
◇◇◇
「いいんじゃないの?」
「え?」
リアからかえってきた返事はあまりにもあっさりしたものだった。
「私は、ただエルにこの世界を楽しんでほしい。この世界を好きになってほしい。そう思っている。私がするべきなのはエルを支えること。エルは、どうしたい?行きたい?行きたくない?」
「私は、行ってみたい。貴族のお城なんてめったには入れる機会なんてないから見てみたい。」
「そっか。じゃあ、お姉ちゃん。行くよ。」
残念ながら久しぶりの母親モードが終わってしまったようだ。それよりも今からって言った?
「えっ、ちょっといますぐ!?」
「善は急げだよー。」
こうしてリアに手を引かれるように私は領主邸まで行くことになった。
◇◇◇
今私たちは、領主邸に向かって二人で仲良く手をつないで歩いている。二人そろっての巫女服が珍しいのか、狐人族というのが珍しいのか、二人そろっての美少女が絵になるのか。あっ、全部か。それよりも私たちに目を奪われた男どもの始末がひどい。鼻血で倒れているのもいれば、見惚れて女性陣から冷ややかな目を向けられている人までいる。
「ねえ、今更なんだけどこの格好でいいのかな?」
「大丈夫でしょ。この世界にこの服はないし、そもそも冒険に行くときの格好で来るようにって書かれてたし。それよりもその服ずっときてくれてるんだよね。最初はあんなに恥ずかしい。後生だーーーって言ってたのに。」
「いや、何か慣れたしそれにせっかくお母さんが作ってくれた服なんだから着ないといけないでしょう。」
もう最近ではこの巫女服にも慣れた。もう男としての尊厳などみじんも残ってないのかもしれない。だって気を抜いた時でさえも以前のような男くさい仕草など全くもって出てこないのだから。後は、恋愛対象だけが気がかりなのだがまだ子供だからいいだろう、うん。
「はいはい、今はリアだよ。それよりももうすぐだから早くその緊張をやめてよね。」
「無理無理。緊張する。」
「いい加減にしないとお仕置きだよ?」
「よしよし、いい子だね。じゃあ早く行こうか。」
こうして会話を交わしつつも物の10分程度で領主邸にはたどり着いた。
「待て、ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ。」
「あっ、これ領主様から頂いた手紙です。」
門番の人に言われて私はマジックポーチの中から手紙を取り出し、門番の人に渡した。
「確認をしてくるしばし待て。」
そう言い残して門番の人は屋敷に向かって走っていった数分ぐらいすると何やら別の男性を連れてやってきた。
「失礼いたしました。私は、この屋敷で家令を務めております。カルロスと申します。エルさま、リア様よくぞいらっしゃいました。奥で当主様がお待ちになられています。こちらへ。」
私は、家令のカルロスさんに案内されて連れていかれることとなった。それよりも一々仕草が洗練されている。リアとは別の方面で完成しているといえる。いや、リアも頼めばやってくれるんでしょうけども。あの子結構面倒くさがりだからね・・・。
案内されたのは、応接室とでもいようか。そんな感じのところ芸術品なども飾られていて貴族としての見栄がうかがえる。応接間一つにこんな力入れるんですね。で中にいたのは、予想とは違って二人。かっこいい服を着ていてあっ貴族だとわかる人と筋肉ダルマがいた。いやほんとに。
「よくぞ、来てくれた。ひとまず座ってくれたまえ。」
私たちがソファに座るとすぐに紅茶が置かれた。いつの間に準備してたんだ?カルロスさん。紅茶の匂いはとてもよく、素人目でも高級品なのがよくわかる。
「俺がこの街の領主のライア・フォン・カシムだ。今日ここに呼んだ理由なんだが・・ん?何か質問が?」
「えっと、そちらの男性は一体どなたで?」
領主様が話し始めるよりも気になることがあった。そこの筋肉ダルマ何平然とこの場にいるんだ。それに紅茶もおいしそうに飲んでるし。
「あぁ、こいつか。とりあえず置き物だと思っていてくれ。」
「おいおい、それはないだろう領主様。俺はこの街の冒険者ギルドのギルドマスターのアーノルドだ。よろしくな、二人とも。」
この筋肉ダルマはどうやらギルマスらしい。ちょっと暑苦しそう。
「こほん。二人を呼んだ理由なんだが頼む私たちに魔法を教えてほしい。」
私は思わず絶句した。何しろ初手でいきなり領主ともあろう人が頭を下げてきたからだ。
「俺からもお願いしたい。どうか頼む。」
筋肉ダルマじゃなかったギルマスまで。
「お二人とも頭をあげてください。理由を話してもらえないと訳が分かりません。」
「あぁ、そうだな。知っての通り私の納めるこの街は魔物の住む領域と帝国の境界線と隣り合わせとなっている。ただそれなら問題はない。最近、この近くの森が騒がしい。騎士たちに調査に行かせたが帰ってこなかった。」
「ここからは俺が説明しよう。ギルドの方でもゴブリンが戦術的な動きをとるという報告があった。俺も確認に行こうとしたが無尽蔵に来るゴブリンに足止めされてな、撤退せざるを得なかった。そこで分かったのはゴブリンの上位種がいるということだ。それもジェネラルもしくはロードクラスの大物だ。」
いやそれ、アレン君のやつじゃん。しかもカノンさんの予想通りになっているし、ギルマスがこんな筋肉ダルマだとは思ってなかったけど。え?この話で終わりってわけじゃないよね?このままおさらばだったら何のために呼ばれたんだって思うし。
「えっと続きがあるんですよね。」
私の言葉に「あぁ。」とライアさんが言った。
「正直ゴブリンの規模がよめない。このままだとどれほど被害が出るかもわからない。頼む、我々に魔法を教えてくれないか?」
「え?」
私は今度こそ訳が分からなかった。なんでこの流れで魔法の話になるのだろうかと思っていたからだ。
「狐人族は魔法の申し子だと聞く。きっと我々も知らない魔法だって知っているだろう。どうだろうか?報酬はいくらでも払う。我々に魔法を教えてくれないか?」
「俺からも頼む。こいつの願いを聞いてやってくれないか?」
ライアさんが頭を下げたのと同時にギルドマスターまで頭を下げた。
(どうしよう。)
ここまで言われてようやくわかった。きっと自分たちを強くしてほしいということだろう。基本的に亜人は人間に対して警戒心が強い。そのために人間相手に魔法を教えたりはしない。それがかえって自分たちを苦しめる羽目になりかねないからだ。
はっきり言って私は教えてもいいと思う。人間では使いこなせない魔法はいくらでもあるし、この人の眼はとてもまっすぐだった。領民思いのいい領主なのだと思う。
リアは我関せずを貫いている。私に判断をゆだねるつもりなのだろう。
「分かりました。いいでしょう。」
「本当か!?ありがとう。」
私だってこの街が好きだ。まだ少ししか過ごしていないが雰囲気はとても好きだし、何より過ごしやすい。出来ることはやるべきだろう。
「なぁ、俺も聞いていっていいか?こんな貴重な機会はなかなかない。」
「もちろんいいですよ。」
「そうか、ありがとう。」
どうやらギルドマスターも気になっていたようだ。その代わりきちんと約束事は、守ってもらうが。
「いつ頃から頼めるだろうか?できる限り早めがいいのだが。」
「じゃあ、今からにしましょう。」
「わかった。すぐに魔法師団を呼んでくる。」
「待ってください。騎士団も特に精鋭を読んできてください。」
「ん?魔法なのに騎士団もか?」
「ええ、この際だから一杯教えますよ。」
私の笑顔に少し引き気味の二人だったが。リアだけはにこにことうれしそうだった。私がこんなに笑えるようになったのもリアのおかげなんだよ?
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