第17話 暗雲
「金貨百枚だと・・・。」
私は、がっくりとその場に手をついた。なんせ私が頑張ってほぼ半日かけて集めた薬草を売ったとしても銀貨数枚程度である。それよりもシャンプー作ったほうがめちゃくちゃ稼げてるって・・・。
「えっとエルおねえちゃんさ。元気出してよ。私は、エルおねえちゃんの助けになるかもって思ってやっただけなんだよ?」
うう。その純粋無垢な目が痛い。まぁ、この際どうでもいいんです。そうなりゃ、ちゃちゃっとランク上げてがっぽり稼いで見せますからね。あっはっはっは。
ぐうぅ~~~。
「・・・。」
「・・・。」
「とりあえず、ご飯もらいに行こうか。」
「うん。」
かわいらしいおなかの音に私は思わず顔が真っ赤になってしまったものの幸いリアはスルーしてくれた。その日は、ご飯を食べてすぐに寝ました。
◇◇◇
翌朝ギルドを訪れるとカノンさんが何やら男性と話し合っていた。
「だから本当なんですって。」
「うーん、でもにわかには信じられないのよね。あっ、エルちゃん。おはよう。」
「あっ、おはようございますカノンさん。何かお取込み中ですか?」
私は、そっと傍にいた男性に目を向けた。そういえば昨日ゴブリンたちと死闘を繰り広げていた子だった気がする。だとしたら話している内容はアレだろう。そういえば昨日、リアに質問するの忘れてたけどいいか。昨日はそんなところじゃなかったし。
「えっとね、エルちゃん。この子ーアレンっていうんだけど、昨日ゴブリンに襲われたらしいんだけどそのゴブリンたちがどうやら戦術的な動きをしていたらしいのよ。普通ゴブリンたちって戦術とかも考えるような頭脳はないのよ。ただ本能の赴くままに襲い掛かるって感じでね。それでアレンは仲のいい知り合いとパーティを組んでいるんだけどピンチに陥っちゃったわけよ。そこに急に駆け付けた凄腕の魔法使いがいるみたいなのよ。その魔法使いのおかげで命を救われたみたいでお礼が言いたいそうなのだけど知らないかな?」
「あははは、わたしみたいなしんじんがしるわけないじゃないですかー。」
引きつりそうになるも必死に笑顔を取り繕って答えた。
「そっかー、それなら残念。というわけで依頼を受けないなら早く行った行った。邪魔になるよ。」
「分かっている。でも頼むからお礼だけは伝えておいてくれよ。恩知らずとは思われたくないからな。」
そう言い残してアレンは出て行ってしまった。
「だってさ。」
「さあ、何のことやら。」
(お願いします。心臓に悪いのでこの腹の探り合いみたいなのを早くやめてください。)
ギルド職員ともなれば種族の特徴というものを詳しく知っているだろう。この町で活動する冒険者たちの情報も持っているだろう。つまりは、もうわかっているのだろう。あくまで私は、目立ちたいわけでもないし、そこまで恩着せがまくするつもりもないので気にしないでほしいのだが。
「でもそうね。彼の言ったゴブリンたちが戦術的な動きをするというのはかなりの問題なのよ。」
「えっとどこら辺がですか?」
「まずね、魔物が普段しない行動をするってことは何かしらの原因があるのよ。具体的に言えば、突然変異もしくは上位種族が現れたのか。特に後者の場合だと面倒なのよ。例えば、ゴブリンジェネラルもしくは、ゴブリンロードね。」
あれ?ゴブリンキングは?と思ったので聞いてみることにした。
「ゴブリンキングの可能性はないんですか?」
「あぁ、あれはただ強いゴブリンって感じで別にゴブリンたちを統率するといった能力はないのよね。」
「そうなんですね。」
(まじかー。)
私として一度戦ったことのある相手だけに少し驚いた。確かにただ強いゴブリンとは言うがゴブリンとは力も体格も全然違う。つまりそう言い切れる程度には、ロードやジェネラルといったゴブリンの上位種の強さの格が違うということだ。
「そんなのが来ても大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないわよ。だからまずは、このことをギルドマスターや領主様に報告しなくちゃいけないの。そのうえでしっかりとした調査を行ってもらうわ。大丈夫、この街の冒険者や騎士はほかの街と比べても魔物による被害が多い分鍛えられているの。」
「なるほど。」
しっかりとした調査を行うようで安心した。しないようなら空の上からでも確認しようと思っていたからだ。いることが分かっている恐怖といるのかが分からない恐怖。どちらのほうが怖いのかは明白だろう。
「だからね?エルちゃん。」
「?」
「あなたはきっとすごい冒険者になる。元冒険者だった私から見てもあなたの実力は測りきれない。だからどうしてもだめな時は私たちを助けてちょうだい。」
「はい。」
いつものような明るい口調ではなく、どこか怯えを含んだかのような声色に私は思わず頷いてしまった。
◇◇◇
ある日の夜、リデアにある領主邸において・・・。
「おいおい、ノックもせずにはいるとは礼儀のない奴だな。」
「お前と俺の仲じゃねえか。気にすんなよ、辺境伯サマ。」
「全く、俺じゃなかったらとんでもないことになっているぞ。」
部屋の中にいた男は、このリデアの街の領主であるライア・フォン・カシム辺境伯だ。
「それで何の用だ?ギルドマスター?」
逆に部屋を訪れたのは、リデアの街の冒険者ギルドのギルドマスターであるアーノルドだ。二人は、貴族と平民という関係ではあるものの幼いころからの付き合いというのもあり、二人きりの時はこうして肩を抜いて話している。二人は、あたかも自然に向かい合うようにソファに座りあった。
「ゴブリンジェネラルもしくはゴブリンロードがいるかもしれない。」
「!?」
アーノルドの言葉に思わず眉をひそめたもののすぐに落ち着きを取り戻し、ライアは視線で続きを促す。
「つい先日のことだ。とある新人冒険者がゴブリンに襲われたそうなんだがどうやらそのゴブリンたちは、戦術的な行動をとっていたらしい。それで俺も実際に調査に行ったんだ。結果としては黒だ。ほんとは、ロードかジェネラルを見つけるつもりだったんだが無理だった。無尽蔵に現れるゴブリンたちの連携にさすがに俺一人じゃ無理だったよ。」
「そうか、お前でも無理か。ん?その新人冒険者はどうだったんだ?話からするとそいつも襲われたんだろ?」
「あぁ、どうやら3人パーティだったようで満身創痍だったそうだ。そこに突如として現れた謎の凄腕魔法使いによって助けられたそうだ。」
「そうかその魔法使いには感謝せねばな。大事な私の民を守ってくれたことに対して。」
「んー?まだ俺の言いたいことが分かんねえのか?」
「なんだ?」
「最近変わった人がこの街に入ってこなかったか?具体的には人間族以外で。」
そこまで言われて何を言いたいのかがライアはようやくわかった。目を見開いてアーノルドの方を見れば白い歯を出してにやりと笑っている。
「突如この街にやってきた狐人族。初日に追っかけた冒険者たちは氷漬けにされて道にほっぽりだされた。そして今回のゴブリン相手にも氷の魔法を使っていたそうだ。どうだ?これでもまだ言いたいことが分かんねえのか?」
「分かった。屋敷に招くことにしよう。出来ればお前もいっしょにいてくれるか?」
「あぁ、もちろんだ。街の危機に陥りそうなんだ。もしもの時は共犯者だな。」
こうして男たちの密会は続いた。
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