第16話 一方そのころ(リア目線)
「あら、お帰り。ちょうどいい時間だけどご飯はどうする?」
「ちょっと考え事があるので手が空いたら部屋まで持ってきてもらえますか?」
「まかせな。」
宿に帰ると宿の女将さんが声をかけてくれた。夜ご飯を食べるのにもちょうどいい時間ということもあって、宿の食堂は人でいっぱいだ。本当は、ここで食べたいが考えたいことがあったので今日はやめておくことにした。
「ただいま~、それどうしたの。」
「えっとリアちゃんの手助けになるかと思ったらちょっとやりすぎてね…。」
リアの座っているベットのすぐそばには、金貨が山ほど入った袋があったのだ。時間は少しさかのぼる。
◇◇◇
「うーん、なんかやることないかなぁ?」
ちょうどエルがギルドに行った頃、リアは悩んでいた。
(エルと一緒に冒険してもあの子のためにはならないし、かと言って何もしないのもあれだし。そうだ!!!)
この世界には、魔道具と言われるものがありリアが手に持つマジックバックもその一つだ。マジックバックは冒険者の必需品ともいわれており、冒険者は駆け出しでもない限りはほぼすべての冒険者がマジックバックを持っている。
リアが持っているのは、リボンがつけられたかわいらしいポーチで魔法の勉強ということでエルに作らせた一品ものだ。リアはそれをもらった頃からずっと使っている。ちなみにエルも色違いのリボンのついたおそろいのデザインのものを使っている。
リアがマジックバックから出したのは、シャンプーとボディーソープだ。この世界では、一般的に体を洗ったりするときに使われるのは石鹸だ。それもあまり技術力が高くないこともあってあまり出来が良くない。それに魔法があることもあってあまり石鹸を使おうとする人がいない。
でもリアは知っている。女性の美に対する執着という物を。エルを育てるまでは興味のかけらもなかったがエルを育てるにあたって人という存在を知る必要があった。そこでリアは、エルを育てる傍ら文字通り神眼でありとあらゆる人を見ていた。
そこで女性の美に対する執着という物を垣間見た。にきびを消すために必死に化粧を重ねる女性。少しでも良い印象を持ってもらう為に香水をかける女性。少しでも自分を魅力的に見せるために女性というものが鬼のように努力するのを見た。
(絶対にうまくいく。)
そう確信したリアは、部屋で黙々と作業に没頭した。
「おわったー。」
作業を始めることおよそ4時間できたシャンプーとボディーソープは、合わせて100個。出来た物をリアは木の瓶に詰めて宿を出た。
向かったのは、商業ギルド。街の中央に位置しており、冒険者ギルドの向かい側に位置する。こちらには、商人であろう人物がぞろぞろと出入りしている。商人ギルドは具体的にいえば、土地の販売や商品の代理販売、果てには商人同士で商談をするのにつかわれたりする。リアがここに来たのは、代理販売をしてもらう為だ。代理販売は商品を売りたい、でも店を持つだけの金がない。といった人向けのサービスで売りたい商品をギルドに買い取ってもらうというものだ。ただしギルドにこれは売れると思われないと買い取ってもらえないし、一度買い取ってもらってそれをギルドが欲しい人に売るという形をとるためにどうしても利益が少なくなってしまう。
リアは、ギルドに入ると入ってすぐそこにある木板を手にする。これには、番号が書かれており順番に案内される形だ。商人ギルドは、一言で言うなら豪華と言えるような感じだ。清掃が行き渡っており清潔感もあり、壁には芸術品と思われるものが装飾されている。
「95番の方~。」
リアは、呼ばれた受付の方のところに行った。
「・・・本日はどのようなご用件でしょうか?」
「代理販売で来ました。商品はこのマジックバックの中に入ってます。」
受付の人は若い女性の方で20後半と思われるような人物だった。相手が自分よりも若い女の子でしかも狐人族であることに驚いたものの、長年つちかった商人スキルで動揺したそぶりを見せないように話しかける。
「個室に案内します。ついてきてください。」
リアは、受付の人の後ろについていき一つの部屋に案内された。机と向かい合うように大きなソファが二つあった。少なくとも安物でないのは確かだ。リアは、部屋の力の入れように内心驚いていた。
「私の名前は、キルエです。それで売りたいというものは、何でしょう?」
「私は、リアです。こちらです。これらは、シャンプーとボディーソープと言います。」
商談というものは、たがいに名前を名乗りあってから始まる。商人は、基本的に信用を第一としている。ここで偽名を使ったことがばれると信用が失われ、商人たちからは相手にされなくなる。商人というものは横のネットワークが非常に強いからだ。
「・・・これは!?」
(ふふっ、いいねえ。)
リアは、内心少し喜んでいた。今まで馬鹿にするような視線は向けられていなかったものの足して期待もしていないという目だったのだ。逆にキルエは見たこともない商品に目を輝かせている。自分の商人としての勘が反応していた。
「これは、髪と体を洗うのに使います。そうですね、そちらの匂いを嗅いでから私の髪を触ってみてください。」
「では。」
(なっこれは!?)
キルエの眼がカッと開かれた。それは、もうリアが一歩引いてしまいそうになるほど。キルエは感動していた。香水などのようにきつくもなく、それでいて気分の良くなるようなさわやかなにおい。それは、リアの髪の毛からも漂っており、それもあくまで自然な感じだ。そして何よりも髪に驚かされた。
リアの髪の毛は、つやのあるリアの黄金色の髪の毛は太陽のように輝いていて、それでいて手触りがよくとてもサラサラだった。髪は、女の命ともいわれている。それは特に貴族の女性に強い傾向がる。キルエは、自分の髪の毛と比べて確信したのだ。これは間違いなく売れると。
「失礼いたしました。これらの商品はほかに在庫があるのでしょうか?あればそちらも売ってほしいのですが」
佇まいをもとに戻し、商談モードへと移ったキルエを見てリアも気合を入れなおす。
「ボディーソープとシャンプー合わせて100個あります。」
「では一つ当たり金貨一枚で買い取ります。100戸すべて打っていただけるなら上乗せして金貨120枚お支払いします。」
「え?」
「すいません、少なかったでしょうか?では一つ当たり金貨2枚で・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください。」
「あ、はい。」
(え?そんなに売れるの?)
リアは、確かに売れると思っていたがそこまで高いとは思っていなかった。むしろお小遣い稼ぎ程度にする予定だった。原料はすべて植物由来なのでほとんどお金はかからないそれが一つ金貨一枚になるのだ。驚くのも無理はない。
「何でそんなに高いんですか?」
「私がそれだけの価値があると思ったからです。これがあれば美容において大きく変化が起きると思っています。それに貴族の女性はこの価値に気が付くと意地でも入手しようとするでしょう。だからむしろ金貨一枚でいいのか?と思うぐらいです。」
「なるほど。」
リアは、最初庶民に向けて作ったつもりがまだまだ甘かったようだと反省した。
「それでどうしますか?」
「金貨一枚で結構です。その代わりにこれの制作者が私であることを内緒にしてほしいんです。これからも定期的におろしに来るつもりなのでよろしくお願いします。」
「分かりました。商人ギルドリデア支部ギルドマスターとして約束します。」
「え?」
「ふふふ、驚きましたか?こんななりでもギルドマスターなんです。ちょっと待ってくださいね、すぐにお金をとってきますので。」
リアは、ほんの少しだけ固まっていた。まさかギルドマスターが女性であんなに若い人だとは思わなかったのだ。するとすぐにキルエが部屋に戻ってきた。手には金貨がぎっしり入った袋を持っている。
リアは、それを中身も確認せずにマジックバックに放り込んだ。
「えっと、中身を確認しなくても。」
「商人は、信用が第一ですよね?今日はありがとうございました。おかげでいい商談ができました。」
リアがそういうと納得したかのようにキルエが笑った。
「そうでしたね。今日は、ありがとうございました。またのご来訪を楽しみにしてますね。」
そうしてリアの初めての商談は大成功に至った。
※ ※ ※
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