第10話 訓練

「はあっ、はあ。」


「はい、おしまい。」


「くっそぉぉぉ。」


私に木剣を首に突き付けられたギルは、疲れのあまり地面に倒れ伏した。今私は、ギルと模擬戦をしていた。あの日、ゴブリンキングの襲来によって彼らはぼこぼこにされ、一歩間違えれば死んでしまうという危機に陥った。


てっきり私は、心が折れてしまうんじゃないかと思っていた。冒険者とは、常に命の危険がちらつく仕事。特にこの前は規格外ともいえるゴブリンキングに遭遇したのにも関わらずだ。それでも彼らは違った。


◇◇◇


その日から数週間が経ち、私はお母さんと再び村に訪れた。村に入るとすぐさまアリアちゃんが駆け寄ってきて、私の腕をぐいぐいと引っ張っていったのだ。連れてこられたのは、村のはずれのちょっとした広場。


ギルは、一生懸命素振りをしていた。カインは、魔術の練習をしていた。シーナもまた足音を立てずに走る練習をしていた。


驚いた。みんなが訓練していたのだ。もっと強くなるために。


「おーい、みんな。エルちゃん連れてきたよー。」


アリアの掛け声をもとに訓練をやめてみんなが一斉に駆け寄ってきた。


「えっと、お久しぶりみんな。」


「すまなかった!!」


「え!?」


私がみんなにあいさつすると開口一番にギルが謝ってきたしかも土下座付きで。


「ちょっと待ってよ。私何にもされてないよ?」


「違うんだ。俺が勝手にゴブリンキングに突っ込むなんてことをしたせいでみんなけがをさせちまった。エル、あんたがいなければみんな亡くなっていたんだ。本当に申し訳ない。そしてありがとう。」


「うん、それが分かったのならいいんだよ。それで?私をここに連れてきたのには訳があるんじゃない?」


私の言葉にギルたちは、顔を見合わせて口をそろえていった。


「「「「俺(私)達を強くしてください。お願いします。」」」」


「え?」


私はその言葉にびっくりしていた。え?私が鍛えるの?私魔法以外できないんだけど。


「私たち4人じゃどうしようもないし、エルちゃんってすごい魔法が使えるでしょ?もう頼れるのはエルちゃんだけなのよ、お願い。」


私、魔法だけなんだけどどうしようかなぁ。アリアちゃんの子の顔を見ると断るのがすごく申し訳ないというか…。あーだこーだと私が悩んでいると。


(受けたらいいじゃない?)


「うひゃあ。」


「どうしたの?」


「ううん、何でもない。」


お母さんからのいきなりの念話にびっくりしたせいで変な声を上げてしまった。おかげでみんなからいぶかしげな目で見られている。これはもう、家に帰ったらおやつの追加要求をせねばなるまい。


(でも私魔法以外教えられないよ?)


(それでいいのよ。教えることで理解が広まることもあるんだから。まぁ、私も手伝ってあげるから。)


あぁ、ならいいや。お母さんが手伝ってくれるならどうにでもなるから。それにしてもお母さんって妙に人間臭いんだよね。神ならば生物みな平等とか思っていると考えてたのに。特に私に関しては肩入れしすぎている気もするし・・・。今度聞いてみよう。今は、この子たちの方が先決だ。


「分かったよ。私にできることならね。」


「ありがとうね、エルちゃん。」


アリアちゃんが私の手をぶんぶん振って喜んでいる。正直こんなに喜んでくれるだけでもうれしい。ということで私とお母さんは今までよりも頻繁に村に通うこととなった。


とまぁ、こんな感じで鍛えることとなったのもあり、ギルと模擬戦をしている。もっとも膂力で私はかなわないのでひたすらギルの剣筋をそらしまくっていただけなのだが。後は、体力勝負なので動き回るギルに対して最小限の動きでよけ続ける私どちらが長持ちするかなど言うまでもない。


(それにしてもギルもすごいね。)


人間誰しもが魔力を持っている。魔力は、成長するかもしくは魔物を倒すか魔物の肉を食らうことで増える。これに限ってはお母さんが言っていたので間違いない。何でも魔物は魔素という物を体内に含んでいて魔物を倒すとそれを吸収するために肉体が少し強化される。そしてある程度魔物を倒すとより強い魔物じゃないと意味がなくなる。


まぁ、有り体に言えばレベルアップだね。ギルはまだゴブリンしか倒してないし、まだまだ成長する。それに打ち合わせてみたらわかる。彼には剣の才があった。それもかなりだ。一撃一撃受けるたびに鋭くなっているような気がするのだ。まあ、何が言いたいかというと身体強化魔術教えたらとんでもなくなるような気がする。


カインとアリアに関しては私がきちんと魔術について教えた。そう魔術だ。彼らが魔法と呼んでいるものは魔術という物だと説明するだけでカインはあんぐりと口を開いていた。アリアはよくわかっていなかったけど。


ちなみにそのことに関してきちんと対策は取っている。お母さんが薬師のおばば様に説明しに行ったのだ。魔術師であれば私の種族を説明するだけで納得するであろう。何しろ狐人族は魔法のエキスパートだからだ。


とは言え二人に最初に教えたのは魔力操作だ。二人ともやはり私と種族が違うのもあってめちゃくちゃ苦労していたが私も手を貸すことで何とかなった。魔力操作の利点は3つある。単純に自分の持つ魔力量が増えるのと魔術の制御がしやすくなるのと魔力の無駄が減る。


それを教えると二人とも人格が変わったかのように取り組みだした。やっぱり魔力が増えるのは魅力的だよね。


シーナに至っては私に斥候の能力がないので困っていたのだがそんなところにちょうど良くお母さんが来た。正直何でもできる超人(女神)なのでどうにかなると思う。いやむしろ世界最強レベルの隠密とかになれそう。


膂力も強く、剣の才もありるギル。平民なのに魔術の素養があり、魔法のエキスパート(きちんとお母さんから認めてもらった)たる私から魔法を学ぶカイン。生まれつき影が薄く、その上師匠に神がついたシーナ。弓の腕もよく、それとは別に貴重な回復魔術の使い手のアリア。この中だとギルは平凡に見えるけどそうでもないんだよね。


この村の子供たち、どこかの貴族と間違えてない????才能ありすぎ頭おかしいよ~。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る