第9話 冒険者ごっこ

「おーい、アリア。今日もいくぞー!」


ドアから現れたのはいかにもガキ大将っていう感じの男の子、その後ろに女の子と男の子がいる。


「えー、ギル。またー?」


「おう、そうだ。今日こそはお宝を見つけるんだ。それよりもその横にいる奴は誰だ?」


「こっちはエルちゃんよ。いつもうちの野菜を買いに来てくれるミリアお姉さんの子供らしいよ。でこっちが幼馴染のギルとカインとシーナよ。」


幼馴染という言葉に反応しそうになったがスルーしておく。例のガキ大将の名前がギルで同年代の子供にしては大きい体躯に鋭い目つき。見た目だけなら強く見える。後ろにいたちょっと頼りなさげな感じの男の子の名前がカイン。思わず口に出しそうになったがこの子魔法が使える程度には魔力があった。将来有望だと思う。もう一人の女の子がシーナで薄紫色の髪の毛に今にも消えてしまいそうなくらいに気配が薄い。斥候とかに向いてそうだと思う。アリアに関してはカイン以上に魔力があった。この村の子供たちすごいなと思う。もしも冒険者とかを目指すのならこのパーティはすごくバランスが取れていると思う。


「よろしくね、ギル君、カイン君、シーナちゃん。」


「お、おう。」


「よろしくね。」


「よろしく。」


ギル待てそのいかにも惚れましたって反応やめてくれ、頬っぺたも赤いし。私子供相手に欲情しないですよ?さすがに。シーナに至っては無口キャラぽさそうだしなんかかっこいいね。


「ちょっと、ギル。エルちゃんは渡さないんだからね。とりあえずエルちゃん。私準備してくるから待っててね。」


なんかさっきまではいくのにも反対そうだったのに、なんだがアリアちゃん楽しそうだ。それよりもえ?私もいっしょなの?てかよく見たらカインとシーナもなんだがそわそわしてるし、この時代の子供にそんな楽しい遊びあったっけ?


「えっと、アリアちゃん。何するの?」


「あぁ、言ってなかったね。冒険者ごっこだよ。」



◇◇◇



ギル君は長剣、カイン君は杖、シーナちゃんはナイフ、アリアちゃんは弓を手に私たちは、村の近くの森に向かっている。村の入り口の警備員さんにもきちんと一言断っておいた。お母さんが止めてこないってことはまず安全なんだろう。少なくとも私にかなうような魔物はいないのだろう。今の私は、ゴブリンに苦戦していた時と違うのだ。魔法に頼りきりだったあの時とは違うのだ。さすがに魔法に比べれば精度は落ちるものの周囲の気配を探る技術も身に付きつつある。それも何もかもあの超人お母さんのおかげなのですが。


さて彼らには今日二つの目標があるそうです。一つはこの森にある薬草の採取。もう一つは、小型の動物の狩りらしいです。彼らもといガキ大将のギル君が父親が元冒険者だったのもあり、冒険者に強くあこがれを抱いてるそうです。


「まずは、薬草探しをしましょう。とりあえず、男組と女組で分けましょうね。というわけでシーナちゃんとエルちゃんかもーん。」


アリアに半ば引きづられるように私とシーナは連れ込まれました。いや、ギルとカインの顔がすごいがっくりしてんだけど。いやまあ、私も元男なので分かりますよ。男だけのパーティほどむなしいものはありませんから。


そんなこんなで二手に分かれて薬草採取に取り組むことになりました。それはいいのですが


「ねえ、エル。これ薬草?」


「いや、シーナちゃん。それも雑草だから。」


「そう。」


いやまあ、仕方ないですよ。薬草ってすごい分かりにくいしその上10歳の子供に薬草なんて見る機会などほとんどないのだから。アリアちゃんは何故か私薬草分かるから二人はここにいてねーと言ってどっか行ったし。もしかして私たち役立たず認定されてる?


「シーナちゃんちょっと見ててね。」


「?」


シーナちゃんが首をかしげていますが私は気にせずとある魔法を発動します。


「《ウォーターシャワー》」


名前からわかる通りこれは水をばらまく魔法。しかしこの薬草探しという用途においてこの魔法はとても役に立ちます。


「シーナちゃん、あったよここ。」


「・・・・これ全部?」


シーナちゃんが固まってしまった。もしかして魔法のせいかな?やっぱ村の子供に魔法は珍しいのかもしれない。


「そうだよ、だから一緒に集めようね。」


「うん。」


薬草には水をはじく効果があるので水をかけてしまえばすぐに見つけることができます。ちなみに集めている最中にアリアちゃんが戻ってきて、「これ全部薬草じゃん。すごいね。」と言ってくれた。いや、見ただけで薬草だとわかるアリアちゃんのほうが怖いよ。その証拠にアリアちゃんの鞄には少量ではあるものの薬草が入っていた。雑草は一切入ってない。私も一応見たらわかるけどアリアちゃんほど正確ではないと思う。


鞄にある程度薬草が集まったのでひとまず合流することにしてみた。


「がはははは、どうだこの数。いっぱい集まったぞ。」


「いや、ギル。僕がいなければ集まらなかったじゃん。」


「小さいことは気にすんな、カイン。カインってばすげえんだぜ、いきなり魔法を使ったと思ったら急に周囲の草を濡らしちまうし。まあ、そのおかげで簡単に見つかったがな。」


ギルはひょっとしたら普通にいいやつなのかもしれない。なんだがカインも少し顔が赤くなってるし。


「それにしてもカインは魔法が使えるんだね。すごいね。」


「薬師のおばあちゃんが魔法が使えるみたいでね、時々教えてもらってるんだ。」


「なるほどねー。」


魔術が使える人がこんな辺境にいるなんてやはり訳ありなんでしょうか?それにしても私は、人間の魔術に少しワクワクしてきた。


◇◇◇


「おい、いたぜ。」


ギルがさしているのは、森の中にいる3匹のゴブリン。


「ねえ、帰らない?」


「ばか野郎。ゴブリン程度も倒せないようじゃ立派な冒険者にはなれねえぞ。」


「そうよ、カイン。ゴブリン程度なら大丈夫よ。」


「私たちならいける。」


「そんな~。」


「私もやめといたほうがいいと思うけど。」


おっとここで想定外の出来事です。カイン君の言葉になんとアリアとシーナまでも賛成の意を表明しました。頭のよさげなアリアのことだから撤退しそうなものなのにそこは何というか年相応というべきなのかな。私は、ゴブリン狩りは頼み事じゃないから普通にやめといたほうがいいと思うんだけど。魔物を見て駆け寄る魔物とかもいるんだし


「おい、白いの。ここからは俺たちの戦いだ。ゴブリン程度には負けるつもりはないからそこで見ていろよ?」


(ゴブリン程度ならいいんだけどね…)


不穏な気配を感じつつもとりあえず静観することにします。こういうのは一度痛い目にあったほうがいいでしょうし。


火球ファイアーボール


カイン君の放った魔法がゴブリンのもとへぶつかります。


(やべえ、しょぼし。無駄が大きい。)


カイン君の放った火球は牽制程度でのもでとても威力の弱っちいものでした。しかも魔力の無駄も多く、横を見ると息を切らしているのでもう魔力が枯渇寸前のようです。でも一つだけいいところがありました。


(かっこいい~)


魔術が発動する瞬間に杖から魔法陣が現れたのです。いやこれはマネしないといけません。私は魔力を直接練って魔法を使うので魔法陣なんてかっこいいものなんかは現れません。いやはや男心間違えた女心くすぐるいいものです。


そんな中、魔術に呆けていると足元の火に困惑しているゴブリンの後ろからシーナちゃんが現れ、そこで一閃。あっという間にゴブリン一体を片付けてしまいました。そして気になるこの男ギルはというと


「おりゃあああ。」


剣を両手にゴブリンに真っ向から殴り掛かりに行っています。その剣さばきは我流で荒々しいもののすぐに決着がつきそうです。それにしてもゴブリンは魔物なのもあり、あんな小さな体でかなり力があります。それに10歳で膂力で勝負できるギルもすごいです。


でアリアはというと


「えい。」


かわいい声をしているもののその狙いは驚異的なものでゴブリンの急所を弓で打ち抜いていました。


「とどめだ。」


ギルはゴブリンの棍棒を力任せに降りぬき、ゴブリンの肩から斜めに切り裂いてしまいました。


「よっし。」


「お疲れ~。《治癒ヒール》」


「ありがとう。」


勝利の余韻に浸っているのかギルは片方のこぶしを握り締めガッツポーズをしています。アリアに至ってはみんなに治癒の魔術をかけて癒しています。いやはやこのパーティバランスいいよね。将来的にかなりいいパーティになりそう。何よりゴブリンの死体を見ても平気なあたりすごい。私結構なれるまでに時間かかったのに。とここで先ほどから私のとらえていた不穏な気配が近づいてきた。私は、そっと気配を消した。


ゴブリンを大きくしたかのような魔物。引き締まった肉体にあふれ出る強者のオーラ。その名も・・・


「ゴブリンキング…」


「はっちょうどいいぜ。俺の剣の錆にしてくれる。」


「待ってギル。」


「だめだ・・そいつは」


アリアに加えてばてているカインまでもが声をそろえて警告した。でもそれじゃ遅い。きちんと警戒して森の中では油断してはならないのだから。二人の声を無視してギルはゴブリンキングに襲い掛かる。


「くらえええ。」


「グゴッ?」


ギルの放つ渾身の一振りはいともたやすくゴブリンキングの棍棒で止められ蹴り飛ばされた。


私が援護に入ればすぐに終わるだろう。だがそれでは意味がない。これはみんなに危機感を持ってもらうのに必要なのだ。一度死の淵に立った状態から生き残った者は、生存能力が非常に高い。それは、決して油断をしないからだ。


ゴブリンを狩るというのもきちんと周囲の魔物を確認したかしないかで大きく危険度が違う。今回は、それを身をもって知ってもらう。だから私はぎりぎりまで助けないことにする。


「よくもっ!」


ギルのことで血が上ったシーナは、ゴブリンキングの背後に回り込み、首を一刀両断しようとするも


「なっ!?」


ゴブリンキングの首があまりにも固くナイフがはじかれてしまった。どうしようもなくなったシーナをゴブリンキングは気絶させ、その場に放置した。


「お願い、こないで!!」


アリアの願いむなしく放つ矢は鋼鉄のようなボディにはじかれ、矢が通らない。いやらしい笑みを浮かべながらゴブリンキングが近づいてくる。もうだめだとそう思っていた。


「《氷弾アイスバレット》」


天使のようなかわいらしい声とともに出された氷の弾丸が狙いすましたかのようにゴブリンキングの心臓を打ち抜き、一瞬で絶命させた。


「もう大丈夫だよ、アリアちゃん。」


「うぐっ。」


私の声に安堵したのかアリアちゃんは泣き出してしまった。その後、会話など弾むはずもなく魔法で身体強化した私はカインとシーナを担ぎ、ギルを魔法で浮かして村へと戻りました。アリアちゃんがずっと私の服のすそをつまんでいたのがかわいかったです。私たちを見て、村では何事かと騒ぎがあったもののゴブリンキングを倒したことを言うと、村中で大歓声が沸き上がりました。もっともアリアちゃんとかの親たちは泣いていましたが。


とりあえずちょっと怖がらせすぎたような気もしますがこれで無茶をすることはなくなったはずです。(トラウマになってなければ)

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