第8話 村に行ってみよう。

「ねえ、エル。お母さんと一緒に村まで行ってみない?」


「えっと、どうして?」


お母さんは、地上に降りてきてから基本的に神としての力を必要以上に使わないようにしている。あくまでもこの世界にいる生物にできる程度の力しか出さない。もっともその基準は、世界最強クラスだが。そんなわけなので食料調達などもしなければならない。そこでお母さんはいつも近くにある村で野菜を買ってきている。肉に関しては自分で狩ったものを冷凍させて保存させている。


今の私は、ちょうど10歳。身長も結構伸びたし、魔法の方もかなり順調だ。剣の方も順調とは言えないがかなり受け流しの技術もついてきた。問題といえば体力の方だ。種族的なせいなのかなかなか体力がつかない。それは置いといてそんな時期に突然村に行かないか?と誘われたのだ。誰だって疑問に感じると思う。


「この世界に来てからちょうど10年。今のところは私と二人暮らしだから問題ないけどいつかはどこかに行く予定なんでしょ?ほかの人との交流も大事だと思うよ。まあ、私には関係ないけどね。」


お母さんの顔はどこか寂しそうなものだった。そうだ10年前から突如始まったこの生活も今ではとても感謝している。この世界での成人と認められる年齢は15歳。たぶん15歳になった時にお別れなんだろう。そう考えてみると少し寂しくなる。いくら前世の両親が生きているとはいえ、こう見えてもこの世界でたった一人の家族であり、母親なのだ。


(後悔しないようにしよう。)


「分かった。私も連れてって。」


「よーし、じゃあこれに着替えて。」


「えっとこれは。」


先ほどまでの寂しさはどこへやら。お母さんがどこからともなく取り出したのは、かわいらしいフリルのついたワンピースだった。そういまだに私はかわいらしい服というのが苦手なのだ。本来なら一蹴するのだが・・・


「物理軽減、魔法軽減、防汚。これほど安全な服はないわよ。」


その服には魔法がかけられていた。物に魔法をかけるというのはかなり難しい。私も少しずつ習っているもののなかなかできない。だがそこは女神クオリティ、この人はいともたやすくやってのけるのだ。


しかもワンピースを絶対にきてもらう為なのかいつも私が魔物狩りをするときに使う革の防具がないのだ。用意周到すぎる。しぶしぶお母さんの要求を呑み、ワンピースに着替えてみた。


「もおー!!!エルちゃん可愛すぎる。もう、天使よ。ねえ、村に行くのやめない?」


「だめ!!!お母さんが目的忘れたんじゃだめじゃん!」


(もうやだ恥ずかしい。)


◇◇◇


ついた村はとてもこじんまりとしたものだった。木造でできた家のそばには畑が備えられており、様々な野菜が育てられていた。井戸もあり、そこからは水を汲んではタオルを湿らせて体をふいたりする人などもいた。とても生活感のあふれる村の姿に思わず感動してしまった。


(やっぱうち頭おかしいわ)


この光景を見て今更家の規格外さを学んだ。特に風呂なんかは人間魔法が使える人なんて珍しいうえに毎日風呂なんかやってたら大変だと思う。狐人族で良かったと思う。


「おや?ミリアさん今日も来たのかい。いつもよりも速いペースだけども。それに見知らぬ嬢ちゃんを連れてきているみたいだし。」


目の前から見知らぬお姉さんが来た。いや実際にはお店の中っぽいから違うけども。それにしてもお母さんの名前ミリアっていうんだ。初めて知ったよ。今までお母さんとしか呼んでなかったし。


「ええ。ちょっと娘にもここを紹介したくてね。ほらエル。」


「初めましてお姉さん、エルです。」


「あらお姉さんって口が上手ねエルちゃんは。それにしてもお母さんの名前も創造神ミリア様と同じでなんだか縁起がいいし、親子そろってそんなに美人ってうらやましいわねー。」


私は思わずぎょっとしたかのような視線をお母さんもとい創造神ミリア様に向けた。お母さんはこちらに向けてウインクをしてきた。うそでしょ。私創造神に育てられていたの?多芸なのは神様だからなのだと思っていたのだけど創造神って絶対一番偉い神様じゃん。そりゃあ、何でもできるわけだ。


たぶん私の人生の中で最も驚くような出来事を聞かれればこのことだろう。もっとも言いふらすつもりはない。誰も信じないだろうし私にとっては神とか関係なく母親なのだから。


「とりあえずいつものやつもらえますか?」


「任せてちょうだい。あぁ、エルちゃん良かったら私の娘とも仲良くしてくれないか?ちょうどエルちゃんと同じくらいの年なんだ。」


え、この人母親なの。若すぎでしょ。それよりも仲良くするのはいいのだけども。そっとお母さんの方をのぞいてみると小さくこくりと頷いた。どうやら許可が下りたようだ。


「うん。」


「そっかよかったよ。アリアー!ちょっとこっちにきな。」


「なにー、ママ?」


奥から出てきたのは私と同じぐらいの女の子で亜麻色のきれいな髪にかわいらしい顔の女の子がいた。


「こっちが娘のアリアでこっちがいつも野菜を買ってくれるミリアさんの娘さんのエルちゃん。」


「私は、エルフィーナ。エルって呼んでね。よろしく、アリアちゃん。」


(こんなのでいいのかな?)


私はこの10年間お母さん以外と話したことがない。そのため少し緊張していた。精神的にはもう20後半に行くのもあり、自分と同じくらいの年代の子と仲良くなれるかが怪しかったのだ。


「うんっ、よろしくね。エルちゃん。」


(うっ、まぶしい。)


花の咲くような笑顔を当てられたものの何とか仲良くなれそうでよかった。そのあとはしばらくガールズトークにいそしんでいた。普段は何をするのか?どんな生活をするのか?話を聞いた限り、親のお手伝いとかをするそうで一緒に野菜を育てたりするそうでそんな空気の中突如乱入者がやってきた。

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