第7話 狩りに行こう 下

「グギギギギギ」


今のゴブリンにとって私は絶好のカモだろう。ゴブリンはよく人間の女性を狙う。それは子供も大人も関係なく、苗代に使えるからだそうで。こちらを見て嬉々と近寄り右手に持つ棍棒を振り下ろしてきた。私は咄嗟に腰にあるショートソードを抜き、中腰で棍棒を受け止める。


「くっ」


いくらお母さんが私が一般人よりも強いと言っても膂力では到底かなわない。なら私はどこで勝っているのか?命を危機を感じたのか急速に頭が冷えていくのを感じる。そこで私は一つ思い出した。


「相手の攻撃は受け止めるのではなく、受け流す。」


私は種族的にも性別的にも成長しても大した力はつかない。魔法で力を上げればいいと思うかもしれませんが魔法で強化した分だけ制御に思考が割かれてし舞うし、魔力も持っていかれる。戦場ではコンマ一秒の差が生死につながるとも聞く。それに私に剣の才はない。愚直に努力したとしても剣で世界をとれるような人にはなれない。そこでお母さんが私に教えてくれた剣はいわゆる柔の型と呼ばれるものだ。


剣を受け止めるだけの力がない。それなら受け流せばいい。そうお母さんは、教えてくれた。この剣はカウンターであり、相手の攻撃を誘い出しそこにつけこみ相手を打ち倒すもの。幸い私は目がよかった。お母さんは、神です。お母さんにとって剣術など路傍の石程度と変わりません。


私は、お母さんにありとあらゆる剣を見せてもらいそれを受け流す訓練をしている。お母さんの剣筋は一切乱れることがなく、きちんと受け流せなければ簡単に吹き飛ばされてしまう。お母さんは、私に剣術など必要ない。魔法だけを身につければいいと言ってくる。確かにそうだと思う。でもそれでも剣を習おうとするのはもはや私のエゴだ。前世では必死にを支えようとしてくれた幼馴染がいた。それでも命を棒に振ってしまったのが私だ。もしかすれば剣があの時使えていればといった後悔がいつか起きるかもしれない。起きないに越したことはない。でもお母さんは女神さまだ。せっかく身近に世界最強がいる。身につけておいて損はないと思う。


私が剣でできるのはたった一つ。受け流すこと。


そんな私がお母さんの剣を受け流す成功率は良くて100回に1回程度、全くできない日もある。ですがお母さんの剣に比べてゴブリンの棍棒など比べれるわけもない。肩の力を抜き、ゴブリンの棍棒を剣の柄の方を上にして、華麗に受け流したうえでその場に立ち上がり、ゴブリンの腹にけりを入れます。もちろんこれでどうにかなるわけではない。8歳児程度の脚力でゴブリンがどうにかなるはずもなく少し距離が開いたぐらいだ。


これでようやく五分といった戦況だ。しかも私はこけたせいで膝にけがをしている。痛い。このことを考えると圧倒的に私が不利だ。ですがもう大丈夫。慢心を捨て、冷静になった私にゴブリンなど恐るるに足りない。


私に蹴られたのが不快なのか先ほどよりも生きよい良く棍棒を振り下ろしてくる。それを華麗に受け流し、私は手首を斬りつける。


「グギャアアアア。」


痛みのあまりゴブリンは手から棍棒を落としてしまう。その隙を私が見逃すはずもなく、急いで足首を斬りつける。それと同時に立てなくなり、倒れこんだゴブリンの胸に剣を突き立てた。返り血がぶしゃっとかかったがそんなことにも気づかない。なぜなら


「勝てた?」


ゴブリンを見ても動くことはない。ゴブリンに勝てたという事実がとてもうれしかった。ですが戦闘モードが終わった私に急速に疲れが襲ってきました。アドレナリンが出ていたのだろうか。その甲斐もあって戦闘中は何とかなりましたがやはり疲れていた。狐人族の貧弱な体力はやばい。それと同時に急に吐き気をもよおした。


「うえぇ。」


地面にはいてしまった。原因はゴブリンの死体だ。ただでさえ臭いのに血まみれでとてもグロデスク。とてもじゃないですが元日本人には耐えられるものではない。


(それでもなれないといけないんだろうな。)


その場ですぐさま水魔法で口をゆすぎ、氷魔法で服についた血を落とす。そしてショートソードでゴブリンから魔石を取り出す。


ゴブリンの魔石がある位置は脳らしい。正直この情報だけで取り出すのを躊躇いますがやらないわけにはいかない。


結局、その場でもう一度吐いたものの魔石をカバンに入れてさっさと帰りました。家までたどり着き、ドアを開けるとお母さんが


「お疲れ様。」


と言ってくれた。この言葉だけで頑張ったかいがあったと思う。そう思っていたのもつかの間・・・。


「でも臭いから一緒にお風呂に入りましょうね。」


お母さんは一瞬で私との間合いを詰め、私を抱き抱えて風呂場に連行しようとしてきた。これはまずい。この3年間でお母さんのテクニックも上がったのもあり、いつも私は骨抜きにされている。



「な、何をする。やめてーーーー」


私の魂の叫び声がお母さんの耳に入る訳もなく、今日ももみくちゃにされた。

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