第290話◇全天祭典競技最終段階『血戦領域魔王城』12/誰が飛び出すか




「……驚いたな姫。その指輪は王の家系に引き継がれてきた魔法具だろう。貸与とはいえ、他の者に使わせるとはね」


 カーミラを前にして、ビフロンスさんは魔王様に声を掛けた。

 魔王様はつまらなそうな顔をして応える。


「道具は使うものだ。この者なら、余よりも巧みに扱うと判断したのみ」


 驚いているのは、ビフロンスさんのみ。彼は、僕が召喚の指輪を使用することを知らなかったようだ。

 先代フルカスさんと先代ヴォラクさんの武人組は動じていないが、動画などで把握していたのか。

 ダンタリオンさんは表面上微笑んでいるように見えるのだが、目が笑っていない。


 魔王様の返答に、ビフロンスさんが首を傾ける。

 

「へぇ? では参謀殿は、お友達が多いんだね?」


「――貴方」


 カーミラの呟きに合わせ、大きな影が戦場を駆け抜けた。

 彼女が生み出した血の巨剣が振るわれ、ビフロンスさんの大蛇の首全てを刎ねたのだ。


「魔王様とレメゲトン様に対して、無礼ではなくて?」


 落ちた首たちは体に戻ることが出来ず、液状になって地面にぶちまけられ、直後に魔力粒子と散る。

 カーミラの血――つまり魔力――が混入したことによってビフロンスさんの命令を受け付けなくなり、ただの血液と化したのだ。


「……今は君が吸血鬼を率いているのかな?」


 頭を失った大蛇だが、すぐさま膨大な血液によって再び頭部が生成される。それどころか、頭が更に増えたようだ。


「そうだけれど、貴方は誰なのかしら?」


 前任のフロアボスということもあり、カーミラはビフロンスさんを知っている筈だが、わざと知らないふりをしているようだ。

 自分のことを相手が知らなかったようだから対抗して……ではないと思う。

 彼が僕の指輪の件を把握していないなど、関心が薄いことに憤っているのかもしれない。


「あはは、活きの良いお嬢さんだなぁ」


 吸血鬼の真祖と女王が火花を散らす。


「もう、ビフくんは悠長だなぁ」


 しびれを切らしたように動き出したのは【無形全貌】ダンタリオンさんだ。

 彼女はこの戦いで既に見せたのと同じ、巨人の腕を再現し、それをこちらに向かって振るう。


 もし喰らえば、僕はそのままペチャンコになり、人が羽虫を潰した時のような点と成り果てるだろう。

 巨人の一撃は、人にとってそれだけのもの。


 だが、その必殺の一撃も、僕には届かない。

 その拳が、真っ向から放たれた別の拳に弾かれたからだ。


 【破壊者】フランさん――違う、、


 確かにサイズこそ彼女の腕のように大きいが、その上に更に黒い鎧のようなものを纏っている。

 そして、腕の持ち主は僕らのよく知る人物だった。


「……みんなが頑張ってるんだもん、こういう時は協力しないとね」


 ネコ科を思わせる双眼、二つに結われた桃色の髪、可憐な十代の少女といった容姿をした女性。

 サキュバスの種族的特徴を有しているが、その正体は変身能力を持つ豹の亜獣。


 可愛いものを好む彼女だが、仲間の大切なものの為ならば、時に己の感性にそぐわぬものにも変身してくれる。レイド戦では、レメゲトンの姿をとって戦ってくれたこともあった。


 僕にとっては、オリジナルダンジョン攻略にも協力してくれた、仲間思いの頼れる友人。


 『難攻不落の魔王城』第五層のフロアボスにして、四天王の一角を任されている実力者。

 【恋情の悪魔】シトリーだ。


「わ~、それってメイド服ってやつ~? かーわいーねぇ」


 即座に腕を元に戻したダンタリオンさんが、にこやかに言う。


「ありがとう」


「きみも、今の魔王城の子だよね?」


 ダンタリオンさんは笑っているが、目にはなんとも形容できないうつろが覗いている。


「うん。シトリーはルー……魔王さまの四天王だよ」


「あっはは……。別に何着たっていいんだけど、『難攻不落の魔王城』が世間に示すべきはさ、強さなわけ。圧倒的で、絶対突破できそうになくて、思わず勇者たちを応援してしまうけど、それでも奴らは勝てない。だって最強の魔王のお城だから。メイドは可愛いかもしれないけれど、戦士じゃなくて裏方の衣装でしょう?」


 メイドもそうだが、サキュバスを抱えるダンジョン自体が珍しい。

 シトリーさんは純粋なサキュバスではないが、配下はみんなサキュバスメイドだ。

 僕は第五層の脅威を分かっているが、搦め手といえばそうだろう。

 おそらく、ダンタリオンさんが『難攻不落の魔王城』に求めるそれと、シトリーさんの強さはズレているのかもしれない。


「つまり、どういうこと?」


「その格好、魔王城に要るのかよってこと」


 ダンジョン攻略の映像配信というエンターテイメントが生じて以降、世界で唯一ただの一度も完全攻略されたことのないダンジョン。

 それが『難攻不落の魔王城』だ。


 ダンタリオンさんはそこに、師匠や旧魔王軍のような圧倒的かつ、分かりやすい強さを求めているのだろう。


「きみ、何言ってるの?」


 シトリーさんもまた、腕を元に戻し、唇に細い指を当てながら言う。


「ん?」


「可愛いは正義! 可愛いが不必要ってことは、正義が不必要ってことなんだよ!? そんなのってダメじゃない?」


 シトリーさんの発言に、ダンタリオンさんが目を丸くする。

 予想外の返しだったようだ。

 それでもなんとか、彼女は口を開く。


「……魔族の役目は悪なんですけど?」


 その言葉に、シトリーさんがハッとした顔を見せた。


「つまりシトリーは、正義を司る悪魔ってこと!? なるほどなるほど。清濁併せ呑んじゃう、最強メイドなんだね! ふふんっ、悪だけのきみにどうにか出来るかな?」


「……あ、わたし、きみ嫌いかも」


 相手を自分のペースに巻き込む者同士は、相性が悪いのかもしれない。

 あくまで会話だけでいえば、シトリーさんが優勢にも思えた。


「シトリーもきみのこと嫌いだから、おそろいだね?」


「訊きたいんだけど、きみって死ぬ時も可愛いの?」


 ダンタリオンさんがニッコリと微笑む。

 シトリーさんも可憐に微笑み返した。


「知ってどうするの? きみには見られないのに」


 舌戦を繰り広げていた二人だが、同時にその姿がぶわりと変化する。

 変身能力を有した者同士の戦いが始まるのだ。


 時を同じくして、武人同士の戦いも勃発していた。

 ほとんど間を置かず、金属の弾かれる音が連続する。その数は二桁を超えているように思えた。

 一瞬で十以上の突きを放ったのは、巨大な黒い鎧の騎士。


 この鎧は巨漢が纏っているのではなく搭乗型になっており、中には小柄な女性が入っている。

 白い髪に褐色の肌をした、口数の少ない大食いの武人。鎧と『伸縮する槍』という二つの魔法具を操り、その槍の腕は魔王軍随一。


 【魔王】ルキフェルが魔法の師だとすれば、彼女は僕にとって剣の師にあたる人物。


 『初級・始まりのダンジョン』再建に協力してくれた他、オリジナルダンジョン攻略の際も力になってくれた、何かとお世話になっている人物。

 かつて行われたタッグトーナメントでは、決勝戦で戦った相手でもある。


 『難攻不落の魔王城』第八層のフロアボスにして、四天王の一角を担う武の者。

 当代の――【刈除騎士】フルカス。


 そして、彼女の槍捌きを容易く弾いたのが、彼女の父でもある先代フルカス老だった。


「……ふむ。少しは成長したようだ」


 父との会話に応じることもなく、フルカスさんは再び槍を突く。


「参謀殿、私はどう致しましょう」


 僕に召喚されるまでもなく魔王様の側に控えていたのは、銀の髪を後ろに撫で付けた男性。額の両端から山羊を思わせる角を生やしており、一見して魔人だと分かる容貌をしている。


 『空間移動』という固有魔法を有した彼は、魔王様への忠誠心で言えば魔王軍で一番。

 この全天祭典競技でも、他のパーティーを組まず魔王様の下につくことを選んだほど。


 『難攻不落の魔王城』第九層のフロアボスにして、普段は冒険者が最後に戦うことになる四天王。

 ――『時の悪魔』アガレス。


 僕が指示を出すまでもなく、彼は己のやるべきことを理解している筈だ。

 それでも敢えて声に出し、僕に指示を仰いでくれているのだ。


 思えば初めて逢った時から彼はそうだった。

 いきなり現れた人間が魔王軍参謀になったと言われて混乱もあっただろうに、最初の挨拶の時点で僕を位の上での上司と認め、丁寧に接してくれたのだった。


 魔王様への愛が深すぎたり、『幼心の守護者』を自認していたり、カシュにも異様に優しかったりするが、非常に紳士的で頼れる仲間なのだ。


「貴様は魔王様のお側に。そして時が来れば、魔王様を望む場所へお連れしろ」


「畏まりました」


 アガレスは優雅に一礼し、命令を受諾。その顔には、笑みが浮かんでいる。

 やはり彼も同じことを考えていたようだ。


 とにかくこうして、ここに当代の魔王と、その下につく最高幹部五人が勢揃い。


「なるほど、なるほど……」


 カーミラと戦いながら、ビフロンスさんは得心がいったとばかりに頷いた。


「姫は『召喚役』を用意することで、己の役割を分割。自分は王との戦いにだけ注力できるようにと考えているのだね?」


 先程までは、魔王様が『祖父を倒す為の魔力』と『配下を呼び寄せる魔力』の両方に気を遣わねばならなかったが、僕を召喚することで後者の負担を肩代わりさせることが出来た。


 ここからは召喚を僕に任せ、再度魔力を溜めて祖父であるルキフェルとの戦いに臨める。

 そういった面も確かにある。


 ビフロンスさんに続き、ダンタリオンさんも声を上げた。


「レイドは観たから君の手勢も分かってるよ~。厄介なのは、キマキマとウェパルンと、あとはどこから拾ってきたのか異様に強い炎使いのベヌウって子だけ。あ、グラちゃんも能力はいいよね。勇者の女の子も面白いけど、配下ってわけじゃないから命令通りに動かなそうだし?」


 第二層フロアボス【死霊統べし勇将】キマリスさんは、本人が優れた剣士であるだけでなく、倒したことのある冒険者魔力体アバターを己の手駒として操ることができる。


 その脅威は、かつて【氷の勇者】ベーラさんの魔力体アバターを使役していたことからも窺えるだろう。魂なき人形に精霊の加護はつかないが、肉体が備える資質は同じ。


 第六層フロアボス【水域の支配者】ウェパルさんは、高位の分霊クラスの水魔法の使い手であるだけでなく、『船団の召喚』を可能とする魔法具を所持している。

 彼女が本気を出せば、このステージを水に沈めることも可能だろう。


 【不死の悪魔】ベヌウの中身は【炎の勇者】フェニクスなので強いのは当たり前だが、あいつは冒険者としてフィールドに健在なので、今は召喚できない。というかする意味がない。


 仲間にも透明化を施せる【不可視の殺戮者】グラシャラボラスさん、あとは高位の風の分霊と契約している【絶世の勇者】エリーさんの名が挙がるのも順当と言える。


 ダンタリオンさんはあくまで、彼女の基準で話している。より正確には、『ダンタリオンさんの考える、最高の魔王城のメンバーとして不足のない者』を挙げたに過ぎないのだろう。


 そうは分かっていても、共に戦った仲間の多くを蔑ろにされるような発言には、どうしても不満を覚えてしまう。


 だが言葉での反撃などしない。

 勝てばいいのだ。


 それに、彼女はどうにも思い違いをしている。


「油断するな、ご両名。そこな参謀にとっては、時を稼げるだけで充分なのだから」


 先代ヴォラクさんが、ビフロンスさんとダンタリオンさんを戒めるように言った。


「わかっているとも。僕らが少しでも油断したら、執事くんが空間転移で姫を運ぶっていうんだろう?」


 ビフロンスさんは背中から蝙蝠翼を生やし、真上へと飛ぶ。数瞬前までの立ち位置を、カーミラの操る竜頭が襲い、大地を砕いた。


 旧魔王軍の四人が僕の召喚した者達に構っているだけでも、こちらにとって充分なのは事実。


 その間にも魔王様は魔力を再生成し、それが溜まればアガレスさんの魔法で一気に師匠の許へと辿り着けるのだから。


 そしてそれを旧魔王軍が理解していることが、更に重要。


 師匠の前でこれ以上の失態を重ねたくない四人は、戦いの中でどうしても魔王様の転移に注意せざるを得ない。

 それは、歴戦の猛者の意識をほんの数パーセント削ぐ程度の効果しかないかもしれない。

 けれど、魔法も使わず敵の能力を削れるのなら、【黒魔導士】として上等というもの。


「本来、指輪の契約というのは非常に重いもの。『いつどんな時も、指輪の持ち主の意向次第で、問答無用に呼び出される』なんて無茶苦茶な条件、よっぽどの信頼関係がないと結べない。召喚に掛かる魔力よりも、有能な契約者を集めることの方が問題なんだ」


 ダンタリオンさんは様々なものに変化を繰り返しながら、指輪について言及。

 シトリーさんもレイドで見せた、可愛さ度外視の変身と特性再現によって奮闘している。


 そう、シトリーさんも紛れもなく四天王を務めるに相応しい実力者。その変身能力は見た目に留まらず、深く知っていれば固有魔法さえも再現可能なほど。


 また、ある姿をとりながら、異なる人物の特性のみを反映することも可能。


 レメゲトンの姿になりながら右腕を人狼のそれに変えたり、虫に変化しながらサキュバスの『魅了』を維持したりと、組み合わせによって新たなる境地を切り開くことができる。

 レイドではその能力を遺憾なく発揮し、挑戦者たちを翻弄してくれた。


 だが今回の敵は、そういった特性が被っている他、魔力量や耐久力や経験でまさっているダンタリオンさんだ。


 傍目にはどちらが優勢かが分かりづらいような攻防……いや変貌を繰り広げている。


「そういった意味では、参謀としての活動を見せてからの短期間であれだけの契約者を集めたのは見事だよね。君になら喚ばれても構わないと思う子があれだけいるってことなんだから」


 それは確かにその通りだ。

 僕は巡り会う人に恵まれていると思う。


「けど、『難攻不落の魔王城』の魔物を中心とした契約者構成から考えても、あれ以降に契約者の数が爆発的に増加することは考えられない。勇者の女の子みたいなのはイレギュラーであって、そうポンポン出てこないんだから」


 それもまた、その通り。


 同じ職場の仲間だからこそ、志を同じくし、指輪の契約にも応じてくれたという面はある。


 レイドで協力してくれた『初級・始まりのダンジョン』にしても、僕が魔王城で働き始める前からダンジョン間で繋がりがあったようだし、旧魔王城の者からすれば彼らが僕に協力しても違和感はないのだろう。


 フェニクス扮するベヌウ、リリー扮するストラス、ニコラさん扮するベリト、そして姿を偽らず登場したエリーさんなどは例外で、そういった存在の更なる出現に期待するのは、奇跡を願うようなもの。


 だから、レイド以降に僕の契約者がそうそう増えている筈がない、という推測は何ら間違っていないのだ。


 間違っていない、というだけの話なのだが。


「――だ、そうだが?」


 僕は今しがた喚び出した魔物に、そう声を掛ける。


「あっはっは。んじゃあ、新イレギュラーの第一号として、ド派手に挨拶かますかね!」


 その言葉と共に彼女の姿が掻き消え、次の瞬間には先代ヴォラクさんに踊りかかっている。


「――お主は」


 今日の彼女は素手ではなく、巨大な棍を手に持っている。棍棒ではなく、棒術などに用いられる太さが一定の武器だ。


「よう親父殿!」


 彼女によって振り下ろされた一撃を、先代ヴォラクさんは咄嗟に剣で弾いた。

 弾かれた彼女は中空でくるりと回転してから華麗に着地する。


 漆黒の髪が踊るように揺れ動き、竜の尻尾が床を撫で、深いスリットの刻まれた異国の衣装が捲れて美しく逞しい太ももが一瞬覗く。


 父親と異なり、彼女の容姿は人のそれに極めて近い。尻尾や角の他は、肌の一部に鱗が見えるだけで、あとは人間の美女だ。


 種族や流派を問わぬ真・異種格闘技戦の世界チャンピオンであり、『ドラゴンキラー・ドラゴン』のリングネームをとる格闘家の面を持ちながら、同時に『西の魔王城』の四天王も務めている彼女は。

 当代の――『竜の王』ヴォラク。


 先代ヴォラクの実の娘であり、当代フルカスの幼馴染でもある。

 そして、冒険者レメにとっては、全天祭典競技で戦った相手だ。

 彼女の登場に観客席だけでなく、先代ヴォラクさんとダンタリオンさんが驚いている。


「……何故、お主が」


「どうした親父殿。娘が知らぬ間に男と契約してて傷心か? 安心しな、別に心配するようなことはねぇからよ」


 魔法使いの特性を己に被せたシトリーさんが風刃を放ち、ダンタリオンさんはそれに切り裂かれてベチャベチャと地面に落下するが、何事もなかったかのように再生。

 避けられなかったのではなく、避けなかったようだ。


「……ヴォーくんの娘? 今、『西の魔王城』所属じゃなかったっけ?」


「おっ、リオン姐さん。そうだぜ、オレのボスはアスタロトサマで合ってっけど?」


「……じゃあ、『難攻不落の魔王城』についちゃダメでしょー」


 ダンジョンボスごと協力してくれた『初級・始まりのダンジョン』などはまだしも、五大魔王城に数えられるダンジョン間で人材の貸し借りを行うというのは、異常事態もいいところ。

 スポーツで言えば、競合する二つのチームに同時に所属するようなものだ。


 だが当のヴォラクさんはケロっとしている。


「何言ってんだよ。オレは面白い方に行くだけだ。今日、この世界で一番面白い場所はここだろ? そこに連れてきてくれるのがレメ……ゲトン殿だってんだから、それに乗っただけだっての。どこの魔王城所属とか、関係ねーの」


 師匠に絶対の忠誠を誓うこの四人には、とても理解できない行動なのかもしれない。

 別の魔王に仕えながら、異なる魔王軍の参謀の召喚に応じるなど。


 それだけではない。


 ヴォラクさんの登場は、先程までのダンタリオンさんの推測を覆す可能性を示したのだ。


 レメゲトンは、レイド時には喚んでいなかった人材と、新たに契約している。

 それも、別の魔王軍の四天王さえも引き入れる手腕。


 ……実際は、冒険者レメとして知り合うことが出来たからこその縁なのだが。


 旧魔王軍からすれば、レメゲトンの人脈が、この一手で未知のものとなった。

 五大魔王城の人材さえも手を貸すのなら、どこの誰が協力してもおかしくない。

 いつ、どのタイミングで、この世界にいるどんな強者が出現するか分からない。


 膨大な魔力と召喚の指輪に、無限の選択肢が加わってしまった。

 僕らを師匠の許に辿り着かせたくない四人にとって、これ以上の厄介事はない。


 彼らは歴戦の猛者ゆえ、どんな敵の出現にも怯えないだろう。

 だが、師匠への道を塞ぐという条件を己に課している今、四人は勝敗そのものよりも突破されることを警戒せねばならない。


 ヴォラクさんの召喚だけで、彼らの行動に制限を掛ける、極上の黒魔法を掛けたようなもの。


「さぁ、ふぅ! ひっさびさの共闘だな! 楽しくやろうぜ!」


 ヴォラクさんが幼馴染のフルカスさんに明るく声を掛ける。


「……」


「無視はすんなよな!」


 ヴォラクさんはフルカスさんをとても気にかけているが、フルカスさんの方は若干厳しい。


「……王が目を開かれたことといい、おひい様が指輪を授けたことといい、計り知れない手札といい、君は何者なんだろうね――レメゲトンくん」


 ここまでの会話で少し分かってきたが、ダンタリオンさんは『難攻不落の魔王城』に強いこだわりがあるようだ。というより、師匠がいた時代の魔王城を大切に思っている、というべきか。

 だから僕らを、そんな魔王城に適しているか否かで見ている。


 独特な空気感の明るい少女めいた態度の奥に、静かで熱い想いが見え隠れしていた。


「我が王の言葉を聞いてなかったのか?」


「うん?」


「魔王様は、最初に我を呼んでいただろうが――参謀、、と」


「――……あはは、そうだったね。魔王を支え、勝つ為の策や兵を用意する。確かにそうだ。君は今、とっても参謀だ」


 冒険者には冒険者の、魔物には魔物の戦い方がある。

 勇者には勇者の、参謀には参謀の役割がある。

 その瞬間の己の役割を果たし、全ての仲間の力を結集し、師匠まで辿り着いてみせる。


 そうして初めて、僕は、あの人に言いたいことを言えるのだ。

 

 その為にもまず僕は――【大聖女】パナケアさんを退場させねばならない。



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