第289話◇全天祭典競技最終段階『血戦領域魔王城』11/第一の
全天祭典競技最終段階『血戦領域魔王城』。
世界最強を決めるこの戦いから、【不屈の勇者】アルトリートが脱落。
それに先んじて退場した【黒魔導士】レメ――つまり僕は、『難攻不落の魔王城』君主である【魔王】ルシファーによって召喚され、【隻角の闇魔導士】レメゲトンとして復活を果たした。
そうして出現した僕を、師匠が、世界最強の【魔王】ルキフェルが、瞳に捉えている。
つい先程まで目を閉じていたというのに。
――魔力、だろうか。
『角の魔力』は
故に、ダンジョン防衛やこの競技で使いたいなら、生身の身体から
これは単純だ。
しかし僕の場合は、少しややこしい事情がある。
つまり、『冒険者レメ』と『魔王軍参謀レメゲトン』という、異なる二つの
そして、
もし今回、僕が冒険者レメ
先程アルトリートさんに破壊された時に、全魔力が消えてしまうところだった。
だが、
僕は、角の魔力の大半を、魔物レメゲトン
角に収められた魔力は通常、持ち主が意図的に解放しない限りは、他者にはバレない。
だが、分かるのか。
世界最強の魔王には。
今回、レメゲトンの角に収められた魔力の純度と総量が如何程のものなのか。
『オリジナルダンジョンをこの世に生み出すほどの天然の魔力溜まりに、世界最高峰のダンジョンを形成できるほどのコアから抽出した高魔力、そして本人の意味不明な特訓によって培われた魔力器官産の大量魔力。それらがぜーんぶ、相棒の身体には詰まっている』
黒ひよこ姿の精霊が、僕の周囲をふよふよ飛びながら語る。
そう。オリジナルダンジョンクリア後、この精霊ダークは僕を天然の魔力溜まりへと導いた。
魔王様は、僕に『難攻不落の魔王城』のコアを見せてくれた上、魔力吸収を許可してくれた。
そして僕自身、十歳の時から世界最強の魔王に鍛えられ、魔力器官の機能は極限まで高められている。
今この状態に限れば、僕はエアリアルさんやフェニクスにも劣らぬ魔力の持ち主。
いや、師匠を除けば、この魔力量は世界一かもしれない。
師匠の鋭く、感情の窺えぬ目が僕を見ている。
まだ、彼は目を開いただけだ。
彼の許に辿り着き、戦いの末に勝利する。
とても、とても遠い道のり。
人生が何度あったって無理かもしれない境地に、彼は立っている。
それでも今日、僕らは、彼に勝つためにここにいるのだ。
◇
僕は改めて戦況を再確認。
【湖の勇者】レイスパーティー。
【白魔導士】ヨス、【鉱夫】メラニア、【黒魔導士】レメが脱落。
残るはリーダーと、【破壊者】フラン。
【炎の勇者】フェニクスパーティー。
【戦士】アルバ、【聖騎士】ラークが脱落。
残るはリーダーと【氷の勇者】ベーラ、そして【狩人】リリー。
【嵐の勇者】エアリアルパーティー。
全員生存。
【魔王】ルシファーパーティー。
【大気の如き悪魔】イポス、【透明の如き悪魔】バラム、【一角詩人】アムドゥシアスが脱落。
残るはリーダーと【時の悪魔】アガレス。
二十人の選手の内、残るは十二人。
そこに、召喚された僕が加わる。
次に敵だ。
【不屈の勇者】アルトリートパーティー。
リーダーが脱落。
残るは【銀の弓】オライオン、【聖なる騎士】マクリミリアン、【大勇士】ヘクトル、【善なる魔女】ロジェスティラ。
【魔王】ルキフェルパーティー。
全員生存。
単騎での参加を果たした【大聖女】パナケアも健在。
十一人の選手の内、残るは十人。
なんとかアルトリートさんを退けることは出来たが、こちらの被害は甚大。
だが、僕らの誰一人として、下を向いている者はいなかった。
誰もが勝利に向け動き続けている。
今この瞬間、僕には最優先事項が二つある。
本来なら一つに絞るべきなのだが、どちらも譲れぬほどに重要なのだ。
一つ、己の
これまでは師匠が命じた通り、戦いを終わらせてから師匠を起こそうと動いていた彼ら彼女ら。
だが、師匠が僕に
師匠は起きたのに、敵は全滅していないからだ。
この四人は師匠への忠義だけを理由にこの場に現れた者達。そんな彼らにとって王の命を果たせなかったという事実がどれだけ重いものかは、想像するまでもない。
そして、その元凶である謎の魔人を、四人が放っておくわけもないのだ。
「……わからないな。あれだけの魔力の持ち主が、どういうわけで姫の下についているのか」
白銀紅眼の美男子、悠久を生きる不死の生命体――【真の吸血鬼】ビフロンスさんが首を傾げる。
「……そもそもさー、あの子ちょっと
スライムの特性と人の知恵を持ち、どのような攻撃も受け付けずどのような形にも変じるスライム娘――【無形全貌】ダンタリオンさんは、僕を見て違和感を抱いているようだ。
それは、人の身で魔王の角を継承した者への違和感か。
「【魔王】に匹敵する魔力を持ちながら、己が城を持たず参謀に留まる、か」
白い髪に浅黒い肌をした巨木の如き大男は、
「お嬢を王に押し上げたいというのならば、魔力だろうが武力だろうが知力だろうが構わないが、我々を打ち倒すことだ」
竜の如き頭部に、鱗に覆われた肌。純粋な龍人であり、先代フルカスと並んで万夫不当の強さを誇る武人――先代【竜の王】ヴォラク。
さすがは歴戦の猛者たち、動揺を表には出さないが、その意識は確実に僕に集中している。
この四人を倒すことが、まず一つ。
もう一つは――【大聖女】パナケアを退場させること。
世界最強の配下である四人の魔物と、一人の【白魔導士】は、僕にとっては同じだけの脅威だった。
四人を倒さねば、師匠には辿り着けない。
だがパナケアさんを倒さねば――誰も倒せない。
彼女が健在の戦場で彼女の仲間を退場させることは、これまで不可能ごとだった。
多くの者の力を結集し、
パナケアさんを退場させ、癒やしの力を敵側から奪わぬことには、勝利へは進めない。
それは分かっているのだが、一度に両方をとることは出来ない。
世界レベルの実力者たちは、そこまで甘くない。
ではどうするか。
簡単だ。
「さて、黒衣の参謀はどのように戦うのかな」
己の長髪をバサリと優美に払いながら、ビフロンスさんが言う。
彼に呼応するように、幾つもの頭を持つ血の大蛇がこちらを向き、噛み付かんと迫った。
レメゲトン直属の配下である【一角詩人】アムドゥシアスと、彼女の操る無数のアルラウネたちを退場させた血の蛇だ。
四人が一斉に動き出さないあたり、小手調べのつもりか。
「魔王様」
「うむ」
僕の意を汲んだ魔王様は一つ頷き、こちらに何かを放った。
初めてこれを貰った時も、そういえば投げ寄越されたのだったなぁ、と懐かしくなる。
動物の骨のようなもので出来た、指輪だ。
「……まさか」
ビフロンスさんが端整な顔を驚きに歪める。
押し寄せる大蛇にも慌てず、僕は指輪を嵌めた。
そして魔力を込め、
「――
瞬間、多頭の蛇の全ての牙を、同じ数の竜頭が防いだ。
多頭の竜は血で形成されており、その身を構成する莫大な血液は、召喚された女性の持つ箱から溢れたものだ。
黒に赤をあしらった扇情的な衣装に身を包み、ベールと目許を覆うマスクによって瞳を隠すは、金色の髪を靡かせた吸血鬼。
オリジナルダンジョンにて獲得した『途方もない容量の水筒』に装飾を施し、そこに己の血や己の眷属に吸わせた血を保存しており、その総量は僕も正確なところは分からない。
この全天祭典競技では、【黒魔導士】レメとして対峙したこともある相手。
『難攻不落の魔王城』第三層のフロアボスにして、四天王の一角を担う彼女は、僕の第一の契約者でもある。
「お求めに応じ参上致しました」
【吸血鬼の女王】カーミラだ。
「あぁ」
観客席にいた僕の契約者たちは、【黒魔導士】レメの退場を確認した時点で姿を消している。
【隻角の闇魔道士】レメゲトンによって召喚された際に、
フェニクスパーティーとの第十層戦で、僕がアルバの魔法剣を使ったように。
他人の魔法具を使ってはならないというルールはない。
魔王様が装備していた指輪を再び賜り、僕自身の契約者を召喚することに何の問題もないのだ。
この指輪の場合は契約者を記録できるのは直近三名の保有者と決まっているため、貸しては貸しを繰り返すということは出来ない。
そもそもが魔王様の家に伝わる大事な魔法具なので、そんな扱い方をするつもりはないが。
そう、魔王様の家、つまり師匠の家にとって重要な魔法具であるからこそ。
その事情を知っている者にとっては、部外者である僕がそれを使用することは驚愕に値するのだ。
どうやらビフロンスさんは僕が過去に指輪を使用した動画などを観ていないらしい。
「カーミラよ」
「はっ」
「あの吸血鬼が邪魔だ」
レメだったら言わないようなセリフだが、ビフロンスさんを倒さねばならないのは事実。
「承知致しました」
カーミラの声が、嬉しそうに響く。
彼女の箱から滾々と血液が溢れ出す。
最強の魔王に仕える吸血鬼の真祖を前にして、自分の前任の四天王を前にして、彼女の身は些かも竦むことはなく。
膨大な血液を展開する【吸血鬼の女王】は、堂々と口にする。
「必ずや貴方様の障害を取り除き――血路を開きます」
一度に二つの目標を達成することが出来ないのなら。
簡単だ。
頼れる仲間と仕事を分担すればいい。
魔王軍参謀であるレメゲトンには、その為の指輪と魔力が備わっているのだから。
「任せたぞ」
僕は再び指輪に魔力を流す。
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