第283話◇全天祭典競技最終段階『血戦領域魔王城』5/精霊三重奏
僕らは一応、事前に四パーティーで作戦会議のようなものをした。
ようなものというのは、ちゃんとした形にはならなかったからだ。
味方だけでも二十人いて、しかもそれぞれに個性がある。
敵は伝説の十人――実際はそこにパナケアさんも加わるわけだが――となると、一筋縄ではいかない。
これがレイド戦であれば、ダンジョンの各層ごとに特色があるので、攻略方針も立てられるのだが……。
結局、僕が出せたのは、おおまかな展開予想だけ。
これに関してはありがたいことに全員が同意してくれた。
そして、基本的に各パーティーは、各々の判断で動くことに。
「勇者共、獲物を分け合おうではないか」
魔王様が言う。
返事を待たずに魔王パーティーが動き出す。
現魔王軍は、旧魔王軍にぶつかるようだ。
パーティーを三つと一つに分ける形になるが、仕方がない。
それに、魔王様には
「お嬢、折角お越し頂いたところ申し訳ないが、貴女では我々を屈服させるには力不足でしょう」
先代フルカスさんが言う。
魔王様が、フッと笑った。
「バラム、踏み潰せ」
【透明の如き悪魔】ことバラムさんが、魔王様の命令で巨人の足を上げ、先代フルカスさんを襲う。
「ふむ、お転婆は変わらずのようだ。よろしい、このフルカスがお相手致しましょう」
フルカスさんとヴォラクさんの先代コンビは迎え撃つ構え。
「誰が貴様を潰すと言った」
バラムさんの肉体は魔法により既に透明になっている。
ゴォォォオ、と空が鳴くような音がするのは、巨人バラムさんの移動によって周囲の空気が唸っているのか。
そして、彼が踏み潰そうとしているのが先代フルカスさんでないなら。
――師匠か!
「いやいや、お
スライム娘のダンタリオンさんがぷくりと頬を膨らませ、腕を天に突き上げる。
瞬間、その腕が――巨人の腕となり、骨と骨がぶつかり合う鈍い音が、巨人規模で巻き起こる。
――突き上げた瞬間に己の右腕を巨人のものへと変貌させ、透明になったバラムさんの足を殴りつけたのか!!
「転ばないようにね~」
ダンタリオンさんの腕は既に戻っている。
バラムさんが転倒――する心配はなさそうだ。同じく巨人のイポスさんが支えている。
師匠は無反応で、目も閉じたままだ。
そこに、小さな【魔王】の影が迫る。
――【時の悪魔】アガレスさんの『空間転移』で魔王様を飛ばしたのだ。
「優雅な
「退け」
長い髪を靡かせながら立ちふさがった【真の吸血鬼】ビフロンスさんを、魔王様の裏拳が襲う。
直後、あまりの威力にビフロンスさんの肉体が爆発するように四散した。
「素晴らしいね、王譲りの
だがその次の瞬間には、ビフロンスさんの身体も衣装も完全に再生されており、彼は優美に微笑んで――魔王様に血の刃で襲いかかる。
「ちっ……おい、余を見ろクソ
「しぃ、いけないよ姫。目を覚ます価値のある世界かどうかは、王がお決めになることだ」
空いた方の手で、ビフロンスさんが唇に指を当てる。
「……なら、貴様こそ邪魔をするな――今の王は余なのだから」
「……僕はそれを認めた覚えがないな」
「知ったことか!」
と、一瞬で魔王軍側に色々と動きがあったように、こちらも戦いが進んでいた。
「ありゃ」
意外そうに呟いたのはアルトリートパーティーの射手――【銀の弓】オライオンさんだ。
彼が矢を番えると同時、矢の先端の空間が歪む。これは転移ゲートのような役割を持っており、別の空間に繋がっている。このゲートに矢を打ち込むことで、彼の矢は周辺のどこからでも敵を襲うことが出来るのだ。
彼の一射目は――
それを、白魔法で自身の身体能力を強化した【白魔導士】ヨスくんが、掴んで止めてくれたのだ。
「ありがとうヨスくん」
「いえっ、ギリギリでした」
つぅ、とヨスくんの額を冷や汗が流れる。
僕は今【鉱夫】メラニアさんに守ってもらっているので、矢で狙うなら速度を殺す曲射か魔法具使用の二択。読むのは難しくない。
その上で、オライオンさんが矢を外すことは滅多にないのも事実。
「読まれてた、だけじゃなさそうだ」
彼はすぐに違和感に気づく。
「……遅くなっていたぞ」
【聖なる騎士】マクシミリアンさんが指摘する。
「へぇ。じゃあ今のが噂のあれか、【最良の黒魔導士】か。すごいな、新感覚だ。にしても、今のはよく守ったよ」
オライオンさんは自分が『速度低下』を掛けられていたことに気づいたようで、楽しげに唇を歪めている。
「
どうやら、彼らも同じ考えのようだ。
【白魔導士】パナケアさんがいる限り、敵は死なない。
だからこちらは、パナケアさんを優先的に倒さなければならない。
それがすぐに出来ないなら、彼女の活躍を邪魔しなければならない。
【黒魔導士】レメがいる限り、敵は万全の状態で動けない。
だから敵側は、僕を真っ先に退場させたい。
もう、フェニクスパーティー時代の評価で僕を見る冒険者は、いないだろう。
そんな甘い考えの者が、この場にいられるものか。
だから僕も、自分の実力を評価する。
敵にとって僕は、最悪の障害。
「そうだな、今ので倒せなかったのは痛いな」
オライオンさんが言う。
そんな言葉を交わす彼らを、エルフの【狩人】リリーによる『神速』が襲った。
オライオンさんはマクシミリアンさんの盾に隠れ、【大聖女】パナケアさんは【善なる魔女】ロジェスティラさんの風魔法で、それぞれ矢の脅威から逃れる。
リリーは「くっ」と悔しげだが、四人を数秒その場に留めただけでも充分。
その間に他の仲間が動けるのだから。
僕もまた、黒魔法を放っていた。
「あら~賑やかね~。それに大変な黒魔法。パナちゃん、頼めるかしら?」
困ったように頬に手を当てるロジェスティラさんに、パナケアさんは笑顔で返す。
「もっちろん――真似っこしちゃうよ、レメくん」
オライオンさん、マクシミリアンさん、ロジェスティラさん、パナケアさんの周囲を、膨大な魔力が循環する。
いや、目に見えないだけでこれは白魔法だ。
僕がこの大会で見せた、
世界ランク第八位パーティーの【七色の魔法使い】レズリーさんにも、対戦時に再現された。
一流の魔法使いならば模倣出来るだろうが、レズリーさんは本来白魔法黒魔法よりも攻撃魔法を得意とする人だ。だから、彼の模倣は一時的なものだった。
だが、世界最高の【白魔導士】であるパナケアさんであれば、ほぼ完璧にしかも長時間展開可能だろう。
彼女の
だがこれでいい。彼女の魔力生成能力も無限じゃない。黒魔法への警戒で魔力を消費させ、彼女の神がかった治癒魔法の最大使用回数を減らせれば、それが仲間達への助けになる。
四人は今、
一歩出れば、自分で
そして、フィールドを駆けて僕を倒すまで、僕の黒魔法を耐えきるなんて現実的ではないと理解しているから。
今この瞬間、僕はその存在だけで敵の動きを牽制している。
そしてそれはパナケアさんも同じ。
彼女を退場させないことには――先程ビフロンスさんが一瞬で再生したように――致命傷さえすぐに癒やされてしまう。
アタッカー達のド派手な戦いの裏で、サポート役の戦いも繰り広げられている。
パナケアさんと僕、どちらが先に退場するかで、戦況は変わるだろう。
それを理解しているからこそ、両者共に――最大戦力を敵陣に向かわせているのだ。
敵の防御を突破し、【大聖女】あるいは【黒魔導士】を――潰す為に。
【炎の勇者】フェニクス、【嵐の勇者】エアリアル、【湖の勇者】レイスの三人は試合開始と同時に走り出しており、それは――【不屈の勇者】アルトリートもまた、同じだった。
【氷の勇者】ベーラと【疾風の勇者】ユアンの若き勇者二人は、サポート出来る位置で魔力を練っている。
「アルくん?」
「このまま行く……ッ!」
「はーい」
ロジェスティラさんは一瞬、魔法でアルトリートさんをサポートしようとしたのか。
【不屈の勇者】はそれを拒んだ。
四大精霊契約者三人と、正面から激突するつもりのようだ。
これによりロジェスティラさんは現状フリー、【紅蓮の魔法使い】ミシェルさんは警戒しつつ魔法を構築している。彼女の大火力魔法は敵にとっても脅威だ。
「こんなに素晴らしい日はない! ここまで胸が躍る戦いを、この歳で味わえるとは! なんて――幸せなのだろうな!」
アルトリートさんが叫ぶ。
「光栄です」フェニクスが、「同感だ」エアリアルさんが、「オッサンがはしゃぎすぎ」レイスくんが、聖剣を抜いた状態で駆けていく。
「精霊の加護も、聖なる剣も、特別な才も、俺は持っていない!
言って、アルトリートさんが剣を抜く。聖剣ではないが、彼の戦いを支えた相棒を。
そして、叫ぶ。
「
ここからでは表情は見えないが、三人の四大精霊契約者は、間違いなく笑っているだろう。
そうでなくては、と。
「来いッ……! 精霊に愛された者達よッッッ!!」
四人が剣の間合いに入り、そして――。
「
「
「
業炎が、暴風が、水流が、【不屈の勇者】に襲い掛かった。
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