第168話◇第十層・渾然魔族『喚起邀撃』領域(始)
新生第十層について。
まず、僕の武器について。これは三つある。
一つ、人より優れた黒魔法。
一つ、魔王様から貰った契約者を召喚する指輪の魔法具。
一つ、冒険者オタクだから、普通の人よりずっと彼らに詳しいこと。つまり知識。
それらを活かし、またこれまでの九層と異なる特徴を持った層を成立させる。
その上で、これまでの九層で出てきた魔物達に活躍してもらう。
出来たのが、
様々な魔族を呼び出し、全軍を以って敵を迎え撃つ、魔王軍参謀の支配する空間。
内装はどこも同じ。黒い柱に支えられた、黒い通路。
前回の第十層のような感じである。
「――
召喚者の意思に応え、契約者が空間を超えて参じる。
膨大な魔力によって、契約という縁で繋がった強者が、今ここに現れるのだ。
「…………!」
動揺とは言わないが、驚いたようにローブを揺らしたのは――【無貌の射手】スーリ。
それもその筈。
僕は不動。そんな無防備なレメゲトンを、彼は『神速』で貫こうとした。迅速で正しい判断。
それを、撃ち落とす者がいたのだ。驚きもするというもの。
更には別方向から彼を射る者までいた。
彼が回避したことで地面に突き刺さった矢は、しゅうと音を上げながら大地を溶かす。
「よくやった――我が配下【深き森の射手】
「ハッ、配下として当然のことにございます――レメゲトン様」
エルフの射手だ。
フェニクスパーティーの【狩人】リリー改め――【深き森の射手】ストラス。
長い髪は、魔物
弓も黒いものに変更し、その衣装も聖なる森の新緑を感じさせるものから、深い森の夜を連想させる衣装へと。
梟の翼を思わせる外套を纏い、くせ毛は抑え、代わりに頭部には小さな王冠のような装飾品が。
目を仮面で、口を布で隠しているが、彼女の誇りである種族的特徴、長い耳は堂々と晒されている。
声は布裏に変声装置が縫い込まれているので、これも本人とは別人のように聞こえる。
毒矢の方は【
だが彼女の姿は見えない。
【不可視の殺戮者】グラシャラボラスによる不可視化によって、冒険者達には見えないようになっている。
「【無貌の射手】よ。聞くに、貴様の用いる『神速』なる弓術は本来、エルフのもののようだが? 一体どこで習得したか、是非とも聞いてみたいものだ」
僕の言葉に、スーリさんは答えない。
答えは分かっている。彼はリリーと同胞のエルフ。それを隠して第五位メンバーになった男。
リリーは種族の特徴を隠した彼が、認められないのだという。
「レメゲトン様が問うているのです。答えなさい」
ストラスが重ねるが、やはり答えはない。
代わりに矢が飛んでくる。
それが、今度は舞い上げられる。突風に吹かれ、彼の矢は目標に達することなく無力化される。
「――なッ! あ、あれは……!」
叫んだのは【疾風の勇者】ユアン。
「フッ、同じ【勇者】の
【死霊統べし勇将】キマリスの傀儡。倒した敵の
第二層で、ユアンくんは【氷の勇者】ベーラさんの【
その
「……! 二度も、やられるものか。ベーラの
「彼女は自分で解放すると言っていたがな。どちらにしろ、叶わん」
「叶うさ。僕は【勇者】だ……!」
ユアンくんの決意に呼応するように、周囲で風が渦巻く。
ボスクラスの魔物にばかり注意してもいられない。
「あ?」
ヘルさんの腕に噛み付いたのは、【黒妖犬】。直前まで不可視化していたものだ。
彼女は当たり前のように反対側の手で首の骨を折り、力の抜けた【黒妖犬】を放り投げる。ほどなくして退場する【黒妖犬】。
「……なるほどね。二個組み合わさってるんだ。第一層と第二層が合体してる」
【遠刃の剣士】ハミルさんの言葉は、正しい。今のところは。
彼が刃を振るうと、ガラガラと音を立てて【
少し遅れて、不可視化が解ける。退場によって効力が消えたのだ。
足音か何かであたりをつけたのか。
第一エリア・番犬と死霊術師の領域。
「……直接見てもまだ信じられん。このレベルの魔物を、一度に召喚したというのか。一体どんな魔力量をしている」
【迅雷の勇者】スカハさんの驚きの声。
僕が今召喚したのは、五体の魔物。フロアボス二体、レア魔物二体、そして最高の狩人一体。
【黒妖犬】達のような通常の魔物は、配置換えでここにきてもらっている。
レイド戦では既に別の層で出て来た魔物の再配置こそ禁じられているが、今回ここにいる者達はレイド戦開始時点で第十層に配置されているので問題ない。
だがボスクラスの魔物は、指輪で召喚していた。
「ハッ! いいじゃねぇか。あたしはもう一度ハーゲンティとカーミラに逢いたかったんだ! この下か? おいおい楽しみでならねぇよ!」
ヘルさんは大興奮。ぱきぱきと指を鳴らしている。
「確かに、いいね。あれだけの魔物をまた倒すのは、楽しそうだ」
【湖の勇者】レイスくんもまた、楽しそう。
彼の幼馴染である【破壊者】フランさんは、相変わらず表情に乏しい。
「それで、レメゲトン殿。君とはここで戦えないのかな?」
【嵐の勇者】エアリアルだけが、悠然と佇んでいた。
柔らかい笑みを湛え、僕を見ている。
「試してみるか? 人類最強」
「ふむ……どうしたものか。君のやることには興味がある。ここで君に戦いを挑んだところで、策があるだろうという警戒と期待もね。戦う気がないなら、逃げ道は用意しているのだろう」
そう言いながらも彼の瞳は、燃えている。滾っている。
全力を出せる機会が得られることを、心待ちにしている。
「どうだかな。全ての配下を打倒した時、我はその者との戦いに応じる。それだけだ」
僕の言葉に、彼は笑みを一層深めた。
「あぁ、それは安心してくれ。我々が攻略に臨むのだ、最後はそうなる。全滅の時は訪れるよ」
「言うではないか」
「楽しみだ。君と戦うその時がね」
人類最強は、僕を標的と定めた。
戦いが、始まる。
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