第114話◇絶対的アイドル勇者(上)

 



「そうだな……」


 僕の決めたルールはシンプル。


 どちらかのリーダーが退場したら、そのチームの負け。

 降参は受け付ける。


 降参という言葉に、エリーさんは目をほんの僅かに上げた。


「いいわ。それと修復剤と治癒魔法はなしにしない?」 


 何か考えるような間の後、彼女はそう言った。


「それで構わん」


「ありがと。指輪は自由に使って。同僚なら喚べるでしょう?」


 確かに【人狼の首領】マルコシアスさんあたりは喜びそうだし、【吸血鬼の女王】カーミラも嫌がらないだろう。まぁ彼女はエリーさんに怒りそうだけど。

 さて、どう答えたものか。


「必要と感じれば、そうしよう」


「……そうね。そうよね」


 不満げだったが、彼女はそれと口にしない。

 必要だと感じさせればいいと、そう考えたのだろう。


「アナタのチームは?」


 僕は片足を下げ、手を背後の部下達に向ける。


「此処に」


 魔力体アバターなので魔物姿になっている三人を見る。


「いいか?」


 短く意思確認。


「はい」「楽しそうですね~」「……」


 メドウさんが静かに、シアさんが楽しげに応じる。ラースさんもゆっくりと頷いた。


「本気? このアタシのパーティーと、バラバラの四人で戦おうってわけ?」


 個々の実力を疑っているのではない。エリーさんは、チームワークの重要性を指摘しているだけ。

 その懸念は尤もだが、これは防衛戦ではない。

 あくまで彼女が僕を計る為のモノ。そこを忘れてはいけない。


「いえ、いいわ。それを纏められないようじゃあ難攻不落の魔王城で参謀なんて務められないというものよね。お手並み拝見といこうじゃない」


 気づけば彼女の仲間四人が下がり、横一列に並んでいる。エリーさんだけが前に立つ形だ。


「作戦会議が必要よね? 待つわよ」


 お言葉に甘え、三人に作戦を伝える。


「……承知しました。ですが……」


 メドウさんは頷いたものの、納得しきれていないようだ。


「参謀さんの言う通りにします~。でも、エリーちゃんが素直じゃなかったらどうしますか~?」


 シアさんはニコニコしているが、メドウさんと同じ点が気になるようだ。


「……レメゲトン様のことだ、お考えがあるのでしょう」


 ラースさんは元々人と話すのが苦手なようだが、魔物状態ということで仮面を付けていると幾らかマシになるのだとか。

 また、役に入りきるというか、今は『ラース』ではないと意識することで落ち着いて動けるという。


 エリーパーティーとこの三人とは、今日集まる前に個別に話をする機会を設けた。


 ラースさんとは特に、同じ鍛錬をしているという共通点があり、実は結構盛り上がった。

 辛さを知っているだけに、それに耐え抜いた互いに敬意を抱いているところがある。


 僕ら四人は確かに、幾度の戦いを共にくぐり抜けてきた戦友ではないけれど。

 勝利を求める気持ちは共有出来ている。

 抜群のコンビネーションなど期待出来ないが、それを前提に役割を決めておけばいい。

 後はそれぞれがそれぞれの仕事をするだけ。


「行くぞ」


 エリーパーティーに向き直る。


「早かったのね」


「同盟者をあまり待たせるのもな」


「あら紳士。じゃあ、始めましょうか」


 戦いが始まると同時、エリーさんは魔力を展開。自身に纏わせる。


 ――抵抗レジスト


 体外に出した魔力は戻せない。魔力を纏っても徐々に空気に溶けていく。

 常に抵抗レジストする者がいないのは、魔力の無駄遣いになるから。

 第五層であのフェニクスさえ魅了チャームを一瞬受けてしまったのは、それが理由。

 必要に迫られてから使うもの、という意識が根付いているわけだ。

 今回は最初から相手の【役職ジョブ】が判明している。


 だがこれは僕とラースさんの黒魔法を弾く為、だけではないだろう。

 まだ互いの得意戦法や切り札などは話していない。だからメドウさんの特技についても彼女は知らない筈だが、『目を隠している』というだけで警戒するには充分との判断か。


 その判断は正しい。


 不思議な力を宿した道具を魔法具という。

 かつてある種族が創ったというあれだ。アルバの魔法剣、僕の指輪、フルカスさんの鎧と槍などが該当する。


 道具は目的があって創られる。

 では『不思議な力を宿した道具』はどんな目的で?

 もちろん、必要に迫られて創り出したものの方が多いのだろう。


 でもきっと、最初は再現だったのではないかと思う。

 『不思議な力を宿した生き物』がいて、それを持たざるものが再現しようとして出来たのではないか。


 大昔、精霊に授けられたものを発展させた『魔法』、鬼などが使う『妖術』、【忍者】の『忍術』などなど挙げていけばキリがない。


 特定部位に、特殊な力を宿すものもいる。

 代表的なのは魔人の角だろう。


 だが種類で言えば、『瞳』に宿すものが多い。

 それを承知している者ならば、警戒するのは当然。


 彼女の姿が消えた、、、、、、、、


 違う。速すぎてそう錯覚しただけだ。

 彼女ならばそう――僕の目の前で拳を構えているじゃないか。


 彼女が契約しているのは風の分霊。

 それを考慮しても、あまりに速い。一瞬とはいえ、僕が見失うとは。


「反応しなくていいの?」


「不遜」


 そう言って僕と彼女の間に割って入ったのは――ラースさん。いや、この呼び名は適切ではないだろう。

 【黒き探索者】フォラス。


 独力で魔王の鍛錬に至った牛人にして、魔王軍レメゲトンの新たなる部下。

 果てのない魔法の道を、自らの力のみで切り開いた男。


 既に三人の部下には、ダンジョンネームを与えている。

 また、少数精鋭であることをより強調する為の銘も。


 エリーさんの拳は、彼の構えていた大盾に激突。


「へぇ、いい動き」


 声が聞こえるが、それを発した主はいない。

 また彼女の姿が消えていた。


 【絶世の勇者】は、派手で、美しく、速く、賢く――強い勇者だ。


 良い機会だ。

 新生第十層の力を確かめるとしよう。



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