第113話◇理性と心で

 



 新たに……というかカシュを除けば初めてとなる部下は、以下の通り。


 エリーパーティー所属。【絶世の勇者】エリー、双子のクールなイケメン【黒魔導士】ライナーとライアン、同郷だという【白魔導士】の二人。それぞれ爽やかな感じのケント、リーダーへの忠誠心高めのジャン。

 この五人はレイド戦までの短期契約。


 ラミアの【暗殺者】メドウさんは、【役職ジョブ】とは別に優れた特技を持つ。


 一角人馬――彼女の場合、人にもケンタウロスにもなれる――のシアさんは【調教師】。ただし直接戦闘の適性も高いようだ。


 ミノタウロスのラースさんは【黒魔導士】。種族的特徴である巨躯に加え、我流で『己に黒魔法を掛ける』という鍛錬に辿り着いた。


 短期が五人、職員となるのが三人の計八名。


 残るは『初級・始まりのダンジョン』からトールさんとケイさん。他の職員さん方も、僕とフルカスは知らない仲ではないということで協力してくれるとのこと。ゴブリン、コボルト、オークの皆さんだ。

 幾ら『全レベル対応』ダンジョンに相応しい方達だとしても、此処は魔王城。彼らの方でも話し合いがあったらしく、精強な者を選りすぐって派遣してくれるのだとか。


 後はフェニクスとニコラさん。ベリト状態の完成度は前回に遠く及ばないだろう、というか完全再現と変装くらいに差が出てしまう筈だ。なんとかしようとしてくれているらしい。

 フェニクスの方は魔人魔力体アバターにすることで解決。角を生やして、衣装を纏って、後は……まぁ召喚したら分かるだろう。魔力がなんとかなれば。


 ちなみに、この二人をエリーパーティーのように短期契約で配置するのは難しい。

 可不可で言えば可能だが、その場合は雇わなければならない。


 【勇者】を、魔王軍が。二人は僕に協力してくれるが、それだってノーリスクではない。

 仮面が剥がれて、中身がバレたら?


 特にフェニクスは前回攻略を挑んだ【勇者】だ。こちらに味方したと露見すれば、前回の僕らの戦いが戯れに過ぎなかったのではないかとの噂が立つことも有り得る。

 ニコラさんとの一騎打ちもまた同じ。


 友であり敵。この内、レメゲトンと友であることは世間に知られるわけにはいかない。

 正式に契約を結んでしまうリスクは避けたい。ただでさえ、無理を言っているのだから。


 その点、エリーパーティーは豪気だ。

 なんと、顔を隠さず勇者パーティーとして、魔王軍参謀に味方するのだという。


 他の冒険者ならばとても恐ろしくて出来ないだろうが、さすがはエリーさん。

 【黒魔導士】【白魔導士】を率いてランク上位に食い込む人は違うということか。


 ただ彼女は考えなしではない。そこの秘策もあるのだろう。

 設定を越え、魔物に協力した上で観客を盛り上げるプランが。


 そんなわけで、採用を知らせた彼ら彼女ら全員に集まってもらった。

 軽く挨拶をし、早速第十層を案内。


 前回は広くて長い廊下という感じだったが、あれはフェニクスの奴が消滅させてしまった。

 一から作り直すならば僕の趣味に合わせていいとのことで、色々と注文を出して出来たのが新・第十層だ。

 のだが。


 フロアボス、つまり僕の控えるエリアに転移してすぐのこと。


「ねぇ、レメゲトン。長いからレメでいいかしら?」


「……ダメだ」


 エリーさんの提案を却下。その呼び方はちょっとまずい。中の人の本名なのだ。

 ちなみに今日も彼女は高そうな椅子に腰掛け、それを白スーツの二人がかついでいる。


「あら、意外ね。呼び方にこだわるとは思わなかったわ」


「その呼称以外であれば、なんでも構わん」


「あら、そういうこと。いいわ、望まない愛称なんて嫌がらせだものね。でもレメゲトンは長いから……えぇ、メゲかゲト……呼びにくい……レン! レンでどう?」


 最初と最後を繋げたのか。


「それが呼びやすいのなら」


「えぇ、呼びやすいわ。同盟者として、距離が縮まったわね」


 そう、彼女は書類上は部下だが、同盟者として扱うことにした。

 【勇者】が魔王軍に降ったのではなく、ワケあって共同戦線を張ることになった、という設定でいくわけだ。

 反対する理由もないので許可した。


 ただ、亜人の三人組は反応に困っているようだ。いや、シアさんだけは鼻歌を歌っている。


「アタシ考えたのよ。理性と感情でね。結論はこう。理性では、この層の主はアナタのわけだから指示には従うべき」


「感情では?」


「アタシはアタシの心に従ってきたわ。自分を裏切ったら、自分を嫌いになるでしょう? そんなのって嫌じゃない。誰かの指示じゃなく、自分の意思を尊重してきた。今回もそうしたいと思ったの」


「それで?」


「けど、人の家で好きにさせろと宣うのが横暴なのも分かるわ。つまりこうよね? 好きにしてもいいと、許可を得ればいいのよ」


 ふむ。指示を出すことで、逆に彼女たちの味を殺してしまうことになるのは避けたい。

 ただ、負けられない戦いにおいて、どう動くか分からない、問題が起きた時に制御出来ない戦力を抱えるというのも……。


「どちらが正しいか、答えが出るものではないわ。出るとしたら、そう錯覚しただけ。アナタは今悩んだ。ステキね。傲慢ともとれる言葉でも、真剣に検討してくれた」


「答えが出ないことが正解だとすれば、貴様は何が言いたい?」


 おおよそ見当はついたが、外れてほしいという思いもあり口にはしない。


「正解でなくとも、どちらかを選べばいいのよ。それを決める何かを用意しなくてはね。それはクジやジャンケンのように運に任せてもいいけれど、アタシとしては――お互いが得意なことで決めたいわ」


 ――あぁ、外れてくれなかった。


 つまり、戦いで決めようということだ。


「仲間に魔法は使わない」


「仲間が真剣勝負を挑んできても、無視するということ?」


 ……かつての仲間ではあるが、フェニクスパーティー。

 【黒魔導士】レメとしてではあるが、僚友であり剣の師でもあるフルカスさん。

 魔王軍参謀としてではあるが、共に戦った友人ニコラさん。


 それぞれと、僕は真剣に戦った。

 関係性にかかわらず、勝負となれば手は抜けない。

 勝負に発展する理由として、これはアリなのかと思うだけで。


「折角魔力体アバターなんだもの。いいでしょう?」


 エリーさんは楽しげに微笑んでいる。


 ……まぁ、まともな働きも見せずに上司として信用しろというのが無理な話。

 彼女たちの場合は同盟者だが、後ろの三人だってまともに僕の戦いは観ていないのだ。

 丁度いい機会を得られた、と考えよう。


「ルールは?」


 僕が答えると、エリーさんは椅子から飛び降りた。


「そっちが決めて。こっちは五人よ」


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