第111話◇急募! 魔王城で働きませんか? アットホームな職場です(前)
各フロアの志望者を面接するのは、そのフロアのボスと他幹部、あとは人事部の職員だ。
人事部の長はアガレスさんなのだとか。四天王に人事に魔王様のお世話――最後のは自主的――と、忙しそうだ。
参謀ということで形式上は魔王様のすぐ下に位置する僕は、ほぼ全フロアの面接に立ち会った。幾つかの部屋で同時進行だったので、時間的に第十層のそれと被った階層の面接には参加出来なかったが。
というわけで、第十層の面接である。
会議室をそのまま流用しての会場で、楕円形の巨大なテーブルと、それを囲むように配置された椅子が並ぶ空間。今回は、円を構成する中でも曲線が緩やかな方に人が座る。
僕を含む四人の面接官と、志望者一人ずつという形だ。
面接官は僕、ミラさん、人事部の魔人さんと、フルカスさん。
魔人さん以外は魔物衣装だ。
『勇者を倒す気概のある人』で募集を掛けたが、他のフロアと違って具体的な条件が設けられていなかった所為か、希望者の数は多かった。
うぅん、僕が思うより、言葉を軽く受け取られたのかな。
半数の面接が終わった時点で、ピンとくる人はいまだゼロ。
「能力的には及第点の志望者もおられたかと思いますが」
金髪でボブカットの魔人さんが言う。女性で、角は側頭部から生えている。渦巻状で、色は黒。
半数の面接が終わったところで、軽く話していた時のことだ。
「そう、ですね。ただ戦いは……なんて言えばいいんでしょう、能力が数値化出来るとして、それを比べて勝敗が決する、というようなものではないので」
「だとしても、能力があるに越したことはないのでは?」
「そういう考えもあると思います。でも、僕にとっては最優先じゃない」
「『勇者を倒す気概』が、能力の不足を補って余りある要素だと?」
「僕が一番大事だと思うのは、意志です。これを成すのだという目的と、その為にどんな努力も惜しまない意志。複数人で一緒に戦う時、その部分を共有しなければ厳しいと思います。性格も年齢も性別も主義もバラバラでいいけど、目的だけは一致しないと。集団として一つになる為に、唯一必要なことがあるとすればそれじゃないかな、と」
「……これまでの志望者の中に、自分こそが勇者を倒すと言った者も多かったですが」
「口先だけの者ばかりでしたよ。見ていれば分かるでしょう」
カーミラ状態のミラさんが言った。
「魔力器官も身体もろくに鍛えていないくせに、口ばかりが大きい者など不要」
黒騎士状態のフルカスさんも続く。
「……お三方がそう仰られるのであれば。ですがこの調子で採用者ナシということになると、困るのは参謀殿かと」
「そうですね。そうなんですけど……」
そんなこんなで、後半戦。
「次の方は――
僕の例があるように、冒険者が魔物になっても規定違反などにはあたらない。
ただ、移動の多い冒険者と待ち構える魔物の兼業は非常に難しい。
このパーティーは、それをレイド戦終了までの短期間に限定することで解決しようというわけだ。
「あ、私気になっていたんです。このパーティーは【黒魔導士】二人【白魔導士】二人【勇者】一人という構成でランク百位以内に入っている、非常に珍しい冒険者ですから」
ミラさんの言う通りだった。
いつだったか彼女が言っていたが、ランク百位以内の【黒魔導士】は僕含め三人。
僕はもうフェニクスパーティーではないので、現在は二人。
その二人は一つのパーティーに所属している。
業界で冷遇されている【黒魔導士】と【白魔導士】を各二人ずつ組み込むということで逆に目立つことに成功。だがそれだけで生き残れるほど、冒険者は甘くない。
異色なだけならば、一時的に注目を集めてもすぐに飽きられる。
彼女のパーティーは――。
「待ちくたびれたわ!」
扉が開く。
するとレッドカーペットがコロコロと広げられ、華美な椅子に腰掛ける美女が宙に浮きながら近づいてきた。違う。彼女の座る椅子を、二人の男性が持ち上げているのだ。
カーペットを広げる係、彼女を運ぶ係二人、そして異様に大きい扇で主に涼を提供する係。
そして主の美女。計五人。
【黒魔導士】は黒スーツ、【白魔導士】は白スーツ。四人ともに青年で、イケメン。
そしてそれを従えるのは、【絶世の勇者】エリー。
銀灰の長髪と瞳をした、勝ち気そうな美女だ。
「よろしく魔王軍! そして感謝なさい魔王軍! レイド戦だけとはいえ、このアタシと可愛い
彼女たちはランク九十五位。フィリップさんやニコラさん、マルクさんのパーティーよりもランクでは上。
戦法は極めてシンプル。
【黒魔導士】の二人が敵を弱らせ、【白魔導士】の二人がエリーさんを強化。
そしてエリーさんが全ての敵を打倒する。
シンプルだが、彼女たちの凄まじいところは攻略結果だ。
彼女達は、投稿されている全ての攻略映像の中でただの一度も退場せず、またエリーさんはただの一度もダメージを負ったことがない。
足手まといを四人抱えていると考えた者も、このパーティーの攻略映像を見ると何も言えなくなる。いや、違うか。否定したい人達はこう言う。
勇者の能力が群を抜いて優れている。四人を別の【
けれどその意見は的外れだ。
このパーティーに限り、この構成は正しい。
ただパーティーの誰もそれを語らないこともあり、世間的には容姿や構成、エリーさんのキャラクターや鮮やかな攻略で目立つ『なんか派手な冒険者』というもの。
最初のインパクトだけでなく、実力も伴っている為にランク上位に食い込んだ。
「は、はぁ……えぇ、では着席……は既にされているようなので、あぁ他の四名も……え、このままでいい? ……そうですか。ではまず、志望動機は?」
「アナタ、馬鹿?」
人事の魔人さんが、目許をひくつかせた。
「勇者を倒す気概のある者、だったわよね。これ書いたヤツは最高だわ。それ見て応募したんだから、当然勇者の撃退に決まっているでしょう!」
――へぇ。
何を当たり前のことを。
彼女の目がそう語っている。
これまでの志望者は自信なさげであったり、恥ずかしげであったり、あるいは逆に自信満々であったりした。【勇者】を倒すということの難しさを知っているからこそ勝利を確信出来ず、知らないからこそ大きなことが言える。その二種類。
だがエリーさんは違う。彼女自身が【勇者】。それを倒すということがどういうことか、分からないわけがない。
その上で、レイド戦に参加する勇者達を倒すというのだ。
他の四人の顔にも、迷いは無い。
「ですが、貴方方はランク九十五位とありますが」
「だから? ランクで勝敗まで決まるなら、一生変動しないじゃない」
「いえ、ですから――」
「採用」
「――参謀殿っ!?」
僕の言葉に驚く魔人さん。
「よろしく頼む」
レメゲトン口調で言う。
「さすが参謀ね、見る目があるじゃない。絶対に後悔させないわ、安心なさい」
エリーさんは自信に満ちた笑みを浮かべた。
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