第79話◇君と僕の相性なんかを
つまり基本的に、ダンジョン内だ。
危険地域での作業で
魔力は放っておくと拡散するので、この方法だと常に魔力を撒かねばならない。
これらの方法をとらない場合――たとえば町中を
「それは……すごいね」
スプーンを動かす手を止めて、ニコラさんが言う。
アバター変更項目増枠の件だ。
「あぁ、
生成機は厳しい審査をクリアした施設にしか配備されないが、仮に悪用された場合。
三十分ほどとはいえ、『殺せば消えて』『捕まえても消えて』『正体が掴めない』という犯人が出来上がってしまう。
ただ今回は、
特別製の
「フェロー殿って、すごい人なんだなぁ。強そうだな、とは思っていたんだけど」
「そうなんだ?」
「うん。彼は魔人なんだけど、多分角にすごい魔力を溜めているよ。彼の魔力反応は一般人並だった。でも、自然過ぎたんだよね。それが、すごく不自然」
「あぁ、魔力を抑えていると思ったんだね?」
「勘だけど」
多分、当たっている。
彼は【魔王】の筈だから、膨大な魔力を生み出す能力がある。
こんなことが出来る人が、貴重な魔力を無駄にはしないだろう。
一般人並に思えるなら、上手く隠しているのだ。
「レメさんと……ちょっと似てるよ」
「え?」
「魔力の圧が、レメゲトンとレメさんでまったく違う。多分、レメさんを知ってる人ほど同一人物と信じられないんじゃないかな。普段、それだけ上手に隠してるってことでしょう?」
「あはは……」
魔力を隠すのは、水道の蛇口を閉めるのに似ている。もっと沢山出るが、勢いを抑えてちょろちょろと出るくらいで維持する、みたいな。
「なんか……気配? 違うかな。どう言えばいいんだろう。フェロー殿とレメさん、
驚いた。
多分、それは同じ一族の『角』を、どちらも有しているからだろう。
言語化は出来ていないようだが、ニコラさんはそれを感じ取ったのだ。
小さい頃から一緒にいたフェニクスは例外として、勘付いたのは第一位のエアリアルさんに続いて二人目。
……とは言っても、魔王の血脈と僕、そのどちらとも顔を合わせたことのある人間自体が珍しいんだけど。
ただ、いくら【勇者】でも簡単には気付けない筈だ。
技術的にはエアリアルさんやニコラさんにもバレないものなのだ。
だからこれは、そういうのを越えた第六感的なもの、と考えるしかない。
「僕には分からないな。フェロー殿? とは逢ったこともないから」
「そうだよね。ごめん、変なこと言って」
「いいんだ。あ、お兄さんやパーティーメンバーはどうなんだい? ニコラさんと同じような違和感を感じていた?」
「ううん。レメゲトンとフェロー殿の繋がりを疑ってる様子はなかったよ」
……なら、やっぱりニコラさんの感覚が鋭いのか。
「そっか。魔力を隠している、という共通点からの連想かな」
「そうかも。脱線しちゃったね、ボクの
「僕が訊いちゃったのもあるから。でも、本題に戻ろうか」
「うん」
「ニコラさんの
「それなんだけどさ、少し思いついたことがあって」
ニコラさんの案は、僕が考えていた候補と同じだった。
「そうだね、それなら土魔法を使ってもおかしくないし、戦い方にも合ってると思う」
「よかったぁ。ボク、役割分担とかで頭使う系は兄さんがやってたから的外れなこと言ってたらどうしようかと」
なるほど、フィリップさんらしいかもしれない。
勇者と言っても万能ではない。フェニクスにすら、性格的に向いてないものがある。
不得意分野を補うやり方より、得意分野を伸ばす方を彼は選び、ニコラさんは実践してきたのだ。
結果は出ているし、パーティーとしてならそのやり方は効果的だと僕も思う。
「白銀王子として、想定してないシチュエーションに遭遇することもあったろう? でも僕が確認してる限り、君は常に優美な勇者だったよ。ちゃんと考える能力もあるさ。お兄さんと違って、プロデュースの方向じゃあないというだけで」
始まりのダンジョンを彼女達が予約した時と、大会でパートナーになると決めた後、彼女達の映像は確認していた。
僕の言葉に、ニコラさんは目を瞬かせたあと、ゆっくりと湧き起こった感情を示すように、はにかんだ。
「あ、ありがとう」
「いいんだ。
「おふたりは今日もなかよしさんです」
かきかき。
パンケーキを食べ終えたカシュが、メモにペンを走らせている。
任務は継続中のようだった。
僕はカシュのほっぺについているパンくずをハンカチで拭いながら、笑った。
◇
所変わって、組合地下。
「うん……うん……なるほど。確かに、ダンジョン攻略じゃなくてこの大会だから活きる作戦かも? 作戦とは違うかな? 戦術?」
「【黒魔導士】の範疇でとなると、こんな感じになるかな。基本はニコラさんのサポートに回る感じで」
基本は、だ。
「よろしくね。その分、レメさんのことはボクが守るよ」
「こちらこそよろしく。格好良く守ってくれると、信じるよ」
ここから本格的に動きを合わせる必要はあるが、互いが出来ることは見せ合った。
「僕の方は、あまり何度も使える手じゃない。最も効果を発揮するのは最初の一回で、それ以降は邪魔にはならない程度になってしまう」
「そんなことは……」
「ありがとう、でも事実だから。だから、その一回をフィリップさん達に使いたい」
「四天王フルカスも出るんだよね? いいの?」
「フルカスさんを倒す方法は考えてある。ニコラさんの協力が必要だし、賭けになるけど」
「魔王城四天王に勝てるかもしれない賭けなら、乗るよ」
僕らは顔を見合わせて笑い、しばらくしてから訓練室を出た。
「あ、帰る時もバラバラの方がよかったかな」
ニコラさんが言った。
「あぁ、そうだね。念のために僕は少し後で帰るよ」
「そっか。じゃあまたね」
ひょいっと、彼女が手を掲げ、さよならの挨拶とする。
「レメ?」
その時、近くを通り過ぎようとしていた冒険者が僕の方を向いた。
というか、フェニクスだった。
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