呼び出しと生徒会長の表の顔
転校生の紫季夏美と再会?したその日の放課後。
俺は部室で小説のプロットを作成をしていた時だった。すると、校内放送が流れる。
『二年A組 犬飼春彦君。生徒会室まで至急お越しください。繰り返します、犬飼春彦君、生徒会室まで至急お越しください』
「いるって分かってて、アナウンスするのはやめてくれないかな………全く」
そんなアナウンスが流れてきて俺は少し項垂れる。なーんか嫌な予感しかしないというか、呼び出し理由もなんとなく分かっている。
仕方なく、重い腰を上げる。
至急と言われているが、ゆっくりと生徒会室へと足を向けて歩き出す。
生徒会室は三階にあって正直上がるのも面倒だが、行かないとそれはそれで大変なことになるから結局行く羽目になる。
正直言えば、行きたくない。
理由だってちゃんとあるけど、それはすぐに明らかになる。
生徒会室の前に着くと、ドアをノックすると中から『入りなさい』と女性の声が聞こえ『失礼します』って言い入室をした。
そこにいたのは、腕を組んで仁王立ちした女性だった。
「いつもお疲れ様です、浅海会長。今日はなんの呼び出しなんですか?俺、別に悪いこと一切した覚えがないのですが」
「そうね、まず言わないといけないことがあります!」
「な、なんでしょうか?」
キリっとした声が室内に響く、今回は一体何だろうか。
正直に分からない、ホントに覚えがないから困る。
そう思い悩んでいると言ってきた言葉が。
「なんで、2人きりの時は凛姉って呼んでくれないのよ!!本当はいつでも呼んで欲しいのに。ハルが生徒会室限定なら呼んでくれるって約束したのに!」
「……」
初手がこれって………まぁ、予想はしていたけどさ。
当校きっての完全無欠の生徒会長、その名は浅海凛子。
男子の憧れのすべてを持ち合わす美少女生徒会長なのである。
成績は言わずとも分かるように入学から今に至るまでトップを走る。
こうなれば運動はダメなように思えるが、こちらもしっかりと実力を持つ。
現にテニス部もやっており、本来なら部長を任せられるほどなのに、生徒会を優先する為に部員であるという。
簡潔に済ますなら完全無欠の人なのだ。
生徒会を優先する理由は色々あるが、一番の理由は俺にあると生徒会の副会長が言っていた。
そして、俺とは幼馴染という関係で先ほど完全無欠とは言ったが、それは表向きの顔で本来の顔はと言うと……
「悪かったよ、凛姉。本来の要件って何?」
そう、凛子の本当の顔は弟大好きお姉ちゃんなのである。
幼馴染が長いのでいつの間にか凛姉は俺のことを弟と認識してるのだった。
こんな美人お姉ちゃんがいれば確かに男としては色々と嬉しいのは事実。
一応、学校では先輩と後輩でいこうと決めてある。
しかし、ずっと我慢するのは無理とのことなので、生徒会室限定ならいいという協定を結んでいた。
自分の名前に遜色が一切ない、凛とした美少女だから俺なんかがそばにいれる訳がない。
因みに、俺が凛姉に対しての恋愛感情は皆無である。
俺からすれば幼馴染のお姉ちゃんにすぎないのだから。
だって、凛姉と関わりがあるとすれば昼のようにめんどくさいことが降りかかってくるのは目に見えていたから。
凛姉は言いたいことを言い終えると、一息ついて本来の要件を切り出した。
「ねぇ、転校生とはどうゆう関係なの?すごーく可愛い子って噂なんだけど。そんでハルとも面識があるって悠里が聞いたって言うから」
やっぱり、この話しかないんだよな。なんであの人が知ってるの?
「紫季さんのことか。実は昨日、いつも帰り道に偶然会ったんだよ」
「そんな偶然あるのね。ハルから声かけたの?」
「ああ、しゃがんでいたからどうしたんだろうって思って近づいたら、紫季さんが猫を眺めていたんだよ」
俺は、やましいことは一切ないので凛姉にありのまま話した。
ちなみに悠里とは凛姉の親友であり、副会長をしていながら、部活にも精を出す凛姉と正反対の人である。俺は悠姉と呼ばされている。
理由は凛姉と同じである。
「で、その猫ちゃんはどうしたの?そのまま置いて帰っちゃったの?」
「いや、俺が家に連れて帰ったよ。うちで飼うことになった」
「あら、そうなのね。帰りに会いに行こうかしら♪」
「あれ、凛姉って猫好きなの?」
「ええ、だって私の家にいるもの。ハル見てない?」
見てないな。っていうか、凛姉が猫を飼っていたのは初耳だ。
凛姉の家には行くことはあまりなくて、凛姉が逆に俺の家に来ることが多かった。
だから猫を飼っているなんて知る由もなかったが、後で連絡する手間が省けた。
なので、俺はここにきたついでに色々と質問をしている時に凛姉がやけにニコニコしてるのが気になった。
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