春夏秋冬の誕生
俺らは、屋上での一幕を終え、昼休みの終了の直前に教室へ戻ると人だかりができていた。確実にあの子だな。
食堂に連れていかれた連中とは違うようで、きっと困惑してるんだろうと思うが、前回とは違って助けてあげることが出来ない。
冬姫は俺の顔見るなり一歩前に出て、しっかりとした足取りで紫季さんの所へ向かって行く。
ち、ちょっと待て。あいつまさか………喧嘩はやめてくれよ。
「ちょっとー、夏美ちゃん困ってるじゃん。今日からずっと学校にいるんだから、少しづつ聞けばいいんじゃない?食堂でも色々聞かれてると思うから、今日はここまでにしてあげなよ」
ど正論をぶつけると、他の女子達は紫季さんに。
「そうだね、ごめんね。また色々と聞かせてくれる?」
「う、ううん。大丈夫だよ。これからよろしくお願いします」
カーストトップの発言力の強さはやはり群を抜いて、冬姫の言葉で人だかりがなくなり、彼女の周りは静かになった。
俺は、冬姫の格好いい姿を見てさすがだなって思った。
彼女は、冬姫にお礼を言っていた。
「あ、ありがとうー。どうしたらいいか分からなくて。えっと?」
「私は東山冬姫。夏美ちゃんでいいかな?」
「うん。私も冬姫ちゃんって呼んでもいいかな?」
「全然オーケーだよ。これからよろしく♪」
すげー、あっという間に仲良くなったぞ。さすが冬姫。って、普通だな。
そんな中、こちらの様子を恨めしそうに見てるのが分かった。
先ほど俺らに絡んできた鈴木で、冬姫になにかあればアキが対処するので、ここは敢えて傍観を装うことにした。
どうやら、睨みながら見ていただけのようだ。迂闊に手を出そうとは思わないだろう。
「私の友達紹介するね。ハル、アキ、きてー」
どうやら二人で話してる中で俺達を紹介する流れになり、冬姫が俺達を大声で呼び出す。
多分、鈴木対策の一環だと俺は思った。
「ったく教室の中で大声出すなよ。ここからでも十分聞こえてたわ」
「ハルはさっき互いに紹介したから別にいいよね。で、こっちが私の彼氏の綾瀬秋織だよ」
おい、俺の紹介を省くな……まぁいいけど、彼氏って言ったのは釘でも刺したかな?
紫季さんは、そう言われるとこう返してきた。
「二人ともお似合いのカップルだね。羨ましいなー」
「そう?ありがとう♪」
お似合いのカップルって言われて冬姫は上機嫌なったようで、彼女はふと思ったことがあるらしく『あ!』って顔していた。
「私達、四人揃うと春夏秋冬だね」
この子は、頭の回転が速いようで俺らの名前に季節が入ってるのを察したようだ。
「言わないようにしてたんだけどな。実は以前から”夏”がいたら揃うのにって、呑気に話しててさ。あ、別に俺らのグループに入れって言ってる訳じゃないから安心してくれ」
俺がそう言うと。紫季さんの顔が暗くなり俯いてしまう。
ちょっと、言い方悪かったかな………そうゆう意味で言った訳じゃないんだけど、理解してくれないよね、きっと。
「もう、ハルったら素直にグループに入れって言えばいいのに。二人の仲なんだからさ。確かに無理やりグループに入ってくれって言うつもりないけど、入ってくれたら嬉しいかな♪」
紫季さんが困惑していて、聞いてきたことは至って簡単な理由だった。
「わ、私なんかがこのグループは入っていいの?」
冬姫は、今の言い分に違和感を感じたらしく、紫季さんに問いかけた。
「逆になんでそう思うの?」
「だって、三人仲良しでいきなり私が入ったらって思うと………」
これは勘違いしてる………いや、その前に俺の言い方が悪かったのもあるか。反省。
別に三人がいい訳でなくて”今は”三人がいいだけで誰も入れたくない訳じゃない。
だから、入りたいと思えば入ってくれればいいのだ。
ここは手引きした方がよさそうだな。
あいつの目の前でやるのは癪というか反感を食らうのは同じだから、今の方が紫季さんにも負担は掛からないだろう。
「俺も入ってくれるなら嬉しいな。それに”春夏秋冬”ならきっといい関係も築けると思うし、どうかな?」
俺の言葉に紫季さんは目にうっすらと涙を浮かべて。
「私、このグループに入りたい。冬姫ちゃんやえっと………」
「俺のことはハルでいい。仲のいいのはみんなそう呼んでる」
「俺もアキで構わないよ。理由は右に同じで」
「文字数が大して変わらないんだからちゃんと言えよな」
いつもこうである。俺から先に紹介すると後になるから説明も省いてくるのだ。
確かにめんどくさいのは分かるけど楽をするな。
まぁ、それが綾瀬秋織という男なのだが、でもなぜか憎めない。
俺らの他愛のない会話を聞いていたのか彼女からふと笑みがこぼれて。
「こんな私ですがよろしくね。冬姫ちゃん、アキ君、ハル君」
「「「よろしく」」」
こうして、見事に「春夏秋冬」が揃った。俺らがもともと作っていたLAMのグループにも入り、グループ名も「春夏秋冬」へと変わった。
紫季さんの加入で今後どうなるか分からないが、俺は何故かずっと一緒にいるのではないかという根拠のない思いを感じていた。
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