転校生

 珍しく早く登校している為に親友のアキと親友の彼女の冬姫に遭遇することになった。


 俺の肩に猫の毛が着いていたことで、昨日の事を話すことになったのだが、冬姫に心配される羽目になった。


 だが、あの子を見捨てるなんて出来なかったし、理由は特にない……と思う。


 だって、見ず知らずの人にお願いするなんて見返りを求められたらどうするつもりだったのだろうかと考えると、普通はゾッとするだろう。女子は特に。


 一瞬だけ心配をする冬姫とは反対に面白そうにしてる奴がいた。


 多分あっちのことだろうな、顔を見れば分かる。


 男のくせに恋バナ大好きっ子め。


 その役目は冬姫のはずなんだけどな~って、冬姫から来られても困るけどな!


「なぁハル、その子どんな感じの子だったんだ?ハルが気に掛けるってことは結構可愛い子だったんだろ?ほらさっさと白状しろよ」


 彼氏が調子に乗るもんだから、彼女まで面白がってこんなことを言ってくる。


「あー、心配はしてるけど確かにアキの言うことも一理あるね。それでどうなのよ?私とどっちが良かった?」


 この二人、ハマると手が付けられないから困るんだよね。


 どっちもアクセル全開で来るからブレーキ役がホントに欲しい。


 二人にブレーキを掛けるには誰かが犠牲にならないといけないので、俺が生贄なるしかなかった。


「単純に言えば、冬姫とは正反対の感じの子だった。ロングストレートで黒髪で清楚な感じにほんの少し冬姫の元気さを入れた感じかな?それに、親友の彼女との比較なんてしたくない。冬姫は冬姫、その子はその子だ」


 人を比べるほど俺は出来た人間じゃない。


 そもそも比べることではないが、比べてしまうのが人だから仕方ないのかも知れないが。


「それなら、ハルがそうなるのは納得だな。でも、なんでそんなしっかりしてるのに彼女がいないんだ?勿体ないな」


 アキが納得すると同時にそんなこと言ってる。


「うるせー、それは俺が聞きたいって言いたいところだが、要は陰キャラだからだろう?教室で一人で本でも読んでたら誰だってそう思うし、近寄ろうなんて思うわけない」

「うーん、でもハルっていうほど陰キャラのイメージじゃないんだよね。女子目線で見ても」


 冬姫がなんか意味深なことを言ってきて、そのまま話を続ける。


「だってさ、ハルは顔は当然アキには劣るけどイケメンって言われても正直おかしくないんだよね。ただ、本読んでるから陰キャラって意味分からないし、普通本読んでる人って頭いいって思うはずだし。実際、ハルは頭いいしね」


「人を過大評価し過ぎだ。本はライトノベルばかり読んでるからそう思っているんだよ。それに頭いいって言っても上位になんとかいるような感じだしな」


 身贔屓にもほどがある。


 本読んでる=頭いいはちゃんと本を読んでる人に失礼で、俺のはライトノベルでこの後の人生や話のネタにすらならない。


 いや、俺も失礼なこと言ってるな………決してライトノベルを罵ってる訳ではない。


 要約するなら、十代から三十代までならライトノベルという枠組みで、知り合いだって分かち合える人はいる。


 だが、それ以降は別な捉え方をされる場合がある為、文豪小説とかでないと話のネタをならないということなだけ。


「でも、ハルが上位にいてくれるから私達に勉強を教えてくれるじゃん。私たちはハルにはいつも感謝してるんだよ」


 冬姫が感謝の気持ちを述べると、アキも続け様にこう言う。


「だから、ハルには早くいい人が出来て俺らとダブルデートでも出来たらって思ってるんだからな。あ、これ冗談じゃないからな本気で言ってるから」


 まったく、こいつ等には敵わないな。二人がいてくれて助かる。

 

 そんな会話をしながら、俺ら三人は学校に着く。因みに三人とも同じクラスである。


 クラスでも大体は一緒にいるので、クラスの連中からは『お前らのところ、あと一人いたら面白いのにな』なんて言われたりしたこともあった。


 その理由は簡単で春彦=春、秋織=秋、冬姫=冬。


 そう、俺ら三人には季節の名前が偶然も付いていたのだ。


 あとは”夏”が揃えば春夏秋冬になるって言いたい訳である。三人ですら奇跡に近いのに四人揃ったら運命だろ。


 やばい、ラノベ読み過ぎて変な言い方になってる。


 これが俺が二人以外から陰キャラと言われる所以なのだ。


 しかし、こうゆうグループは俺らだけではなく、他にも存在しているのは知っている。


 他のクラスで似たような形になっている女子グループがあるのだ。


 通称『雪月花』『花の三姉妹』『歩くゴシップ』などと呼ばれるグループであり、この面子と出会うのはちょいと先の話。


 先ほど言った運命、それは意外と早くやってくるなんて思いもしなかった。


 それは、HRに起きた。先生の一言で。


「あー、今日は新しい仲間を紹介しようと思う。親御さんの転勤の関係で今日からこの学校で一緒に学ぶことになるからみんな仲良くしてやってくれよ。ただ、男子は絶対に迷惑を掛けないこと。分かったな!」


 先生の言い方からするとどうやら転校生は女子のようだった。しかも迷惑をかけないってことは先生から見ても美人or可愛いということだろう。


 先生が『入ってこい』と言うと一人の女子が入ってくる。


 空いてるドアから一人の女の子が入ってくる。


 俺好みのロングストレートの黒髪で清楚感がありつつも冬姫のほんの少し元気さを入れた感じの子。あれ?ちょっとまて、この子どっかで見たことあるよな。


 すると、女の子は俺と目が合うと大声で叫んだ。


「昨日、猫ちゃん拾ってくれた人だー」


 先生ごめんなさい、早速迷惑かけてます。


 でもさ、これって俺のせいか?先生は驚いた顔して。


「なんだ、お前らもう会ってたのか?」

「い、いえ昨日会ったのは単に偶然で」

「まぁ、それは後で色々聞くとして。自己紹介するか」


 おい、教師。なんで興味津々なんだよ!


 普通は逆だろうよ。しかもなんか男子の目線がやけに刺さるように感じるんだが……俺は何もしてない。


「はい、みなさん初めまして。紫季夏美って言います。今日からここに通うことになりました。色々と不慣れな点があるとは思いますが、どうぞよろしくお願いします」


 ハッキリとした声で自己紹介を言い終え、両手で前に置いて礼儀正しく頭を下げると、クラスから拍手が飛ぶ。


 この出会いが学校と私生活が一変するなんて思いもしなかった。


 紫季夏美の存在によって自分が変わるなんて。

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