非日常

 名前も素性も知らない女の子が去っていくのを確認?した後。


 家に猫を連れて帰ってきたが、連れて帰る間に逃げ出すと思いきや大人しく静かにしていた。


 一瞬、どこか悪いのかとも考えたがひとまず家に連れて帰ってから考えることにした。


 けど、また猫を飼うことになるなんて思ってなかった。


 うん?そもそも俺、猫を飼ったことあったけ?


 なんだろう、この不思議な感じ。


 自分でも分からない疑問を持ちつつ、家に帰ってきた。


「ただいまー」

「おかえり。あら、思ったよりも可愛い猫ちゃんじゃない!この子が捨て猫なんてなんだかあり得ないわね」


 母さんも子猫の可愛さにしっかりとやられてしまったようで、案外飼う気満々だったのがびっくりしてる所に俺が問いかける。


「母さん、猫の飼い方とか知らないよね?」

「私は知らないし。お父さんも知らないと思うわよ?」


 仕方ないのでスマホで調べようとしたら。


「でも、春彦なら分かってるんじゃないの?だから、拾って来たんでしょ?」

「え?どうゆうこと?俺っていうかこの家で猫飼った覚えないけど?」

「何言ってるの?昔、猫とよく遊んでたじゃないの」


 そういえば、さっきもこの猫を見てそんなことを思い出していた。


「確かに遊んでいた記憶は微かにあるんだけどね」

「そうなのね。まぁ、私は可愛らしい猫ちゃんだから飼うのは賛成よ。お父さんもこれだけ可愛い猫ちゃんならいいって言いそうだけどね?写真撮ってお父さんに一応送ってみたら?」

「ああ、そうする」


 猫の写真を撮って父さんに送信したらすぐさま返信が来て『可愛いし、春彦が責任持つなら飼ってもいいじゃないか』と言質を頂いたので、晴れて新たな家族となった。



 名前は……三者三様の見事な意見割れで、今日中に名前は付けられることはなかった。


 吾輩は猫である、名はまだない。完全に小説じゃん。


 部屋に戻り、猫を飼い方をスマホなどで確認したりした。結果、分からず。


 今日の所は、ひとまず俺の部屋で寝かせることにしたが、猫ってこんなに大人しいもんだっけ?ちゃんと飼ったことはないのだから判るわけもない。


 そんな疑問がありつつ俺は眠りについた。


 翌朝、いつもなら母親の声で起きる。


 今日は、可愛らしい声とお腹に重みを感じて目を覚ます。重さの正体は……


 「にゃー、にゃー」


 にゃー?なんで猫の声?自分の頭が覚醒すると昨日の事を思い出す。


「そうだった、昨日猫を拾って俺の部屋で寝かせていたんだっけ?」

「にゃーにゃー」


 どうやら『腹減ったー!飯食わせろ』って言ってるようなので、言うこと聞かないと泣き続けそうだったから億劫だが起きることにした。

 

 もしかして、こいつがいる限り毎日こうやって起こされるの俺?

 

 起きてしまった以上は二度寝をする気はないので、制服に着替えて下に降りると母さんが珍しい顔をしていた。


「おはよう春彦。今日は珍しく早いわね、どうしたの?」

「いや。こいつに起こされた」

「にゃー」


 指で猫を指すと、威勢の良い返事が下から聴こえてくる。


 おい、返事するなよ。懐くの早くないかこいつ?


「あら、いい子ね。寝坊助を起こしてくれたご褒美あげないとね」

「ご褒美じゃなくて朝飯な。っていうか誰が寝坊助だよ。遅刻してないだろ?」

「何言っての?いつも遅刻ぎりぎりなんだから十分寝坊助でしょうよ」


 こいつのせい?おかげ?で毎日起こされてる羽目になるのか俺……まぁ、良いけどさ。


 母親から猫にシフトするだけの話だから。


 別に早起きになるつもりは一切ないのだが、それは無理な話なんだろうな。


 起きてしまったからには仕方ないが、ちょっと早いけど学校に行くことにした。


 さて、今日は何の文庫持って行くかな。


 偶にはファンタジー系でもいいかな。


「ちょっと早いけど行ってくるわ。猫のことよろしくね」

「いってらっしゃい」「にゃー」


 ん?あいつは人間の言葉でも分かるのか。化け猫なんて言うオチだけは勘弁だからマジで!


 まぁ、いいか。とりあえず学校に行って教室でゆっくり本でも読んでるか。


 そんな訳で、準備万端で家を出る。


 正直、この時間に登校するなんて久しぶり。


 いつも以上に人がいて違和感しかない。


 見慣れた通学路をのんびり歩いていると、後ろから聞き慣れた声がする。

 

 この声をここで聞くとは……何も聞かれないことを祈るだけ。


「おーい、ハル」

「ハル、おはよう」

「アキ、冬姫おはよう。今日も仲いいな」


 俺のところにやってきたのは二人。


 学年一イケメンと称される男子で俺の一番の理解者の綾瀬秋織あやせあきおりでスポーツ全般万能で、サッカー部のエースを背負う。


 少し残念なのが頭がちょっと弱く、俺はアキと呼んでいる。


 もうひとりは、アキの彼女の東山冬姫とうやまふゆき


 モデル並みのスタイルで人を引き寄せ、陽キャラオーラで天真爛漫に整った顔をして女子のカーストトップに君臨している。


 何気に運動も出来るが頭脳はアキより少しいい程度で、料理が大好きで腕前は折り紙付きである。


 要は、二人ともカーストトップということだ。俺は普通でむしろ陰キャラだが。


 あ、俺は犬飼春彦。高校二年生で二人の友人キャラの位置づけであり、この作品の主人公らしいが、本来ならばアキが主人公のはずなんだが?


 因みに頭の良さ、運動能力は平均的で二人からは何故か『『平均詐欺!!』』って言われることもしばし。


 顔は冬姫曰くそれなりにいいらしいが、自分の顔なんて知らん。


 学校では大概、本を読んで過ごしている為なのか、その関係で俺はクラスからは陰キャラ扱い。


 あとは小説家を夢見ているから、それが余計に輪を掛けているのだろう。


 自分は自分で他人は他人なのだから、何を言われても気にしないが。


「珍しいじゃん、こんな時間に学校に行くなんて。どうしたの?」

「ああ、ちょっと事情があって仕方なくな」

「ふーん。あ、ちょっと待て!」

「どうした?」

「これの猫の毛かな?付いてたから取ったよ」

「サンキュー、冬姫」


 あー、多分布団から追い出す際に持ち上げたからだな。

 

 気を付けないといつ間にか部屋が毛だらけになりそうだ……色々と大変になりそうな予感しかしない。


 冬姫が不思議に思った点を俺に問いかけてきた。


「でも、なんで猫の毛付いてるの?ハルの家って猫なんて飼ってなかったよね?」

「実は、昨日猫を助けてくれってお願いされてな。仕方なく飼ってる」


 って、自分からカミングアウトしたら意味ないじゃん………慣れない事はするもんじゃないって胸に刻んでおくか。


「お願い?誰によ?」

「知らない子に」


 名前を聞く前に去ってしまったので聞ける訳もない。


「なにそれ大丈夫なの?その子もそうだし猫も、そしてハルも」


 そりゃ、知らない子から猫を助けてくれって言われたら不審に思うよね……当事者ですらそう思うし。


 けど、悪い子ではないのは確か。


 しかし、どこの学校の子かも分からないのだから会う機会なんてないと思っていた。

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