忘れていた二つ名

 もう、恒例化としている4人での登校風景。


 多少慣れたと言えど、まだ吹っ切れた訳ではない。


 3人は目立つし、俺だけ普通なのでさらに目立つ結果になるのだから。


 教室に入ると黒板の前でなぜか人だかりが出来ているのだが、一体何事よ?


 男子生徒の2人が俺らの存在に気づく。


 正確には俺と夏美のようだった。


 俺が夏美をその場に留め、率先して見に行くとチャラ男こと鈴木からイラつき成分100%で、俺に鬼の形相で詰め寄ってきた。


 男に詰め寄られても全く嬉しくもないし、迷惑しかない。


 鈴木は、イラつきながら俺に。


「おい、あの写真どうゆうことだよ。お前ら、この前はそんな関係じゃないって言っててこれかよ!」

「話が読めないんだが。写真って何のことだ?」


 俺がそう言うと、鈴木が写真を指差して黒板に張られていた写真を自分で取り、俺にその写真を見せてきた。


 その写真には見覚えがあったから。


「これって、あの大型ショッピングモールだろ。どう見たってデートじゃないか!」


 昨日新聞部の花村さんに見せられた写真と同じだったのだから。


 しかし、なんでこの写真が出回ってるのかが分からなかった。


 その答えは、簡単に知ることになる。


「これが朝、昇降口に落ちていたのを見つけたんだってよ。そうしたら、お前らが写ってるから追及してやろうと思ってな!」


 そうゆうことか、なんとなくというか簡単だ。


 要は花村さんが持っていた写真が帰る時に昇降口に落ちてしまっていたんだ。


 それをクラスメートの1人が拾って晒した訳か……これは故意ではなく、偶然だと思うがほんと勘弁してくれよ。


 あ、ふと思い出した。


 っていうか、あの3人の本当のグループ名を。


 あの3人には『雪月花』『花の3姉妹』という二つ名があるのだが、実はもう一つあるのだ。


 それが本来のグループ名でしかも不名誉な二つ名が。


 それが……


「『歩くゴシップ』か。まさか偶然といえど、自分が被害者になるとは思いもしなかったな」

「そんなことはどうでもいいんだよ。これの説明をしろって言ってんだよ!」


 キレてる鈴木に物申したのは、もう1人の当事者である夏美だった。


「あのさ、聞いてればさっきからなんなの?私とハルが一緒にいるだけでこんなに文句を言われないといけない訳?私が誰と行動しようと私の勝手だし、貴方は私の何なの?彼氏面とか迷惑だから。アキ、冬姫、ハルは私の大切な人達だから傷つけるようなら許さないから!」


 夏美の物言いに尻込みしてしまった鈴木をそのまま放置して、夏美を一旦教室の外に連れ出した。


 今の時間ならHR前で時間もある程度あるので屋上まで向かった。


「夏美、大丈夫か?その、悪かったな……」

「なんでハルが謝るの?私達、悪いこと何もしてないのに……」

「悪いと思ってるのは、夏美にあんなこと言わせてしまったことだよ。俺らは別に不純なことしてる訳でもない。けど、それ言わないといけないのは俺のはずなのに。ごめんな、怖かったよな」


 夏美は、気丈に振舞っていたのは分かっている。


 今だって足がおぼつかないくらいだし、それを見た俺は思わず夏美を抱きしめてしまったのだ。安心させたい一心で。


 急に抱きしめられて、夏美の身体が跳ねるような仕草を見せるもののすぐに収まって、俺の胸に寄りかかり本音を漏らしていた。


「怖かった。あんな啖呵切ったけど言った後、何を言われるか怖くて。でも、ハルが助けてくれた。ハル、ありがとう」

「あんなの助けた内にすら入らないよ。今回は俺が夏美に助けられたんだから。夏美、ありがとう」


 お互いに『ありがとう』を言い合ってる内に笑いが出てきた。


 これなら戻れるかな?そう思い、夏美に戻れるか聞くことにした。


「落ち着いたか?そろそろHRも始まるけど?」

「うん、私はもう大丈夫だよ。ずっとここにいたら2人が心配しそうだから」

「夏美、その考えは論外だ。ドアの方に顔を向けてみて」

「ドアって?あ……」

「「あ」」


 『見つかった!』って顔をしてるのは、カーストトップのバカップルである。


 まぁ、単純に様子を見に来てくれた所でオイシイ場面に出くわしたと思っているんだろうな。


 あいつらがいかにも考えそうなことだ。


「ったく、どうせ二人のことだから結構前から見てたろ?白状しろ」

「流石だね、ハルが夏美を抱きしめた時からかな?2人ともお熱いことで」


 全部見ておきながらそんなこと言うから本当に質が悪いったらありゃしない。


「こんな時にからかうんじゃないよ冬姫。2人とも災難だったな」

「ああ、全くだ。昨日のうちに没収しておけばよかったな」


 夏美は、俺の言葉に疑問を感じたようで普通に聞いてくる。


「ねぇ、ハル?なんであの写真で出処知ってるの?」

「それは後でちゃんと説明するな」


 とりあえず教室にもどり何もなかったように過ごした。


 放課後、俺は3人を部室に呼んで今日に限ってはこの場所の方が都合がいいからだ。


 ついでにやらかしてくれた人達にも一言くらい言わないと気が済まないのが本音である。


 3人が部室に来たのでとりあえず適当に座ってもらった。


「実は、昨日新聞部の3人がここに来たんだよ。それであの写真の存在を知った」

「ハル、なんで部室にいたのよ?休みなのに」

「家で執筆するにも春夏がいるとかまってしまうから、今の作品を書くには部室が一番と考えた。で、書いてる時に3人が来た訳だ」

「それで、3人の要件はなんだった訳?もしかして?」

「ああ、ご明察通り。昨日俺と夏美がショッピングモールで一緒にいたところを偶然見かけたので撮ったらしい。その件で3人がやってきたんだ」


 めんどくさかったが昨日3人が話していた内容をフルコピーしたかのように説明をした。


 冬姫が『あ!』って顔をした。


 お前の予想通りだよ、きっとな。


「3人が帰る時に落としたのを気づかずに帰ったのね」

「そうゆうことだ。あ、夏美」

「ん、どうしたのハル?」


 こうなった以上は、あれも聞かれているだろうから先に言った方が気楽だろうから。


「昨日、昇降口で俺との会話の内容覚えているか?」

「う、うん。覚えているけどそれがどうしたの?」

「多分、3人に聞かれてる」

「え?嘘でしょ?」


 この流れについていけない冬姫が俺に問いかける。


「何の話をしたの?春夏のこと?」

「ああ、だが色々と問題発言があってな。それを聞かれた確率は高い」


 まさか、あの後に『材料集め』が再開されているとは思いもしなかった。


 向こうからしたら『棚から牡丹餅』だろうし、どんなネタよりもインパクトある。


 話がある程度終わるころに、ノック音がしたので『どうぞ』と言って招き入れる。


 その招き相手とは当然。

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