真相

 部室に新聞部が突撃して来て、俺と夏美が昨日ショッピングモールにいたことがバレてしまい、追及を受けていた。


「ということなんだ。だから、夏美とはそんな関係じゃない」

「それはそれでなんかいい記事に出来そう。運命の出会いって感じで」


 まぁ、その辺は新聞部は好きそうなキーワードだよね……


「それは、やめてくれ。夏美に迷惑が掛かるのは避けてくれ」

「なんで、庇うの?独占欲?」

「違う、夏美はまだ転校して来て間もない。ただ、俺のグループの人間を不用意に攻めるのはやめて欲しいだけだ」


 正直、そんなことでグループの輪を壊されてはたまらないからだ。


 夏美の事情を知ってるのは『春夏秋冬』のみだから。


 それ以外の人間には余程の信用がない限りは話す気もないし、俺から話すなんて言語道断だから。


「あの、出来れば自分の部活動したいので用が済んだなら退室してもらませんか?人がいると気が散ってしまうので」

「今日の所は、これくらいにしてまた材料集めしましょうかね」

「また来るわ」

「また、来ちゃうと思うけどその時はまたお願いします」


 そう言って、3人は部室から姿を消した。まるで台風一過だな。


 にしても、バレたところが厄介だな。


 まぁ、無闇に言いふらす感じではないから大丈夫かと思うがやはり心配な所はある。


 今日のことは、3人にはちゃんと言っておかないとな。


 静かになったところで再度執筆を開始して、余計な時間を多少取られたが書きたい所まで書くことは出来たので帰宅の準備を始めた。


 昇降口に行くと人影に気づいた。


 この時間にいるとすればさっきの3人の誰かかな?そう思って向かうとそこにいたのは意外な人物だった。


「夏美、どうしたんだ?母さんと一緒じゃなかったのか?」


 俺は夏美がここ居る理由が分からなくて素直に聞くと。


「おばさまがそろそろ『放浪息子を連れ戻してきて』って言われて」

「そうだったのか、結構待ったんじゃのか?」


 放浪息子って……朝、学校に行ってくると言ってあると思うんだが。


 それにまだ放浪するほどの時間でもない。


 けど、時間を見れば4時を回っていた。


 新聞部が来たのが2時過ぎだから夏美とは会ってないから問題はないか。


 全く、来るなら連絡すればいいのに。


 夏美のことだから、俺の作業の邪魔をしたくなくて自然に降りてくるのをずっと待っていたに違いない。


 これが真夏や真冬じゃなくてよかったって思った。


 その前に、母さんが一言なんか言ってるだろうしな。


「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。それじゃ、行こうか」

「うん。春夏が寂しがってたよ。パパがいないって。寂しい声出してた」

「夏美、ここでそれ言ったらダメって言ったろ?誰かに聞かれたら大変だろ」

「ごめん……そんなつもりじゃ」

「いや、怒ってる訳じゃなくて聞かれたら夏美が大変になるから。俺は大丈夫だけどさ」

「なんで私が?」


 いや、夏美が俺に対してパパと言ったらあれしかないし。


 春夏のことまで出たら本当に収拾つかないことに気づいてください。


 何故、肝心な部分が天然なんだろうかね?


 今説明すると、後処理まで面倒になるから家に戻ってからにしようっていうのは建前で、万が一あの連中に聞かれると厄介この上ないので、念には念を入れないと夏美に迷惑を掛けることになる。


 この場合は、絶対に夏美に来るのは解っているから標的を夏美から俺に変えておきたい。


 放浪息子が無事家に帰ると、もふもふした白い物体が迎えに上がった。


 本当にお行儀のいい子だ。


「ただいま、放浪息子が帰ったよ」

「おかえり、あんたはいつまで奥さんと子供を放っておくのよ」

「おい、なんか色々と飛躍してないか?夏美に変な事吹き込んでないだろうな?」

「♪~~~」


 口笛吹いて、目を泳がすな。思いっきり吹き込んでじゃねかよ!


 余所の子になにをしてるんだこの親は。全く、今日は色々と事案が多すぎて疲れる。


 すると、夏美が不意に顔を覗かせてきた。


「ハル、大丈夫?体調悪いの?」

「大丈夫だ。部室にいる時に色々あってさ。あとで話すよ」

「嫌だったら無理に話さなくても大丈夫だよ」


 春夏を抱いて夏美共に俺の部屋に向かった。


 待っていた理由はもう一つあって、それは前に約束していた本のことである。


 自分の目と勧めてくれるのは判断したうえで本を借りることになっていた。


「こう見ると多すぎて選ぶのも大変だね」

「そうだな、でもどんなものが読んでみたいかが分かれば大丈夫だ。この前言ってた感じのでいいか?」

「そうだね。ちょっと見せてもらうね。それで分からなかったらハルのお勧めにするね」


 夏美は、色々見て真剣に悩んでいた。見ていて微笑ましかった。


 すると夏美が『あ』って表情をしたので近くに寄った。


「ねぇ、これってどう思う?私でも読めそう?」

「そうだな、これなら大丈夫だな。ミステリーとは書いてあるが人が死ぬことは絶対にない。しかも恋愛のストーリーも含まれているから夏美なら読めると思う」

「ハルがそこまで太鼓判押すなら安心。それじゃ、これ借りてもいい?」


 夏美が選んだのは、京都を舞台にしたミステリー、恋愛、友情が詰まった作品で、主人公が察しのいい人で、それを知らない人は変人と思われてるが、ある少女が主人公と仕事をすることになり、やがて恋に落ちるという物語。


 これなら、アキも冬姫も読めると思うが2人から言って来ない限りは俺から言うつもりはない。読むということに強制を強いたくないから。


「ああ、ゆっくり読んでな。その方がより楽しめるから」

「そうなの?それもハルのことだからちゃんと理由があるんだよね?」

「俺の持論だけど、文庫ってゆっくり読んでるといつの間にか自分がその文庫の世界にいる感じがするんだよ。イメージが溶け込んでいくっていうか。それも込みで楽しんでもらえたらと思う」

「分かった。読み終えたらちゃんと感想も言うね」


 借りる本が決まり、今日はうちで食べて帰るとのことだったので、食べて談笑をして俺は夏美を家の前まで送った。


「今日もありがとう。ねぇ、毎日大変じゃない?無理しないでね。ここまでなら1人で帰れるから」

「そう言っても母さんが許さないよ。『ちゃんと送っていきなさい』って言うから。でも、俺自身もそうつもりでいるから気にするなというか諦めてくれ」

「うん。じゃ、また明日」

「ああ。おやすみ」


 俺は、家に戻る途中に昼間の件を伝えるのを忘れていた。


 そんな大事な事じゃないから問題ないだろうとは思っていたが少しは話しておけばよかったなって思ったのは翌日の自分の教室に入ってから気づいた。

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