本当のスタート
急遽、犬飼家と夏美・アキ・冬姫で団欒鍋パーティーを行うことになって、久しぶりに犬飼家は終始笑いに包まれていた。
別に家族仲が悪いわけでもないし、日頃から笑い話だって出るけど、ここまで笑い声に包まれたのはいつぶりだろうと思う。
そして、犬飼家での団欒鍋パーティー?は無事終わった。
やっぱり、鍋を大人数でしているとそれぞれの個性などが出て面白い。ずっとこのまま続いてくれたらいいとは思うが。
夕食を終えて、俺は後片付けをしていると夏美が俺の方に向かってきた。
「ハル君、手伝おうか?」
「いや、もう終わるから大丈夫だ。それよりも鍋の調理ありがとうな」
「調理って言っても具材切っただけだしね。今度お願いされたらちゃんとした料理を作りたいな。また、冬姫ちゃんと一緒に」
「そうね、やりたいけどこうやって何度もハルの家借りるのもちょっとね」
「だったら折角だし月に1回でやってみるか?」
俺は、夏美達にそんな提案をしてみた。夏美達は慌てた様子を見せた。
「そ、そんな悪いよ」「そうよ、おばさんが大変でしょ?」
「あら、私は全然いいわよ。娘がご飯作ってくれるみたいで嬉しいから。ダメかしら?」
「え、えっとハル君」
「夏美、今は自分の正直なことを言ってもいいと思うぞ」
俺は夏美に自分の気持ちを伝えた方がいいと諭した。
「も、もしさせてもらえるならご飯作りたいです。ちゃんとしたのを食べてもらいたいです」
「なら、月1回は夏美ちゃんがうちのご飯担当ね。アキ君と冬姫ちゃんはどうする?」
「え?私達もいいんですか?」
「何を当たり前のこと言ってるの?私達は春彦を慕ってくれる子は我が子と思って接するつもりでいるから。春彦はついで」
「「ありがとうございます」」
「どさくさに紛れて息子をディスるな」
こうして、月1回で春夏秋冬と犬飼家での食事会が決定した。
ちなみに、その時の食費はそれぞれで少しづつ出し合うことになった。春夏秋冬で8割で犬飼家が2割という形に収めた。
多分、料理が出来ない俺とアキは3割、夏美と冬姫は1割にするだろう。この場合は大体、俺とアキの意見は合意する。料理が出来ないのだから負担が多くなるのは当たり前のことだし。
そうでもしないと、3人が納得しなかったので親が根負けしたのだ。
高校生パワーすげー。特にイケメン+美女2人だもんな。普通が1人いますけどね。
夕食をたべて食卓でみんなで会話していたが名残惜しいが時間が来てしまった。
「そろそろ、帰らないとご両親心配するから今日はここまでね」
「そうですね、おばさま今日はありがとうございました。すごく楽しくて」
「来月が楽しみだわ。2人がどんな料理を作ってくれるのか」
「「頑張ります」」
母さんは、玄関まで見送ってくれて俺らは、それぞれの家に向かう。
俺の家から一番近いのが冬姫で次にアキで夏美の順になる。俺らは冬姫、アキの順に見送り、夏美の家に向かっていた。
「今日は、本当に楽しかった。ありがとうねハル君」
「俺は正直何もしてないからな。こっちこそ母さんの強引な流れに付き合わせて悪かったな」
「そんなことないよ。むしろ毎月あんな楽しいこと出来るなら願ってもないよ」
「そうか。それならいいけどな。そうすると俺らは毎回役不足だな」
「なら、ハル君も料理する?」
「俺に出来ると思うか?どう考えても不器用だぞ」
「それは、ハル君が思ってるだけだよね?そうしたら今度うちで料理の練習する?それで来月ハル君の家で作っておばさまをびっくりさせてあげたらいいじゃないかな?どうかな?」
確かに、そうだな。任せてばかりも気が引けるがすべて作るのは無理だけど一品ならなんとかなりそうだし、親に一泡吹かせるのも一興か。俺は夏美の誘いに乗ることにした。
今、普通に了承したけどさ……俺が夏美の家に行くのか……いいのかそれ?
だって、ある程度親しくなったとはいえ夏美の家に俺が行くのは順序が違う気がする。夏美の場合は、春夏がいるのと両親の強引な流れだが俺の場合は本来なら恋人同士でないと成立しないはず……今更『やっぱり出来ない』とは言いたくない。
まぁ、その時は対策を考えればいいかと思い、夏美にこう返事する。
「それじゃ、夏美先生にしっかり習うとするかな。あとさっき言ってた本だけど明日持って行くけどいいか?どんな感じがいいとかあるか?」
「大丈夫だよ。そうだね、怖いのはダメかな。あとはバトル系?とかちょっと」
「分かった。読めそうなのを持って行く」
「ありがとう。無理言ってごめんね」
「それは違うぞ夏美」
どうゆうこと?って感じで夏美は首を傾げた。
「どんなことでも自分がいいと思ったものは他に人に伝えたくなるものだ。だからこうやって夏美が文庫に興味を持ってくれて、それが他に人にさらに伝われば本を持つ者や作家・イラストレーターは本望なんだ。大変なのは一番最初に読む本が胸に響くかどうかなんだ」
作者やイラストレーターは万人に受ける作品を作ってる訳ではなく、自分が作りたい作品を作ってるだけ。あとは、読む人見る人がどう判断するか。
自分が好きな作品でも相手にとって苦手な作品だと、せっかくの作品の良さも見出せない。
なら、相手が読んでみたい作品を聞くのことが次に繋がるには必要不可欠。
「そうなんだ。ハル君は作家さんやイラストレーターさんを尊敬しているんだね。なら、迷惑じゃなかったら明日直接見て決めたいんだけどいいかな?」
「夏美がそうしたいなら俺は全然構わないよ。むしろその方が自分でも納得するだろし、説明も出来るからな」
そんな話をしてる内に夏美の家に着く。
「話してるとあっという間だね。送ってくれてありがとう、また明日」
「おう、明日な」
夏美が家に入るのを確認すると俺は足を家に向けて歩き出し手少しすると、歩いてる最中にふと頭をよぎったのが。
「夏美と会ってから俺の周りの環境がえらく変わったな。でも不思議と嫌とかじゃなくて、なんかまた一つ楽しいことが増えるんじゃないかって思ってるんだよな。今まではそんなことアキと冬姫がいても思うことがなかったのに」
アキと冬姫といてなにか不満があるかって言われたらないって断言できる。
だからこそ3人でやっていたのだけど、夏美が入ってからはさらに色々出来るんじゃないかって思えてしまうのだ。それが夏美の力なんだろう。
いるだけで周りを笑顔だったり楽しくさせてくれたり、まるで天真爛漫である。
天真爛漫?この言葉に引っ掛かりを覚えた。この天真爛漫をどこかで見たような。それはどこか分からない。でも自分にも関わりがある気がした。
「ただいまー」
「おかえり、今日は助かったわ。たまに楽するのもいいものね」
「でもいいのか?月1回の食事会なんて開いて」
「うちとしては食費は出すつもりだったのに3人がすごい勢いで言うんだもん、さすがに負けるわよ。だったら私達は楽しい団欒に出来たらって思っただけよ」
「帰り際に夏美と冬姫がやる気満々だったから期待しててあげてな」
「そうするわ。サプライズもありそうだしね」
サプライズ?俺の料理の件かな?夏美は母さんに話してる様子は無かった。多分、勘で言ってるけど当たってるのがなんか悔しいな。まぁ、サプライズでも喜んでもらえらばいいかな。
部屋に戻り、夏美が直接見に来るとは言っていたが、一応リストアップはしておこう。悩んだ時にすぐに薦められるようにする為に。
翌朝、いつも通り春夏の重みで起床した。もうこれ春夏の日課なんだろうな。
春夏を持ち上げつつ、身体を起こして撫でてあげると『にゃ~~』と抜けた鳴き方をしていた。ああ、気持ちよかったのね。
時間を見れば3人が迎えに来るまでにまだ時間があるので、リビングでゆっくりしていた。
するとお迎えのチャイムが家の中に響く。春夏が先に玄関まで走る。
今日を機にドアを開けたらそこには笑顔で待っている夏美がいて、後ろにアキと冬姫もいる、これからはこの流れが当たり前になっていくのだろう。悪くないなこうゆうの。
俺ら『春夏秋冬』はここからがスタートなのかもしれない。
俺の……俺らのゴールがなんなのかは分からないけどゴールが見えるまで走ればいいだけだ。高校生らしくな。
そんな俺の心の声を受け取った3人がこう告げる。
「「「行こう」」」
「ああ、それじゃ」
「「「「いってきます」」」」
「ええ、いってらっしゃい」「にゃーー」
母と春夏によって送り出された俺らは心が躍るような気持ちで学校に向かった。
まぁ、当面の流れは俺の料理の腕を上げることだからな。
親を一泡吹かせる為に何度か夏美の家に行くようになるのだがそれが誤算だった。
それは俺の噂を加速させる要素にしかならなかったことに。
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