家族団欒?

 気づいたら外は暗くなり始めていた。


 俺らは3人の時も談笑し出すと時間を忘れることが多かったが、4人になり今は更に1匹いるので、時間が足りないほど楽しい時間を過ごしていた。


 すると、下から母さんが俺を呼ぶ声が聞こえたので返事をしてドアを開けた。


「母さん、どうしたの?」

「みんなはもう帰りそう?まだいるならご飯食べるか聞いてくれる?」

「了解」


 まぁ、これだけ大きな声を出していれば俺が言わなくても聞こえるよね。


 とりあえず、聞くだけ聞いてみることにした。


「おばさんがいいならお願いしようかな。おばさんの料理久しぶりだし」

「私も。お母さんに連絡いれておかないと」

「私もいいかな?楽しくご飯食べれそうで参加したい♪」

「夏美は半分強制だろうな。母親特権で」


 はい、多数決でうちで大人数ご飯が確定しました。


 それを伝えると母さんが俺の部屋に入ってきてこう告げる。


「なら、みんなで食べたいもの買ってきて。調理は私がするから」

「でしたら、私達でさせてもらえませんか?折角なので」

「ならお願いしようかしら?冷蔵庫の食材も使って構わないから見てから買い物に行ったらどうかしら」

「「はい」」


 失礼なことを言うと冬姫は料理大好き女子。


 見た目からしたら出来ないように見えるが、料理の腕はしっかりしている。


 彼氏であるアキの胃袋をしっかり掴んでるし、夏美も家で料理してるのと昼に弁当の中身を見れば上手いのは分かる。


 その結果、今日の食卓は春夏秋冬で作ることになった。夏と冬だけ。


 俺らは雑用確定だけど、春と秋はただ付き合うのみ。


 こうして、俺らは最寄りのスーパーで買い物をすることになり、高校生4人がスーパーで普通の買い物してるのが、やけに珍しいのか注目を若干浴びていた。


 そりゃ、兄弟や姉妹なら分かるがどう見ても他人だもん。


 イケメンと美少女2人と普通1人だしな。


 そりゃ、注目だって浴びますよね。何故か目線が微笑ましいのが不思議だった。


「さて、2人はなにが食べたい?それとも私達?」

「お前は……場所を考えて言え。変な目で見られるだろう」

「ハルって本当にウブだよね。普通に対応されたら引いてたけど」


 このままだと脱線は確実だから意識を変えるか、俺は夏美に目線を向けて問いかけた。


「夏美は、食べたいものってある?自分の気持ち言ってみて」

「時期としては違うとは思うんだけどお鍋にしてみたいなって」


 ほう、鍋か。確かにこの人数からしたら大皿料理をするよりいいかもしれない。


 時間もあまりないからその方が色々と効率がいいだろうと思い、俺は家に連絡を入れる。


『もしもし、一彦どうしたの?』

「あのさ、うちに大きい鍋って2つあったりする?」


 1個はどの家庭にもあるのは分かっているが、2個は余程の大家族じゃなければ持っていないと思ったので、一応聞いてみた。


『あるわよ、前に使おうと思ってたのがあってまだ箱から出してないけど』

「それ使って大丈夫なの?」

『別に構わないわよ。誰かにあげる訳でもないから。ってことは今日は鍋ね』

「そうするつもりだけど嫌なら別にするけど?」

『その提案したのって夏美ちゃん?』


 女の勘は鋭いのは本当らしいな。


 提案しただけだから別に違うって言うこともないので正直に話す。


「そうだけど?それでどうする?」

『鍋で大丈夫よ。その方がみんなで楽しめるでしょうから。それじゃ、2つ用意しておくわね』

「ごめん、お願い」


 そう言って電話を切ってみんなの下へ戻ると、俺は夏美に向かって母の思いを告げた。


「母さんは鍋で大丈夫だって。『みんなで楽しく出来るからいいわよ』ってさ。鍋も2つあるから問題ないよ。どうせ、アキのことだから一つは辛い物にしたいんだろう?」

「さすがだな、俺の考えまで読むとは。悪いなハルの家なのでリクエストして」

「うちも辛いのは結構やる方だから。もう一つは、冬姫と夏美で決めてくれるか?」

「「わかった」」

「あ、カート任せていいか?俺らの鍋の食材選んでくる」

「「いってらっしゃい」」


 なんだろう、今の流れがまるで夫婦のような会話に一瞬思えてしまう。


 すると横で笑う声が聞こえた。


「なんで笑ってるんだよ、アキは」

「いやね、俺らの今の会話が2組の夫婦の会話みたいに思えてさ」

「アキと冬姫は後々そうなるけど俺と夏美は違うだろうが」

「でもさ、ハルと夏美ちゃんってお似合いだって俺は思うけど」


 俺と夏美がお似合い?何故、そうなる。


 確かに俺と夏美は不思議な出会い方をしているけど、それ運命とかいうのは少し違う気がするし、それに容姿からしても俺と夏美とじゃ釣り合わないのは誰って分かる。


 イケメン×美女ならともかく、普通×美女はあり得ない。


 先ほどの微笑ましい視線を感じたのはアキと冬姫に対してなのだ。


 そう思っていると、後頭部に痛みが走る。


 頭痛ではない、アキがチョップしてきて地味に痛い。


「いって、なにするんだよ」

「ハルがロクでもないことを考えているからリセットしようかなって。ハルのことだから夏美ちゃんと釣り合ってないって思っているんだろう?さすがに鈍感な俺でも分かるぞ」


「何が鈍感だよ。お前が鈍感なら俺は何になるんだよ?」

「簡単だよ、超鈍感!」


 アキの野郎、はっきり言いがやった。しかし、鈍感って言われて否定出ない自分がいる。


「夏美ちゃんは、お前を頼っているんだ。そんな頼りどころのお前がそんな気持ちでいたら夏美ちゃんが可哀想だろう?別に好きになれとは言わない。なって欲しいが。でも、俺らはグループなんだ。俺には冬姫がいる。グループで行動している時は夏美ちゃんの寄り添ってやれよ。なぁ?」


 アキも冬姫も勉学の頭を使わないでこうゆう時に頭を使うのかな……しかも、聞く方からしたら正論を言われているので言い返せない自分が悔しい。


 悔しいが、一矢報いるために言葉を発する。


「でもさ、そんなことして夏美が俺なんかにあり得る訳ない好意が芽生えてしまったらどうする。ないと思うけど告白とかされたらこのグループは消えてしまうかもしれない」


 アキは、俺が言い終えたのを確認すると軽く笑みを出した。出た、必殺イケメンスマイル。


「ハルの言いたいことも十分なほど分かってるつもりだ。これは俺の個人の意見だから聞くだけ聞いてくれ。このグループで『夏』が足りないのは分かってたけど、じゃ『夏』が付く人が入ってくればいいのかってことになる。でも、それは違うだろ?」


 アキの言うことはまさに正論中の正論であり、俺の言い方だと『夏』が入っている人がいれば誰でもいいということになってしまう。しかし、俺個人としては『夏』が入ってる知り合いはいないが、いたとしても簡単に入れる気はないのだ。


 それは、以前に夏美に説明をしているけどこのグループは季節の名前が入ってるから入ってる訳ではなくて、心の底から信頼できるメンバーだけの特別な場所。


 アキはそのまま話を続けるので俺は反論等に関しては後程にして、最後まで聞くことした。


「それに今回はハルが実際に手引きしている。俺は正直、ハルから誰かを入れるなんて思ってなかったんだよ。でも、夏美ちゃんを入れた。それは、きっと彼女に『夏』が入ってなくてもハルは入れたと思うんだ」

「アキ……」

「今だけ、このグループにいる間は夏美ちゃんに少しでいいから寄り添ってやれ」


 やっぱり、アキは男として格別だって思った。


 ここまで言われてしまっては無下にすることは出来ない。


 けど、この事を聞いて自分でも不思議だと思った。


 俺はなんで夏美を迎え入れたのか?アキの言う通りで、夏美の名前に『夏』が入っていなくても入れていたと思うが、それは春夏がいるからだと思っていた。


 しかしながら、その答えはすぐに出ることはなかった。


 こればかりは俺の負けというか反論の余地もないので、素直に。


「色々言って悪かったな、食材探さないと怒られるし、楽しい時間が減っちゃうからな」

「そうだな、合いそうなのを片っ端から入れていくか」


 男同士の会話は、時には大事な事を教えてくれる。しかも俺には親友には勿体無いくらいの男がいる。俺は恵まれているんだなって実感をした。


 男子と女子で買い物をした結果、お互いに被り過ぎたのがあったので4人で再度見回ることになったがこれはこれで楽しかった。夏美もずっと笑顔が絶えなかった。


 その日、犬飼家は、大家族のような団欒をすることになり、鍋が2つあって俺らが選んだのはキムチ鍋で夏美達が選んだのは水炊きだった。

 

 この時は俺は下でご飯を食べていた春夏を見る。


「春夏がいなかったらこんな風景は見ることはなかったんだよなきっと。ありがとうな春夏」


 そう小言を言った時、頭痛が襲った。幸い誰も気づいていないので俺は『ちょっとお手洗い』って言ってトイレに向かった。


 一体、この頭痛はなんだろう?病気にしてはおかしな点がありすぎるし、この頭痛が発生するのが決まって春夏のことを見たり、言ったりする時が多い気がしたが、2度あることは3度ある。そう思い、何食わぬ顔で食卓に戻った。


 頭痛自体は、ほんの一瞬なので痛みはトイレに向かう途中には消えていた。

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