噂の真相

 あの喧騒から1週間ほど経った日、俺ら4人は駅前にあるスタボで、ゆっくりと談笑していた。


 談笑の内容は俺の噂に対してなんだがな。


 今まで空気のような人間が注目を浴びるとこんなに辛いもんなのと思うと、アキや冬姫達が凄いと思えてくるが、夏美はこれを転校してからは、毎日浴びてるかと思うと手助けしてあげたいが……


 実際、これには俺も当事者として入っているのだから、割り込んだところで火に油らを注ぐ行為にしかならないのだ。


 俺の良からぬ噂は現在3つあった。当然だが、すべて嘘である。


 1つ目は、転校生を手籠めにしているということ。

 2つ目は、転校生との間に子供がいるということ。

 3つ目は、生徒会長を襲おうとして会長が泣いて飛び出したということ。


 1つ目は、夏美と前日に会っていて転校初日に偶然会っただけなのに、手籠めにしたってことになっているのだ。多分、それを流している人物は予想できるけど。


 寧ろ、2つ目は100%嘘って分かるはずなんだけど、もし本当だったなら教育委員会に話が行ってるレベルだ。場合によるが。


 3つ目は、何が悪いかすら分からないっていうか、完全にネタのレベルである。


 そんな意味のない噂の話に盛り上がっていて、アキは一口飲むと夏美に労いの言葉を掛けた。


「ハルと夏美ちゃんは本当に大変だったな。夏美ちゃんは転校してからずっとだもんな。大丈夫?無理してない?」

「ありがとうアキ君。今は私に何かあるわけじゃないから大丈夫」

「そうだね、なにかあればハルが助けに行くから大丈夫よ。某ヒーローみたいに」

「なるべく自分の力で何とかしたいけどね。ヒーローって?」


 俺を国民的ヒーローに仕立て上げるのはやめてくれ。


「困ってる子に自分の顔をあげたり、悪い子を倒すヒーローだよ」

「あ、〇ンパンマンならぬヒ〇パンマン!!」

「くらえ、ヒ〇パーンチ!!」


 本当にパンチしてやろうかと思ってしまったけど、2人の気遣いによることに気づいたのでやめた。


 アホなことをやっている俺達は、各々が飲み物を飲み干すと店を後にする。


 すると冬姫が噂の一つに触れてきた。


「ねぇ、そういえばさ。夏美ちゃんとハルの子供の噂って猫ちゃんのこと?」

「ああ、そうだよ。もともとは浅海会長が言い間違えたのが発端だが」


 そう、2つ目の噂の発生源は凛姉だったのだ。


 要は、名前を付けた時のことを話してる内に脱線したらしく、そのまま俺と夏美の子供と言う脈絡のない噂になってしまったのだ。


 それを教室で話すもんだから、彼女のクラスの連中が耳立てて、噂がすぐに広まったということらしい。何とも迷惑な話である。


「ねぇねぇ、ハル?私達も2人の子供じゃなかった、2人が名付けた猫ちゃんに会いたいな。ダメかな?」


 冬姫は、ちゃんと意味で春夏に会いたいようだが、普通に言えよ……


「冬姫、面白がってわざと言うのはやめ。夏美が顔が真っ赤になってるだろうが。会いに来るのは別に問題ないよ」

「今から行ってもいいの?アキは予定とか大丈夫だっけ?」

「ああ、俺は特に予定もないから大丈夫」


 真っ赤になった夏美を引っ張るように俺らは家に向かって歩いた。


 夏美さんよ、もうぼちぼち慣れておくれって言ってもそう慣れるもんでもないよね。


 俺だって、余裕な訳じゃないし………こんな状態は初めてで、どうしたらいいのすら悩んでる状況だから。


「ただいま、アキ達家にあげるけど大丈夫だよね?」


 帰るなり、母さんにアキ達を上げることを伝えると。


「おかえりなさい。アキ君、冬姫ちゃん、夏美ちゃんいらっしゃい」

「「お邪魔します」」「ただいま」


 あ、冬姫達いるの忘れてた。


 気づかれなければいいけど、何も言わないってことは気づかれずには済んだようだな。


 すると、奥から白い物体が勢いよく走ってくる。止まれるのか?うん、それは止まらないよね絶対。だって、フローリングだもんね。


 無理そうだから俺は、しゃがんで春夏が来るのを待って受け止める。


「にゃーー」

「ただいま、春夏。良い子にしてたみたいだな」

「にゃーにゃ」

「これが噂の2人の子もとい猫ちゃんか。可愛い、もふもふしたい!」

「めちゃくちゃハルに懐いてるね」

「とりあえず部屋に行こうぜ」


 俺は、みんなを一旦部屋に連れて行きくつろいでもらった。


 アキと冬姫と夏美には部屋で待っててもらい、俺はその間に飲み物を準備して再度自分の部屋に戻ると、春夏が夏美に甘える仕草をしているところだった。


「はいよ、おまたせ」

「ハル、悪いな。いろいろしてもらって」

「俺の家なんだからするのは当たり前だ」

「ねぇ、また本増えてない?月に何冊買ってるのよ?」

「月に寄るけど平均5~10冊くらいだぞ。まぁ、このままだと増設しないとやばいけどな」


 ふと、夏美から質問が飛んできた。


「ハル君が小説家を目指す理由ってあるの?無理には聞かないけど」

「そうだな、見て分かる通り俺は、中学からこんな感じなんだ。この前、浅海会長がいたときも話したと思うけど。目指す理由は簡単で沢山読んでると、頭の中にストーリーが浮かぶんだ。それを書いてみたいって思ったのがきっかけかな」


 何作か書いてはいるが、貯めこんでいるだけで外には出していない。出して世間の洗礼を浴びて、成長するのが普通なのだが。


「そうなんだ。ねぇ、もしよかったらハル君のおすすめ教えてくれる?私、小説全然持ってなくてハル君が勧めてくれるものなら読めそうな気がするし、読んでみたい。ダメかな?」

「いいよ、むしろ読んでくれると嬉しいな。読んだからって買ってくれとは思ってないから安心してくれ」


 でも、今話していて疑問がある。俺がどうして中学から本を読み始めたのか?


 中学の時は至って普通の学校生活をしていた。アキとは中学から親友なので、一応アキに聞いてみることにした。


「なぁ、アキ?中学の時の俺ってアキから見たらどんな感じだった?」


 話を振られたアキは『うーん』と軽く悩み、こう言ってくる。


「そうだな、至って普通って感じだったかな。一緒にいて居心地良かったし。だからこそ、こうやって親友をやっていられるんだけどね。でも、あの頃から本は読んでたな」

「そうか。ありがとう」


 有力な情報は得られなかったけどそこまで追求することではないと思い話を切ったが、冬姫からいきなり先ほどの核心をつく質問が飛んできた。


「ねぇ、夏美ちゃんってもしかしてハルの家に何度も入ってたりする?」

「え?入ったのは2回だけだよ。どうしてそう思ったの?」

「さっき、お邪魔するときに夏美ちゃんだけ『ただいま』って言ってなかった?」


 やっぱり、気づかれていたか。そう簡単にカーストトップを躱すのはきついか。


 俺は、正直に答えることにした。


 一応、夏美とはアイコンタクトで確認すると『いいよ』って感じで返ってきた。


「実は、最初にうちに上がってもらった時にうちで夕食を食べていったんだよ。本当は浅海会長も食べるはずだったんだけどね。それでうちの両親が何故か夏美を気に入ったらしくて自分の家みたいにしてもいいって言ったんだよ。後のいきさつは俺は分からない。夏美と両親で話してたからな」


 これに関しては事実なので誤魔化す理由は一切ない。


「おばさん達に認められるって。夏美ちゃんはハルの嫁候補になってるんだね」


 冬姫?何故、今の会話でそうゆう捉え方をするのかな?


「そうゆうことじゃない。それで、来た時や帰る時は自分の家のように振舞うようにって母さんに言われたんだって。それが真実だ」

「ほぇ~、だからか。この前の『いってらっしゃい』や今日の『ただいま』ってそうゆうことなんだね」

「それを偶然見られてあんなことになった訳だ」


 夏美の家の事情はある程度は聞いているが俺が勝手に答えていい問題ではないので、伏せるところは伏せた、後は夏美次第だ。


 すると、夏美が春夏を撫でながら先ほどの質問に答えた。


「うちね、両親が共働きで夜も遅いの。それでこの間夕ご飯をごちそうになった時におばさまにそのことを言ったら『ここを家だと思って』って言われちゃったの。後は春夏の様子も見たかったから」


 隠すのは失礼だと思い、夏美はその時のやり取りを俺達に伝える。


「そうだったんだね、ごめんね。変な勘繰りなんかして自分が恥ずかしい」

「ううん、冬姫ちゃんがそう思うのも当然だよ。だって、私はアキ君と冬姫ちゃんに比べたらハル君との時間は圧倒的に少ないから」


「にゃー!」


 3人で話していると春夏が『かまって!』って抗議するような声を出した。


「おっと、春夏どうした?」

「にゃーー」

「分かったよ。よいっしょっと」

「にゃー」

「なんか、ほんとに子供みたいな感じだね。夏美ちゃんにもこんな感じ?」

「どうかな?足元や近くには寄ってくれるけどハル君みたいにあんな風にしてくれるか分からないの」

「夏美、ちょっと春夏を頼む」

「あ、うん。おいで」

「にゃーー」


 俺から夏美に春夏を渡す。すると夏美の前で俺と同じ行動をとっていた。


「あらら、これじゃ2人の子供って言われたら納得しちゃうね」

「いや、さっきまではそんなことないだろうと思ったけど実際に見ると否定できないな」

「浅海会長が言ってたことは事実だったってことになるのかな~。それに偶然とはいえ2人の名前使うとそうなっちゃいそう」


 夏美があたふたしているから助け船を出した。


「まぁ、春夏からしたら俺らは親なんだろうな。夏美が見つけて俺が飼っているから春夏のことだけに関してなら2人の子供って言うのは間違いじゃないかな」


 俺が言うだけ言うと夏美が真っ赤になって俯いてしまった。助け船を出したはずなのになんで?


「ハル?フォローしたつもりなんだろうけどフォローどころか追撃してどうするのよ。寧ろ、撃沈させてるわよ!あんなこと言ったら女子からしたらプロポーズみたいなもんだよ。私だってアキにそんなこと言われたらああなるよさすがに」


 自分が失言してることに気付かず、俺は夏美に向かって。


「マジか。ごめん、夏美」

「ううん、大丈夫。ちょっとびっくりしちゃって。でも、ハル君がそう言ってくれて嬉しかった♪」


 とりあえず最悪の事態だけは避けられたみたいだな。言動には気をつけよう。


 それから俺らは、4人の親睦をさらに深めるためにお互いのことを色々とさらけ出していた。それは、4人がずっと一緒にいるために必要なことだと思ったから。


 少なくとも俺は、アキ、冬姫、夏美の3人とはどんな関係になっても一緒にいたいと心から思えた。


 アキと冬姫はずっと変わらないと思う。けど、俺と夏美はどうなるんだろう?


 お互い、アキと冬姫みたいにパートナーをそれぞれ見つけることになるのだろうか?

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