地雷原がたくさん

 軍隊のような真似事で、アキと冬姫に捕まった俺らは尋問を受けていた。


 最悪なことに教室に入ってすぐに、俺の席があるためその場所が裁判所となった。


「で、ふたりはなんで腕なんか組んで歩いていたのかな~。吐かないと夏美ちゃんがどうなっても知らないよ~」


 何とも意味のない脅迫?をしてくる冬姫に対して、アキは呑気に静観してるし。


「どうもこうも夏美が虫に驚いて急に俺にくっついてきただけだ。なぁ、夏美?」

「う、うん。べ、別に嬉しくて抱きついた訳じゃないから」


 あ、この子は尋問関係はダメな奴だ。動揺が失言をしっかりと呼んでいる。


 こればかりはどう助けたらいいか分からんのだ。


 いつもならアキや冬姫が助けてくれるが今回はこの2人が敵なので味方がいないのが辛い。そんな時。


「2年A組 犬飼春彦君 いらっしゃいましたら生徒会室までお越しください」

「2年A組 紫季夏美さん いらっしゃいましたら生徒会室までお越しください」


 そんな、神のアナウンスが流れる。


 一瞬だけ天の声かと思ったが、それは地獄への招待状だったのだ。今を逃れたくて安易に逃げた結果だった。


 呼ばれてしまったのでとりあえず3階の生徒会室まで向かう。朝っぱらから一体何のようなんだ?多分、春夏のことだと思うが。


 生徒会室の前で一旦、ノックすると『どうぞ』と声が掛かる。この声は………


「「失礼します」」


 中に入るといたのは2人。凛姉と悠姉である。


 2人も当然授業があるため悠姉がささっと要件を告げてきた。


「ハル、子供が出来たってどうゆうことか説明してくれるかな~、内容次第では色々聞くことになるけど」

「悠姉、ちょっと待て。凛姉がどんな話をしたか分からないけど子供じゃなくて拾った子猫に名前を付けただけだ」

「でも、そこにいる紫季夏美さんの一文字もらったって聞いたけど」

「凛姉と夏美が書いてた名前の中で偶然、俺と夏美の一文字があったからその名前なっただけだよ」

「そうゆうことね。事情は分かったわ」

「あのさ、悠姉が凛姉から聞いた話を一応聞かせてくれる?」


 悠姉は凛姉から聞いたことを同じように繰り返し言ってくれた。これはお互いにダメなやつと直感で判断した。


 失敗した、悠姉にも事情を話すべきだったと。


 っていうか夏美さん、子供って聞いて顔真っ赤にするのやめてね。対応に困るやつだからそれ。色々大変なことになるから。


 あ、これも聞いておかないと。


「あと、このことって他に知ってる人いないよね?」

「「・・・・・」」

「おい、誰に言ったのか正直話してもらいますか2人とも」

「言ったっていうか聞かれたっていう方が正しいかな」

「聞かれたってもしかして………」

「私たちのクラスの子達」


 お、終わった。実は、さっきから教室に行く前に、上級生の目線が温かいのがやけに気になったけど、それってあんた達の仕業か!


 この前、言ったじゃん。発言力強いんだから気をつけてって。


「ハル、私が帰った後なんかあったのかしら?2人の様子が昨日と違うように見えるのは私の気の所為かしら?。ま、まさか本当に!」

「こうゆう時だけは本当にポンコツな姉だな。な訳ないだろう、ただ夕飯食って朝来てただけだ」


 ミスった。自分から地雷原に足踏み込んじゃったよ。恐る恐る凛姉を見ると。わなわなと震えていて、我慢していたのが噴出した。


「ふーん、やっぱり私が帰った後に色々あったんじゃないの。ハルのバカー」


 罵声を飛ばした後、凛姉は生徒会室を飛び出したのである。悠姉も唖然。


「ねぇ、悠姉?これってやばくないか?っていうか手遅れのような気もするけど」

「うん、確実に手遅れだね。ハルあとはよろしく」

「ちょっと待て!蒔くだけ蒔いてそのままにするなー!」


 俺は、この日は凛姉の機嫌を戻すのに1日費やしてようやく解決した。


 その分、いらぬ噂が増えることになった。


 ひと悶着を終えて教室に戻るとアキと冬姫は教室にいないようで安心した俺達だった。


 朝から色々あり過ぎて夏美のキャパシティーを越えそうだったので、夏美をとりあえず俺の席に座らせた。


「その、悪かったなポンコツ姉どもせいで」

「ううん、大丈夫。副会長さんもすごい人だね。活発そうで女子にもモテそうな感じだね」

「間違ってはいないが本人の前で言うと大層凹むからやめてな。俺が苦労するから」


 そんな、意気消沈しているとさらにめんどくさいことが起きた。


 この流れはきっと……どの噂のことだろうか?


「おい、犬飼。一体どうゆうことだよ説明しろよ」

「鈴木、登校してくるなり何の用だよ?」

「紫季さんがお前の家から出てくるのを見た奴がいるんだよ。しかもお前の母ちゃんに『いってらっしゃい』まで言われらしいじゃねぇか!」


 あれを見られたのか………大誤算だ。


 あの場面はさすがに事実だけに否定が出来ないんだよな。さて、どうするかな。


「それなら簡単ですよ、冬姫ちゃんから4人で登校したいからハル君を起こしてくれってお願いされたらですよ。それにハル君のお母さんに『いってらっしゃい』って言われたからってどうだって言うんですか?」

「だ、だからって素直に行くやつがいるかよ」

「別に私が起こしに行ったわけじゃなくて私が来たことによってハル君が起きないといけなくなっただけの話です。まぁ、ハル君からすればいい迷惑でしょうけど」

「紫季さん、犬飼に一目惚れしたんじゃないのか」


 鈴木の口調が段々と悪意を増していく。ふぅ、そろそろ限界かな。俺が!!


「おい鈴木、いい加減にしろ。夏美が困ってるだろう」

「うるせーよ、なんでお前は名前で呼んでるんだよ。お前も紫季さんのこと好きなんじゃないのか。だから、こうやって庇っているんだろ?」


 そっちがその気なら乗ってやるよ。


「はぁ?俺が気に食わないからって俺の周りに手を出すな。夏美は俺らのグループの仲間で4人が対等であるために名前呼びにしているんだ。俺のグループでもないお前に言われる筋合いはない。文句があるなら直接受けてやるが、今後夏美にひどいこと言ったりしたりしたら〆るから覚悟しろ!!」


 最後の怒りに任せた声で鈴木を一喝するとぶつぶつ言いながら自分の席に戻った。


 最後の一言にびっくりしたのが夏美の目が点になっていた。


「夏美、ちょっと」

「ハ、ハル君」


 俺は、夏美を教室から一旦連れ出して階段の所で移動して夏美に謝った。


「夏美、怖い思いさせてごめん。最後はああやって言わないと引かないと思って」

「ううん、ハル君のこと全然怖くないから大丈夫。逆に安心できた、ありがとう。でも、元は私が何も考え無しにハル君の家に行ったのが間違えなんだよね」

「あ、あのさ出来たらでいいんだけど学校があるときは迎えに来てくれるか?」

「でも、それだと今日みたいなことが毎日続くし、おじさまやおばさまに迷惑が掛かっちゃう」


 夏美は、うちの家族に迷惑を掛かるのを嫌らしい。


 さーて、どうしましょうかね。手はあるんだけどあまり使いたくない。

 でも背に腹は代えられないしな。


「安心しろ、春夏にいつでも会えるようにしてやる」

「え?でもどうやって。今日みたいなことになったら迷惑が」

「大丈夫だ。信じてくれないか」

「分かった、ハル君を信じるよ」


 俺は、夏美に『ありがとう』って言って教室に戻った。


 4人のグループになってからは夏美も屋上で一緒に食べるようになっていた。

 

 朝の喧騒をアキが振り返っていた。


「まぁ、鈴木のハルに対する敵対心は相変わらずだよな。あんなことしても自分の価値が落ちるだけなのに」

「全くよね、っていうかハル。最後に結構いい啖呵切ったみたいじゃない?ハルの稀にキレる所見たかったなー」

「本気でキレた訳じゃないよ。ひとまず退けたって感じにしたから」

「違うの、私が余計なこと言ったのがいけないの」


 夏美は嘘をついたことに、罪悪感を感じているんだろうけどそれは違う。


 今回の件に関しては完全に鈴木が悪い、他人の情報だけですべてを理解したと、勘違いするから今回のようなことになる。


「ねぇ、夏美ちゃんが言った嘘ってなんなの?そこはあまり聞いてないのよ」

「実は、冬姫ちゃんの名前使っちゃったの。ハル君を起こしに行くのを冬姫ちゃんに頼まれたって嘘ついちゃって。ごめんなさい」

「あ、それ嘘じゃないよ♪」

「「え???」」


 俺と夏美は2人して頭の上にはてなマークが3つほど刺さっていた。


「そもそも、お願いするつもりだったんだ」

「そうなの?」


「私がハルを起こすのは違うしね。かと言ってアキに行かすとBL案件になり兼ねないからどうしようか悩んでいたのよ。でも夏美ちゃんが引き受けてくれるなら4人で学校行けるしね。それに私達もおばさんとはちゃんと面識はあるから『いってらっしゃい』って言われても言い返せるから。だから、お願いできるかな?」


 冬姫のやつ、そんなこと考えていたのか。確かに冬姫の論理は正論だ。

 勉強が微妙なのにこうゆうことは頭が回るのは不思議だ。


「ちょっとハル、いま良くないこと考えてたでしょ」

「ああ、そうゆうことだけは頭回るなって思ってな」

「それは、普通は心の声って言う所でしょ!」

「でも、ありがとうな冬姫。多分、この先あいつ以外にも正直めんどくさいのが出てくると思う。俺だけでは対処できないかもしれない。だから、夏美を守ってくれ。頼む」


 俺は冬姫にそう言うと冬姫は俺の頭にグーパンチをアキは俺の尻にローキックを見舞う。

 2人とも結構本気でやりやがった。


「あのね、そんなこと言われなくてもやるわよ。夏美ちゃんはグループの大事な仲間なんだから」

「そうだな、ハルは俺らを頼ることを覚えないと。こうやってグループでいれて冬姫と一緒にいれるのはハルのおかげなんだから」


 俺は、2人の言葉に涙が出そうになっていた。ここ最近は夏美と多くいることがあって俺が守らないといけないって思い込んでいたんだ。

 俺には頼りになる仲間がいる。


 それを忘れるなんて甘いなんてもんじゃない大甘だ。


「じゃ、3人とも悪いんだけど朝迎えに来て欲しい。お願いできるか?」

「「「出来たら」」」

「おい、話が違うだろ!」

「「「じょーだんでーす」」」

「お前ら、3人とも覚悟しろ。特にアキ、お前だ」


 俺ら4人は、ずっとこうやって馬鹿なことやっていけたらいいなって思い俺は

 屋上で逃げ回るあいつらを追い回しながら思っていた。

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