夏美の孤独


 夏美が俺の家に来る本当の理由を隠す為、もしくはアキと冬姫の望んでいたことが叶い、学校に向かう途中に俺らは昨日のことを振り返っていた。


「いやー、まさかアレが毎月できるなんて思わなかったわ」

「そうね、正直オーケーもらえるなんて思ってなかったのとおばさんに娘って言われるとなんか嬉しくて」

「私も嬉しかったな。本当のお母さんみたいに接してくれるし、おばさま美人だしね。来月の料理何しようかな」

「そうなのよね、おばさんのあの美貌はどこから来るのか知りたいくらい」


 なんか、いつ間にかうちの母の話になってるし。確かに身贔屓してもうちの母は見た目はすごく若く見える。


 本人は『なにもしてないわよ』って言う。


 事実、本当にしてないと思う。ただ、自分の生きたいように生きてるせいなのか若々しく見えるのだろう。すると、アキからも感慨な声が飛んでくる。


「でもよ、おじさんも若く見えるよな。きっと夫婦仲がいいからハルみたいないい人間が出来るんだろうな。ハルの家族が羨ましいわ」

「誰がいい人間だよ。別に俺はそんないい人間なんて思ってないし、ましてやあの美形夫婦の間に俺ってどうなんよ、全く」

「全くって。あのな、ハルは自分を出していないだけで出してしまえば絶対にモテるよ」

「どう出せって言うんだよ?それにモテたい訳でもない。今は良いなって思える人がいないだけだ」

「まぁ、俺だって冬姫がいればモテる必要な一切ないって言えるよ。言いたいのは視線を浴びるのも時としては必要だってことさ」


 そうゆうもんなのか?時として必要ってその機会がいつ来るのやら……


 そして、ある毎に俺は来月の食事会の為に何回か夏美の家にお邪魔していた。夏美先生に料理を教えてもらう為に。あれ、女の子の部屋って冬姫以来じゃないか?


 まぁ、冬姫の家も多分1回くらいなので内装なんて全く覚えていない。


 その為か、入って周りを見渡してしまった。簡単いえば広い。一瞬、お嬢様なのかなって思ってしまうくらいの広さだったが、俺の感じた違和感は……


 そして、この広さが意味するもの。それは……


「夏美、もしかしていつもこんな広い家に1人なのか?」

「う、うん。前も言ったけど2人とも共働きだからね。仕方ないよ」


 仕方ない?そんな簡単な言葉で片付けてしまっていいのかと俺は思ってしまう。


 きっと、俺ならアキや冬姫を呼んだりするのにって思う。だが、俺は気づいてしまう。


 そうだ、夏美は転校生で友達は出来ているのは分かっているが、うちに呼ぶまでには至っていないと。


 原因の一因としては『春夏秋冬』での行動が多いからだ。


 ただ、それは夏美自身がここを選んだ結果なら俺は特に言うつもりはないけど。そのせいか一瞬だけ夏美に対して失礼なこと言ってしまった。


「夏美は、寂しくないのか?こんな大きな家にたった1人でなんて」

「正直ね、寂しくないかって言われたら寂しいけど。でも、私は頑張ってる2人にわがままを言いたくないの。小さい子供みたいで…」


 わがまま?小さい子供?それは違う。


 子供というなら多少のわがままを言ってもいいはずだ。なのに、言わないのは嫌われるのが怖いのではと思う。


 胸の奥がチクりと痛んだ。


 夏美は俺の家族を見てどう思ったんだろうか?ディスられることはあるものの家族仲が険悪なのではない、ただのコミュニケーションの一環のようなものであり、俺自身もそれは理解している。


 だからかもしれない。以前に母の言うことをすんなり聞いたり、学校に向かう途中に『本当のお母さんみたい』って言ったのは。だとすれば父のことも『本当のお父さん』とも思ってるのかもな。だったらそう思えばいい。


 夏美に俺の本音を伝えることにした。嫌われるのを覚悟で。


「夏美が俺の父さんや母さんを本当に両親だと思いたいなら思っても構わない。俺は別に取られたとも思っていなし、2人とも娘って言ってくれるなら受け入れてもいいと思う」

「で、でもそれはおばさま達のお世辞みたいなものでしょ?それにハル君のご両親を奪ってるみたいで。娘って言われて嬉しいけど、ハル君に申し訳ないって」


 俺は、夏美の前に行き夏美の頭に自分の手をおいた。『ふぇ』って顔してるけど今は自分の言葉を言う方が最優先事項だから。今だけは無視しておく。


 本来なら、破壊力が半端ないし。いや、今も十分すごいけどね。


「わがままを言える間は言えばいい。言った相手がダメって言えば引けばいいんだ。なのに、言われる前から引くなんてダメだ。だからな?わがままを言える相手には言えるようになるんだ。夏美のそばにはいるだろう?わがままを言える人達が」

「で、でも」

「俺は勿論、アキや冬姫。うちの両親だっているんだ。春夏もな。俺らは少しくらいわがままを言ったくらいで夏美を嫌ったりしないよ。わがままじゃなくてもいいから頼って欲しいんだ俺らは」


 俺の言葉を聞いて、夏美は涙をこぼして俺の胸元に飛び込んでくる。今だけ俺は彼女を優しく抱き止める。すると隠していた本音が出てくる。


「ずっと、寂しかった。この広い家で私1人でどうしたらいいのか分からなくて。それであの時に外をぶらぶらしてて春夏に出会ったの。この子がうちにいたら寂しくなんてないって。飼いたいって言っても『面倒見れるの?』って言わるのが怖くて、それで偶然通りかかったハル君に春夏をお願いしたの」


「そうだったのか。ん、ちょっと待って。ということはこの家で飼うことは出来るのか。全くダメなわけではないと?」

「うん。飼おう思えば飼えるはず。でね、初対面で春夏を預けるのは普通なら不安なはずなのにハル君なら何故か大丈夫な気がしたの。変だよね、あの時初めて会ったのにそう思うなんて」

「俺としてはそう思ってくれたのは素直に嬉しいけどな」


 本音が出てしまえば、後は勢いに乗って言いたいこと言えるはずと思っていたが、俺の思惑通りに行くとは少し予想外だった。


 夏美の抱えている事情は、正直言えば想定内だったけどな。


「それで、翌日学校にいたらハル君が同じクラスでびっくりしてあんなこと言っちゃったの。迷惑かけてごめんね。あの後、大変だったって聞いて」

「あの事なら全然気にもしていないから大丈夫だ。あれくらいで鈴木が文句言う方がアホなだけだ」


 確かに、向こうからすればいい気分ではないだろうけど、それは鈴木個人の妬みであって俺らが避難くらう理由にはならない。


「それで、ハル君たちが私をグループに迎えてくれたでしょ?正直ね『夏』が足りないから入ってくれって言われても入ったと思う。でも、3人とも私を本心で迎え入れてくれて本当に嬉しかったんだ。それからまた春夏に会えて。涙が出そうだった」

「それは春夏も嬉しかっただろうな。自分の保護してくれようとした人が現れたのだから」

「おばさまやおじさまに春夏。アキ君や冬姫ちゃんがいてくれて私はいつの間にか寂しさはほとんど消えていた。ハル君は当然だから言わなかっただけだよ♪」

「そ、そうか。一瞬だけショックって思ってしまったよ」

「ふふ、ごめんね♪でも、やっぱりこの家に帰ると寂しくて」


 夏美が暗い表情をする。こんな話して迷惑とでも思っているんだろうけどな。


 ここまで話してくれてのだ。その見返りしてあげなくては割に合わないだろうから俺は夏美にこんな提案を持ちかける。絶対に断れない提案を。


「なぁ、一つ聞いてもいいか?そんな難しいことじゃないから安心してくれ」

「いいけど?」

「この家に誰かをあげたりするのは問題ないのか?」

「問題ないって言うか現にハル君を家に上がってるのに?一体どうしたの?」

「ここを『春夏秋冬』の拠点にしたいと思ってな。他人の家なのに」

「え?ここを?ど、どうして?」


 ?マーク3連発はまぁ言われた方からすれば当然か。でも、俺の提案はそれだけではない。


「ここを拠点にすれば寂しくもなくるし、食事会の会議も出来る。学校ですると色々と勘づかれるかもしれないからな。それに俺が料理の練習するついでに春夏をここに連れてくることもできるだろう?と言ってもまずは夏美の了承がないと成り立たない問題なんだがな」


 ここを拠点することによって、俺達の活動範囲だって広がるのと冬姫がここに来ればアキがここに来るのは必然となり、俺はアキに連れてこられたという名義名分が立つ。


「わ、私はとっても嬉しい提案だけど2人の了解を取らないと申し訳ないよ」

「了解か?分かった、今確認しよう。ってことなんだが俺の提案はどうだ?アキ、冬姫」

「へ??」

「私は、夏美ちゃんがいいならすごく助かる」

「俺は、夏美ちゃんがいいなら冬姫と一緒に行くよ」


 ※


 <夏美side>


 何故か、ここにいる訳のない2人の声が鮮明に聞こえる。なんで?どうして?

 

 ふと、ハル君の手を見るとスマホを持っていた。もしかしてこれって……視線を再度上げてハル君を見ると『してやったり』顔をしていたのだ。


「ちょっと前くらい前からアキのLAMを通話状態にしてもらっていたんだ」

「ちょっと前って?」

「そうだな、「おばさまやおじさま」の所くらいかな。俺は『春夏秋冬』なんだからみんなでこうゆうのは共有するべきと思ってな。急に思いついたから」

「え?急なの?だって、2人とも普通にしてたよね今!」


 私は、この件に関してはただ驚くしかなかった。


「アキのことだから俺が何をするか察したんだろう?そうゆう奴だからな」

「まぁね、中学が一緒だからなんとなくやりたいことが分かってたから」

「急でもなんでここまで出来るか分かるか?」


 ※


 夏美は、『ううん』と首を横に振る。


「それだけ俺らは夏美を大事って思っているからなんだ。どうでもいい相手にはこんな気持ちは出ない。アキだってそれを分かっているからこそ俺の急なことでもちゃんと理解をしてくれる。冬姫も同じだ」

「ハル君、アキ君、冬姫ちゃん。こんな私を大事だって思ってくれてありがとう。ここでよければ『春夏秋冬』の拠点にしたい。いいかな?」


「「「了解」」」


 3人でそう言うとまた涙を流す。俺は夏美の頭に再度手を乗せて『よしよし』と撫でてあげた。夏美は只々受け入れていた。

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