第14話 とある不老不死の考察
兄様の留学が決まる少し前、私は1冊の本を見つけた。
「とある不老不死の考察」
そう題されたそれは薄汚れ古びた表紙の本で、以前父様と兄様が買い集めてくださった本の山の中に埋もれるようにして棚に収まっていた。
著者名はない、ふと興味を覚え、私は本を開いた。
不老不死のろくでなしからこの本と出会う全ての人に釘を刺しておく。
未知は素晴らしいものなどではない。未知はそれを知らなくても幸福にいられるからこその未知なのである。
しかし、
未知に関わらねば気が済まない人間も存在する。
多くを知るものとして、そのような人々が命を落とすような悲劇に逢うことのないよう、願い記すものである。
この本では呪術について語る
結論から言おう
呪術とは 想い である。
その昔、とある王国の姫が想い人と結ばれない悲しみと結ばれた女への憎しみを込めてとある花を送った。その花は込められた想いから黒く染まり、災厄を振り撒いた。それは国全体に広がり、滅亡にまで追い込んだという。
しかし、悪い事ばかりではない
とある帝国の姫は彼女の国を想いによって発展させた。
その国は災害ばかり。干ばつで作物は枯れる。火山活動によって街は灰を被り村は熱流に呑まれる。それだけに飽き足らず様々な不運に民たちは弱り果てていた。
彼女は彼女の国を愛していたが、いかに彼女が優秀であろうと自然を止めることは出来ない。
万策尽き途方に暮れていた彼女の元にある少女の一念がとある国を滅ぼしたという話がが入ってきた。
そして彼女は思った。
その逆を起こせば国を救えるのではないか。想いによって状況を打開できるのではないか。
そして彼女は動き始めた。
国の未来を思う気持ちを込めた花を咲かせる。
しかし、それは弱すぎ世界を変えるような力は発揮しない。
彼女が次にとった策は想いを束ねる、というものだった。
村々に種を配り、一人一人に願いを込めてもらう。その種を国境に等間隔に植え付け、花を咲かせる。
1年、気候や風土の関係もあり時間がかかった。
国の総力を上げて守ったその花は、白く、美しい光を放ち、人や土を癒し、災害を遠ざけた。
年を重ね、様々な想いを重ね、呪術は様々な形に発展して行った。
呪術の種類をいくつか紹介する。対処法が見つかっていないものもあるが、あるものについては別冊で知らせるとしよう。
次元鏡
年を込めた物体の周囲5mから20mを呪術的に接続した透明な物体から覗くことが出来るガラスから水晶、果ては水面ても可能だが透明度が高いほど精度が高まる。とある男が懸想する女性に少しでも近づくために開発したものらしい。
なお、その男は彼に好意を抱く女性に捕まり、想いを諦めさせられたという。
忘却霊衣
身分違いの恋をした町娘が自分の強すぎる想いを忘れるため、編み上げた婚約衣装。1日着続けるだけで忘れたい記憶を完全に消去することができる。
呪悪陣
国を滅ぼした王女の話を再現すべくある研究者が強い想いを持って失恋した女性を使い、局所的に呪いを再現したもの。
強力な想いを込められ変色した花を対象の周り、等間隔に置き、中心で破滅を願うことで発動する。
拘束人形
対象の存在が染み込んだ物品を組み込んだ人形を2つ作り、ひとつを磔に、もうひとつを火にかける。火にかけた人形が燃え尽きるまで使用者の望む対象の行動を全て封じる。
人形が燃え尽きても磔になった人形が存在する限り、新たな人形を作れば何度でも使用出来る。
投影鉱
呪術的に接続された鏡と鉱石を用意する。鏡に移る対象の姿を鉱石から立体映像として投影する。
とある夫婦で愛の重い妻がいついかなる時も自分を見てもらいたいと鉱石を夫の手に埋め込み、自分の姿を映させた。無理やり鉱石を埋め込まれた男の手は拒絶反応により壊死したが男が死ぬまでその手は妻の姿を移し続けたという。
......
呪術についての知識が増えたのは良かったが使う機会がないだろう、無駄だったなとこの時の油断していた私は思っていた。
使う機会がすぐに訪れることになろうとは彼女は予想だにしていなかった。
そして時は移る
玉座に座る彼女の傍らには常に古ぼけた表紙の本が存在している。
誰もそれを気に留める者はいない。
彼女に心酔する彼らにはそんなことどうだっていいのだ。
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