第12話 金の平穏 上

テルミスの旅立ちの日がやってきた


皇国に半年滞在し、色々なことを学ぶということになっている。

皇国の外交や内政だけでなく、貴族学校にも通って教育の状況を学び、皇国貴族との友好関係を築く。


皇国には平民学校と貴族学校の二種類学校が存在し、皇族は貴族学校に通うことになっている。対して王国には貴族はいないため学校は平民が通うものとなっており、テルミスはお抱えの講師によって教育を受けた。

そのため、集団学習というものは経験がなく、柄にもなく高揚しながら皇国からの迎えを待っていた。


「兄様、本当に行ってしまうのですね...」


「ああ、色々と学んでくるよ」


「私は心配です。兄様が変なおんな...いえ、ご無事に過ごすことが出来るのか...」


「大丈夫だよ、留学とはいえ友好国の王族だ。そうそう危険なことをするようなものはいないさ。おや、」


そう話していると、段々と馬車の音が近づいてくる。メスト皇族の家紋が入っている。迎えの馬車だ。

使者が1人同乗することになっているらしいがいったいどのような人なのだろう



そして馬車の扉が開く


そこには


「テルミス様!お会いできる日を心待ちにしておりました」


ソフィア殿が満面の笑みで腰掛けていた。





♢♢♢




「テルミス様!お会いできる日を心待ちにしておりました」


お兄様を迎えに王宮の裏近くまで来た馬車から出てきたのは私の怨敵、憎き売女だった。


顔を見ただけで殺意が溢れそうになる


あいつが...あいつさえいなければ...


そんな視線をおくっていたからかあの女がこっちを見る



そしてあいつは私だけに見える角度で


にんまり、と


表情を崩した




一瞬で頭が沸騰する

あの女は私の兄への気持ちを知りながらこちらに笑みを向けている

あの女は私から兄様を奪い取った優越感に浸りながらこちらを見ている


あの女は...




感情がぐちゃぐちゃになり頭痛、腹痛、吐き気、倦怠感、ストレスによって様々症状が現れる



でも...私の計画が成功すればあの女から兄様を引き剥がし、なおかつ縁を切ることも出来る


せいぜい今は最期の至福の時間を味わうがいい


全身が痛むのをおくびにもださず、彼女は心の中で黒い笑みを浮かべた。





さて、そのような経緯を得てテルミスは皇国に向かう。

道中、意中の人と共に過ごす旅の喜びを全身で表すソフィアとそんな彼女の一挙一動に振り回されるテルミスとの間で幾度となく攻防が繰り広げられる。


そして皇国に到着した頃、既に彼は疲労困憊であった。


もう日も遅く、皇宮で顔合わせと晩餐を済ませた後、貸し与えられた一室でおちそうなまぶたを押さえつけて皇国の重要人物の顔と名前や明日からの予定を確認していた。


そして彼がやっと床に就こうとした時、ノックの音が部屋に響いた。





やっと寝れるというのにこんな時間になんの用なんだ...。

しかし、泊めてもらっている身としては雑に対応する訳にもいかないか




彼は身なりを確認し、来客に応じる。


側仕えの人かと思っていたが、そこに居たのはソフィアだった。


「テルミス様、お疲れだと思いましてお飲み物をお持ちしたのですが、お時間は大丈夫ですか?」


「え、ええ。ちょうど一段落着いたところです」


「よかった、では失礼します」


そう言い彼女は彼の部屋に入ろうとする


「え、ちょっとお待ちください」


「?どうしました?」


「いくら婚約者といえどこんな時間に部屋に2人というのはあまりよくありませんよ」


「私は気にしませんよ」


「い、いえしかし外聞というものがありますし、それに王宮内といえどこの時間を出歩くのは...」


「あ、それなら問題ありません」


そう言って彼女は胸を張る


「私の部屋は隣ですから」


絶句した


「改めまして、ようこそ皇国へ。そして、これからよろしくお願い致します、婚約者様!」



花のような笑顔を浮かべ彼女は笑う


行動力の塊のような婚約者に苦笑いを浮かべるテルミス


彼にとって最後の平穏となる皇国留学はかくして始まった。

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