第11話 銀の動、黒の意
私が硝子を覗いた時見えたのは、頬を紅潮させ兄様に接近する売女と勢いに押されたじたじになっている兄様だった。
アイシャウトの言う硝子というものは、以前彼女がテルミスに贈った人形を中心に、その周囲5mから20mを見渡すことの出来るものである。
呪術的に硝子球と人形を繋げることによって壁や塀などの障害物を透過し、該当する景色を硝子球に映し出す。
本解説は物語に登場しない第三者からの考察であり、以後の話で様々な呪術的事物についての考察をまとめたものを提示することをここに明記しておく。
1日2日で馴れ馴れしい
兄様に近づいていいのは私だけだ
許せない
許さない
ありえない
ありえてはならない
ソレはワタシだけのモノだ
敵意を募らせる彼女を更に燃え上がらせる出来事がこの後待っていることなど彼女は知るよしもなかった。
斯くして婚約は成った
ライズ王国第1王子
テルミス=フォン=ライズ
メスト皇国第1皇女
ソフィア=デ=メスト
両者共に
その婚姻は両国の、全てとはいかないが、大半が良縁だと考え、祝福した。
ライズ王も当初は悩んでいたようだが、メスト皇帝の強い後押しにより最後は承諾したのだ。
美男美女の組み合わせ、当人達の仲も良好のようだ。
この婚約を機にテルミスは見聞を広めるため、皇国に留学することが決まった。
しばらくの間は皇国の皇宮で過ごすようだ。
さて納得がいかないのは彼女
いつの間にか愛しの兄があの売女と婚約を結んでおり、更には留学として自分から離れて行ってしまう。
あの事件以来、兄が世界の全てであった彼女にとってそれは悪夢でしか無かった。いや、夢であればまだ良かったかもしれない。
彼女が狂ってしまったのは必然だと言える。
ありえない
なんで
ゆるせない
そんな思考が彼女の頭の中をぐるぐると、ぐるぐると巡り巡っていた。
数日前に実の兄から告げられた
皇国の皇女様と婚約することになった
王国と皇国の未来のためにも悪くないと僕も思う
彼女からの提案で皇国に留学に行くことになった
王国以外の世界を見るためにいい機会だと思う
と、
なぜ?
私から離れて行ってしまうの?
しかし彼女は兄に嫌われるような妹であってはならない
笑顔で祝福する
兄様、ご婚約おめでとうございます
義姉様になる方にまたお会いしたいです
兄様と離れてしまうのは寂しいですが、私は兄様をここから応援させていただきます
血反吐を吐きそうになりながら不審がられないようにセリフを言い切ることができた自分を心中絶賛する。
兄と別れた後、彼女は彼女だけの部屋で発狂した。
抑え込んだ全てを叫んだ。彼女の家族は近くにいなかったことが幸いし、誰にも聞かれることはなかったが、もし聞かれていたならば彼女が積み上げてきたこれまでの全てが崩れ去ってしまうような壮絶なものだった。
苦しみを吐き出すための発狂の中で、彼女の中の感情は変質していった。
彼女は家族という繋がりによって、彼女が彼女であるだけで彼に触れ合うことができた、心配してもらうことができた、愛してもらうことができた。
幸福な時間、愛される
ずっとこの時間が続くと思っていた。
歴史、人、心理、国、地理。彼女は自分の持つ全てから探す。
病的なまでにカレを想うその意思に反応したのは、
やはり、呪術だった。
カレを見ていたい一心で呪術を使って作り出した硝子のように、彼女の願いを叶えるのは呪術しかないのかもしれない。
彼女が見つけた方法、
宝物を取り戻すための彼女の考は
王国全てを巻き込んだ大規模な
1人の少女によって繁栄の王国に暗い影が
動乱の時は近い
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