第9話 金銀と黒銀
次の日、僕は庭園で心底嬉しそうに話すソフィア殿と相対しながら裏で話しているソルス殿と妹のことに思いを馳せていた。
♢♢♢
晩餐後 皇帝一家
「ライズ王とは有意義な会談が出来た。子達よ、王国の王太子の様子はどうであったか、友好な関係を築く価値のある人であったか?」
「はい、お父様。聡明で魅力的な方でした。人当たりも良く、私と弟を気遣いながら案内して頂けたので、とても良いひとときを過ごすことが叶いました」
「うむ、そうか。ならば次代の皇国と王国の関係も安泰であろうな。皇国ができてからずっと懇意にしてきた王国のとの関係を余も引き継ぐことができそうだ」
皇帝が安心したように表情を緩める。報告が終わり、解散となる直前、
「お父様、今代の王太子は優秀な王が続くライズ王家の歴史の中でも随一だと思われます」
ソフィアが爆弾を放り込んだ。
「ほう?」
皇帝は自分の娘から初めてそのような言葉が出たことに驚き、続きを促す。
「王国との関係を更に深めることで、次代のみならずさらに先、帝国の未来の発展をさらに進ませることができるでしょう」
「お前がそこまで言うのは珍しい。なるほど、それほどの逸材出会ったということか。して、どのようにするのだ?」
「はい、私と王太子との婚姻などいかがでしょう」
「ほほう」
「王太子の近くにおり、その政策に深いところから関わることが出来れば、帝国への便宜を図ることも可能でしょう。それに彼には婚約者はいない様子、今なら正妃の座も可能かと。現王は側妃をお持ちではありません。そのため彼も側妃を苦手とし、取らない可能性も。そうすれば皇国と王国の仲は安泰でしょう」
「なるほど、悪くない。好都合なことにお前にも婚約者もおらんしな。まぁ見合う相手がいないだけではあったが」
「では」
「まあ待て、いきなりでは向こうも困惑する上、準備もできていないであろう。まずは明日に二人の時間を作り、友好を築くのがよかろう。明日、ライズ王に持ちかけておく故、お前は準備をしておくと良い」
「はい、お父様」
「ソルスは...すまないが私達と会議に付き合ってもらおう」
「父上、私はできることならばテルミス殿の妹君との歓談の席を設けたく」
「む?妹君が居られたのか?晩餐の席でも、最初の顔合わせの時でも姿は見かけなかったが?」
「はい、テルミス殿と城を巡る途中にお会いしました。綺麗な方で、仲良くなっておいて損はないかと」
「ふむ...。ではそれも含めて明日、王に要請しよう。上手くいくかどうかわからんが一応準備はしておくように」
「はい、父上」
そして概ねソフィアの思い通りに進んだ打ち合わせはお開きになった。
そして次の日
「今日はよろしくお願い致しますわ、テルミス様」
「あぁ、ソフィア殿。今日はよろしく」
「ソフィア、とお呼び下されば幸いでございます。テルミス様とお話できること、嬉しくてたまりませんわ」
「ああ、ははは」
今日の朝頃、皇国一家の急な要請で会談の間、僕はソフィア殿と、妹は裏側でソルス殿とそれぞれ時間を過ごすことになってしまった。初めて裏に家族以外の人を入れることになってしまった。言わなかっただけとはいえ、妹のことを隠していたのは事実。そこを皇帝に言われ、父も拒否できなかったのは仕方ないが、心配である。
「昨日ぶりですね、アイシャウトさん」
「...えぇ、そうですね。ソルス様」
テルミスがアイシャウトのことを案じていた時、アイシャウトもテルミスのことを考えていた。
なんで私がこんな男と時間を過ごさねばならないのか
いつもこの時間は部屋の中からずーーっと兄様を見ているのに、こいつのせいで私の至福が台無し。
しかも昨日あっただけで馴れ馴れしい。
しかし、兄様や父様に恥をかかせる訳にはいかない。
「アイシャウトさんは普段どのようなことをされているのですか?」
「えっと読書、などですね。あまり外に出るのが特異ではありませんので」
「なるほど、難しい本が沢山ありますね。尊敬します。お庭も綺麗ですから一緒に見に行きませんか?」
「い、いえ。やはり私には厳しいので遠慮させていただきます」
「そうですか...残念です」
「あ、あのもうすぐ用事の時間ですのでここで失礼してもよろしいですか?」
「そうですか...明日も来ても構いませんか...?」
冗談じゃない!!!!
「明日は時間を取るのが難しいかと...」
「では、お時間空いたらまたお会いしたく思います。楽しい時間でした。ありがとうございます」
「え、えぇ...こちらこそ」
ソルスがいなくなるとアイシャウトは笑顔の仮面をかなぐり捨て、嫌悪感を顕にする。
あぁ気持ち悪い
私の、私たちの聖域に入り込んできて、私のお兄様との時間も奪っていけしゃあしゃあと明日も?冗談じゃない!
お父様に今後は会わない旨を伝えることを心に刻み、彼女は兄の観察に戻る。
しかし彼女の目に写ったのは、自分の荒んだ心を癒してくれる兄の姿ではなく、さらに自分を追い込んでくる、そんな兄の状況だった。
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