第5話 来る花

アイシャの事件から約2年。僕は19にアイシャは15になった。

あの事件が起こった日花王都の人々の間で「悪魔が舞い降りる日」として広まり昼はお祭りを楽しみながら夕方になると各家の代表が各々武器を持って街を歩くという習慣ができてしまった。


僕らはそれを禁止することはできない。アイシャを悪魔と信じている民衆にとって、それをやめさせられるということは不幸になれ、と言われるのと同義であるからだ。彼女のためにできることが少ない自分の身が情けないとつくづく思う。



2年の間でかなりのことが変わった。

1番大きなことは城の改築だろう。

今までアイシャが部屋から出られなかったことが事件のそもそもの原因になっている。そのため父は城を改築し、兵士やメイドが入って来れない、アイシャの居れる場所を広げた。


また、彼女自身の変化も大きかった。

自分がその髪や目によって人々にどのように思われているのか、その事実を受け止めるまでに少し時間はかかったが、何とか立ち直り、最近は笑顔も増えてきている。

更に、自己の鍛錬として短剣術を母達から教わり、呪術にも関心があるようで隙間時間に本を読んだり、実践をしたりしている。

このあいだ彼女が自分で作ったものであろう人形を僕にくれた。裁縫も頑張っているのだろうか。


ただあの事件の後からアイシャは僕がいるときは常にそばにいる。まだあの時を思い出してしまい、不安がっているのかもしれない。

最近どこへ行っても妙な視線を感じるしあまり近くにはいない方がいいと思うんだけど...。


「兄様、今日はお客様がいらっしゃるのですよね?」


考え事をしながら朝食をとっていると、アイシャが向かいの席から話しかけて来た。

僕と父、母達は交代制で1日6食である。アイシャと食事をとるが、王族としての生活もしなければならない。育ち盛りの僕はともかく、父はなかなか辛そうだ。


「そうだね、お隣のメスト皇国から皇族一家がいらっしゃるよ」


メスト皇国。ライズ王国の東に位置する皇国で、貴族制で成り立っている国だ。ライズ王国には貴族はおらず、王国領土全てが王家の直轄である。

今代の皇族は子宝に恵まれず、第1皇女、第1皇子しかいないのだという。


「どんな人達なんでしょう。私、会ってみたいわ」


「来賓用の部屋は全て表側にあるからね、少し厳しいかもしれない」


ちなみに今の王城は表側と裏側に別れている。外見はあまり変えず、王城の中に小さい王城を作った感じだ。王族専用の脱出口がいくつか潰れてしまったのはここだけの話。




昼頃到着した皇国一行を戴冠の間で迎える。父と母達は皇帝と皇妃達との外交や会談をするとして僕は第1皇女、第1皇子との交流を命じられた。



「私はテルミス=フォン=ライズです。才に溢れ、次期の皇国を担っていく御二方とお会いできて光栄です」


「私はソルス=デ=メスト。そしてこちらが姉の」


「ソフィア=デ=メストでございます。優しく、聡明な貴君のお噂は皇国にも広まっております。お会いするのを楽しみにしておりました。私達のことはどうかソフィアとソルス、とお呼び下されば」


「ではこちらもテルミス、とお呼びください」


ソフィアもソルスも銀の髪に青い瞳の整った顔立ちをしていた。ソフィアは第1王妃によく似て優しく、朗らかな印象を与え、ソルスは皇帝陛下に似て聡明さを雰囲気に滲ませている。


「それではソフィア殿、ソルス殿、よろしければ城をご案内します。歩きながら色々と話しませんか?」


「最近改築されたとお聞きしました。ぜひ見たいです!」


「姉さん、言葉遣い。私も興味があります。お願いしてもよろしいでしょうか?」


「私は気にしませんよ。それでは行きましょう」




皇族の2人と共に城を案内して回る。

同年代の友人がいないせいか、歳が近い2人との話は楽しかった。



「テルミス様、植物園ではどのようなもの栽培なされているのですか?」


「テルミス様、どのようなお食事を好まれますか?」


「テルミス様、ご趣味は?」


「テルミス様」


「テルミス様」


ソフィア殿の圧がすごい...


ソルス殿が空気になっている...


「そろそろ良い時間ですね。食事にいたしませんか?」


「こちらとしても否はありません。食事の間で取られるのですか?」


「いえ、戴冠の間にテーブルを用意しておりますので、そこで」


「なるほど、どのような料理か楽しみです」


そんなことを話しながら戴冠の間に戻る途中、僕には見えるはずのないものが見えてしまった。


ないない。黒っぽい髪でこっちを除く黒い瞳なんて見えるわけが無い。


そんな心配を払拭するために僕は2人に断って、それが見えた方に進むのであった。


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