小動物側

 夜。もう空には月が出ていました。


 友達と遊んでいて、夜も遅くなってしまいました。もともと今日はたくさん遊ぼうと思っていたので、夜遅くなるとは言っていたのですが、ちょっとはめをはずしすぎたようです。


 慣れた道を走って、人通りの少ない道を歩いていきます。


 ところどころに照明があるので全く周りが見えないほど暗いわけではありませんが、視界が悪いとちょっと怖いです。


 この辺りにはちょっとした伝説があります。


 ふらふら夜を歩いていたら、コンコン艶やかな鳴き声響く。昔の昔、ここらは妖の住まう地で、今は向こうとなった世界から来る、綺麗な女性のお話です。

 コンコン。その人は。綺麗な女の人だけど、

 その背中には何本も、ふわふわのしっぽがあるみたい。

 狐のしっぽを持っている、とっても綺麗な娘さん。こわーい妖怪の仲間です。

 一度出会ったらもうおしまい。

 だって魂を染められて、人が恋しい妖に、お家に連れていかれちゃう。


 ただの都市伝説だと思うのですが。


 実際この辺りでは不可解な行方不明事件がたまに起きています。


 この町の中でまるで神隠しにでもあったかのような、そんな何かが起こっています。


 そんなことが起こればこの伝説もあながち嘘だとは思えません。もっとも、その事件はもう20年ほど起こっていないみたいなので、もう起こらない可能性もありますが。


 でも、この町では夜の行動はかなり気を付けています。私はちょっと怖いし。


 もうすぐ家に着きます。


 まさかとは思うけど。


 念のため早く帰ろうと走ります。


 向かい側に人が見えました。強面の野蛮そうな人だったら怖いですがそんなことはありません。


 とても優しそうな、私よりも何歳か年上のお姉さんが2人。


 ――あれ。


「あ!」


 向こうの人は私を見てなんだかうれしそうにしています。


 その背中には獣のしっぽが、あります。


 まさか。


 怖い。私は怖くなった動けなくなりました。


「かわいいー!」


 逃げなきゃ。


 いや、まさか。まだ心のどこかで信じていません。


 狐の妖怪さんなんて本当にいるはずがない。

  

「私、この子欲しい!」


「まーたそんなことを言って! 駄目よ。お世話は大変なんだから」

 

 欲しい? 私を指さして?


 何を言っているの?


 私にはわかりませんでした。


 今私の頭の中には、この町の言い伝えが何度も再生されています。


 逃げなきゃいけない。


 だけど、家は向こうの不思議な娘様のいる向こう側。ここから反対に逃げてもお家に帰れません。


 でも向こうは何だか言い争いをしています。逃げるなら今しかありません。でもお家に帰れなくなっちゃうし、どうしよう。


 そんな考えをしている私は愚かでした。


「自分で責任持てるのならいいわよ」


「もちろん。持つ持つ!」


「はあ、好きにしなさい」


 お姉さんのうち1人がとても喜んで私を見ます。


 私に目を向けて……あれ?


 なんか、頭が、ぼーっとして。


 目の前のお姉さんがとても。


 とても、えへへへ、甘えたくなってきちゃう。


 うう……近づいてくる。逃げ、逃げる?


 なんで?


 お姉さんが私の頭をなでなでしてくれます。


 そうされるだけで、なんだかとっても幸せ。えへへへ。


 思わず顔が緩んでしまいます。だんだん、だんだん、もう何年も一緒にいるみたいにその人のことが好きだって錯覚してきちゃって。


 だんだん、目を開けるのがつらくなってきました。


「ねえ、私におうちに一緒に行きましょう?」


 おうち?


 え、だめ、私の家は、向こうの……。


 うう……動けない。


「今日から私とお友達よ」


 おねえさんの後ろ、から、ふわふわしたしっぽが私に毛布を掛けるみたいにくるりと包んでくれた。


 うう……なんだか眠くなってきた。


 寝ていいかな。


 寝ていいよね。だってこんなに……えへ……。


「今日からお友達よ?」


 ――はーい……。


 ――。

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