夜、彼女はその子を連れていく。

とざきとおる

少女側

「かわいいー!」


 くりくりおめめにかわいらしいお顔。私よりも一回り以上小さくかわいらしい小動物。


 散歩をしているときに、その途中で偶然出会ったその子。


 私を見て、なぜかとても怖がっている。


 でもそれは向こうが勘違いしているだけ。だって私、この子を食べるわけじゃないし、命を取ったりはしない。敵じゃないのだから。


「いいなー」


 隣で母上がこわーい顔でこっちを見てきている。でも諦める気はさらさら起きなかった。


「私、この子欲しい!」


「まーたそんなことを言って! 駄目よ。お世話は大変なんだから」


 母上は当然猛反対。まあ、それも仕方がない。


 昔かわいいと言って捕まえた野生の別の子を私は、世話の仕方を間違えて衰弱させてしまったことがある。結局うちではどうにもできなくなって、病院に預けたらその子は逃げ出してしまったのだ。


 あれ以来、ペットを飼うのは禁止になってしまったのだが、それももうずっと前の子供の頃の話だ。


「えー! いいじゃん」


 私だって大人になった。昔はしくじってしまったものの、今度こそうまくやって一生お世話を続けたい。


「みんなももう持ってるんだよ! それで私に自慢してくるの。とっても可愛いし、一緒に遊んだり可愛がったりするだけで毎日楽しいよって。私だけ居ないのは不平等よ。私だってあれから大人になったわ、今度こそうまくやって見せるから」


 母上に駄々をこねる子供のようにお願いしている時点で、大人とは言い難い態度かもしれないけれど、今回ばかりは絶対に手に入れると今誓ったのだ。


 一目見た瞬間に運命を感じた。


 私はきっとこの子を手に入れないと一生を後悔しそうだって。


 そしてそう思ったのなら行動あるのみ。


「母上ぇ!」


「……私はお世話しないからね。うちにはもういるんだから」


「でもそれは母上のじゃん。私のが欲しい!」


「自分で責任持てるのならいいわよ」


「もちろん。持つ持つ!」


「はあ、好きにしなさい」


 やったー!


 私はその子に近づいてしっかりと目を合わせる。コミュニケーションは相手の目線に合わせて行うのが基本だと、昔教えられたことがある。


 あ、こっち見てくれたー! かわいいー!


 そのまま。距離を少しずつ縮めていく、相手のことをしっかりと見ながら、ゆっくりと近づいていく。


 恐怖の色に染まっていたその顔がいい感じに緩んできて、とっても魅力的になってきた。


 緊張も解けたみたい。


 そろそろいいかな……?


 私はその子に触ってみた。頭をなでると嬉しそうに笑ってくれる。


 やっぱりかわいい!


「ねえ、私におうちに一緒に行きましょう?」


 私が語り掛けると、うなずいてゆっくりとこっちに来てくれた。そのよちよち歩きみたいな小さい歩幅もまた可愛い。


「今日から私とお友達よ」


 しっかりと抱きしめて、そして痛くないように抱き上げる。そして私は体重を預けてくるその子を、自慢のもふもふを使ってふんわり包みこんであげた。


 そうするとすやすやと寝息を立ててしまった。


 ――可愛い!


 でもちょっと反省。どうしても欲しいあまりにちょっと強めに圧をかけてしまったかも知れない。


 まずは私と一緒に過ごすことに慣れてもらわないといけないでしょう。


 これからのことをいっぱい考えちゃう。


 どんな服を着せようかな。どんな風に躾けていこうかな。







 ――だってこの子は賢い頭を持っているもの。きっと私好みの素敵なペットになってくれるわ。

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