第33話 夜のファンタスマ号

交渉の結果、報酬は前回と同じ5万ゴールドになった。

コシネロと船主で折半するとのこと。ただし後払いだ。

実は前回ゲネオスは何も考えずに報酬交渉をしていたので、自分たちが相当高い報酬をふっかけていることに気付いていなかった。

その結果かなりの大金を手にしていたので、オレ達はあまり支払い時期にはこだわらなくなっていた。


ある快晴の日、オレ達は指定の船に乗り込んだ。

船の名前は「夜のファンタスマ号」と言った。3本のマストを備えた立派な帆船だ。

桟橋さんばしから船に移るとき、船腹せんぷくにいくつも小窓のような穴があることに気付いた。

小窓はいずれも木の板で閉ざされている。

オレは船は初めてだったので、そういうもんなんだろうと特に口にはしなかった。

振り返るとパマーダが乗船してくるところだった。

彼女は凄まじく厳しい顔をしていた。

「パマーダさん、どうしたの?」

オレが尋ねるとパマーダが答えた。

「よく分からない。けど船に乗り込んだ瞬間、全身に鳥肌が立った」


乗船後は甲板の上に立って、初めて見る船の設備を一つ一つ確かめた。

「船長、これは何ですか?」

ゲネオスは甲板に対して垂直に立てられた、ホイールのようなものを指さした。

「アンタたち、舵輪だりんも知らないのか?」

船長が乱暴に答えた。

このホイールをくるくると回すことで、船が進む方向を変えられるらしい。

ホイール自体は小さいが、大きく回すことでこんなにも大きな船の進む方向を変えられるのだ。


しかしおかしなことに、この船には舵輪が二つあった。

一方はホイールの真ん中にボタンがある。

ボタンがある方の舵輪は、全体に鎖を絡めてホイールが動かないように封印していた。

「ああ、あれは予備の舵輪だよ。間違って動かさないように普段は鎖で固定してあるんだ」

船員の一人が教えてくれた。

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