第32話 資本家 コシネロ

倉庫に保管されていた香辛料一式は、所有者不在となっていた。

所有者、つまり料理対決でコシネロと対戦する予定だった料理人は、自分のレストランで骨の一部が見つかった。一緒に殺された弟子たちも同じだ。

街の人たちは彼らをねんごろにとむらってやってから、残された食材をコシネロに譲ると決めた。

まあそれが順当だろう。コシネロであれば、それらの食材を最も有効に使うことができる。


「コシネロさんはリンゴ農園も買収しちゃったんですよ」

ウェイターがつい口を滑らせた。

香辛料は確保できたので、隠し味のリンゴの調達を進めた結果、近隣のリンゴ農園を三つほど買収してしまったらしい。

「お金は足りたの?」

パマーダが尋ねた。

「いいえ、賞金の半分を頭金として払い、残りは銀行から借りました」

パマーダにどやされていた頃が大昔のことのように、コシネロはリスクを取った決断を連発していた。


「リンゴはある程度確保できましたが、やはり問題となるのは香辛料です。倉庫にはまだ沢山ありますが、これがなくなると料理が作れません」

コシネロは、港町プエルトの貿易ビジネスについて説明を始めた。

「この辺りでは、季節によって東風と西風が交互に吹きます。しかしモンスターが現れるようになってから、西風しか吹かなくなりました。香辛料の産地に行くことはできても、持って帰ってくることができません」

「しかし、香辛料を積んだ船が最近入港したと言っていませんでしたか? 確かそれを例の倉庫に運び込んでいたはずです」

ゲネオスが尋ねた。

「はい、あの船は特別でした。理由はよく分かりませんが、あの船は逆風でもプエルトに戻ってくることができました。しかし最近は海の上でもモンスターが出るようになり、次の航海を見合わせているようです」


コシネロは姿勢を正してあらためてオレ達に向かい合った。

「そこで相談ですが、船に乗船して香辛料の買い付けにいってもらえないでしょうか? 皆さんがボディーガードになってくれると分かれば、彼らも船を出すと思います」

オレ達は互いに目を合わせた。

確かに、レッサー・デーモン退治を終えた以上、次の冒険を探さなければならない。

視線は自然と勇者に集まった。

ゲネオスはうなずき、コシネロの依頼に答えた。

「分かりました。引き受けましょう」

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