第8話 世話係は世話焼き


 謎のおじさんに連れられた悠夜達はある家の前に着いた。


「ここは俺の家だ、さあ入れ」


 古くボロボロの家に住んでいる謎のおじさん。何をされるか分からない恐怖で2人はずっとドキドキしていた。


「ほれ、これ使え」

「は、はい……」


 謎のおじさんは座布団を悠夜達に渡した。


「お茶入れてやるから座って待っとけ」


 そう言っておじさんは奥へと引っ込んでいく。

 2人きりになった悠夜達はこの状況をどうするか考えていた。


「なあ悠夜、俺たち食われるのかな……」

「そんな訳ないだろ、それより足は大丈夫なのかよ」

「あ……めっちゃ痛い」

「なら逃げれないよな……」


 しばらくするとおじさんがお茶を持って戻ってきた。


「ほれ、良い色のお茶が入ったぞ飲め」

「あ、ありがとうございます……」

「なんじゃその顔は、わしがなんか入れてると思ってるのか?」

「そ、そういう訳じゃ……」


 悠夜が怪しそうに見ていたのがばれたのか、おじさんはお茶をひと口ゴクリと飲んだ。

 すると突然おじさんは苦しみだした。


「うっ!!く、苦しい!!」

「ちょ、ちょっと!!大丈夫ですか!?」


 首元を抑え悶え苦しむおじさんを悠夜達は心配した。

 だが、その心配も無駄に終わる。おじさんはけろっとした顔で笑う。


「びっくりしたか?」

「…………」


 思わず悠夜は黙ってしまう。

 しかし、智史はテンションが上がっていた。


「マジびっくりしたー!」

「迫真だったじゃろ?」

「おじさん俳優になれるよ」

「じゃあ今からでもなろうかの!」


 妙なテンションの2人に1人取り残された悠夜は早くこの場から去りたいと思った。

 しかし、おじさんのある一言でその気持ちが吹き飛んだ。


「それにしてもこんなとこで若いもんが何しとったか?」

「悠夜が鴉御さんの家を見てみたいっていうから」

「バカ、そんなこと言うなよ」

「ほー、坊っちゃんに会いに来たんか?」

「……え?坊っちゃんって……?」

「坊ちゃんに会いに来たんかって聞いたんじゃ」


 悠夜にたくさんの謎が同時に降りかかった。坊ちゃんとは何者なのか?

 それに、話を聞く限りでは鴉御家とは親しい間柄である様にも見える。混乱しそうな悠夜は、ひとつひとつ整理していく事にした。


「あの、坊ちゃんって誰の事ですか……?」

「誰って秀久坊っちゃんの事だが?」

「秀久坊っちゃん……?」


 整理していくつもりだったが、悠夜の頭の中はさらに混乱してしまった。

 謎のおじさんが呼ぶ秀久坊っちゃんとは何者なのか、悠夜はさらに深く聞く事にした。


「秀久坊っちゃんって誰ですか?」

「知らずに来たんか?鴉御秀久っちゅうんじゃ」

「鴉御って!?今鴉御って言いました!?」

「ああ、言ったさ」

「鴉御家は一家心中を図って死んでしまったんじゃ……」

「世間ではそう言われてるがの……」


 謎のおじさんが言うには、鴉御家は黒雨事件の際に亡くなってしまったが、全員死んだわけではなく秀久だけ生き残ったという。

 しかし何故そのことをこのおじさんが知っているのか悠夜は疑問に思った。


「すいません、おじさんとその秀久坊っちゃんはどういう関係なんですか?」

「ん?わしか?わしは秀久坊っちゃんの世話係をしとったからな」

「世話係って…………ええぇぇえ!?」


 しかし何故その世話係がこの鴉御家の近くで未だに暮らしているのだろうか?さらに悠夜は疑問をぶつけた。


「で、でも、もう世話係もしてないのに何で近くに住んでるんですか?」

「いや、まだ世話係をしとるぞ」

「え、それってどういう……」

「あの一件以来風当たりが強くなってしまったらしくてな……わしが買い物やら料理やらを未だにしてるんじゃ」

「え、じゃあ秀久さんはまだあそこに住んでるんですか!?」

「そうじゃ、だからさっきから坊っちゃんに会いに来たのか?と聞いとるんじゃ」

「じゃ、じゃあ会わせてくれませんか!秀久さんに!」

「ちょうど料理を作りに行く所じゃったから一緒に行くか」

「ありがとうございます!」


 興奮する悠夜をよそに、ゆっくりしていた智史の痛みもだいぶ減りついに黒雨事件の中心人物である鴉御家と接触できる事になった。

 謎のおじさんは料理の材料を一通りカバンに詰め、準備を終わらせる。


「よし、準備はいいか2人とも」

「はい!大丈夫です!」

「あー!なんか緊張してきたー!」


 先程登ろうとした塀を横目に、門の前へと着いたおじさんと悠夜達。

 おじさんが頑丈な鍵を慣れた手つきで開け、2人はいよいよ鴉御家の敷地内へと足を踏み入れる……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る